先日、ラジオNIKKEIの経済番組「マーケット・トレンド」(毎週月~金曜日・午後6:00~6:15)に出演しました。今回は、日銀の金融政策についてお話ししました。

OA後、山本郁キャスターと(TOCOMスクエア・スタジオで)

日銀は7月末の金融政策決定会合で、従来の超金融緩和を修正したかに見える新方針を決定しました。具体的には、①これまでゼロ±0.1%になるように抑えていた長期金利が0.2%程度まで上昇することを容認する②民間金融機関が日銀に預ける日銀当座預金残高のうちマイナス金利の適用対象を従来の10兆円から5兆円に半減させる――などで、これまでの金融緩和による副作用をやわらげる内容です。
それでは、従来の金融緩和路線そのものを修正したのかというと、そうではありません。日銀は同時に、「2019年10月に予定されている消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持する」との考えを打ち出しました。これは、あくまで「当分の間、超金融緩和を続ける」という方針表明であり、日銀が緩和継続を約束したことを意味します。このような政策手法を「フォワードガイダンス」と呼びます。
実は今回の日銀の政策決定会合前から市場の一部では、日銀が金融緩和路線の修正に動くのではないかとの予想が出ていました。会合後の現在でも、いずれ近いうちに日銀は緩和からの出口に向かうとの観測が消えません。これは、長期間の金融緩和によって副作用が出ていること、日銀が消費者物価上昇率2%という目標を打ち出して5年以上たった現在でも未だに達成されておらず、達成の見込みもまだ立っていないことなどが原因です。
しかしよく考えてみれば、これはおかしな話です。目標未達成なのは事実ですが、それは日本経済がデフレから完全に脱却しきれていないからです。にもかかわらず金融緩和そのものを修正する、または緩和をやめるというのは、デフレ完全脱却をあきらめるに等しいのです。
ただでさえ現在の日本経済はトランプ米政権の強引な保護主義や米中貿易戦争、それに伴う新興国経済の動揺など、リスクが目白押しです。それに日銀が指摘するように、2019年10月には消費増税が予定されており景気への影響が気がかりです。このような中でもし日銀が金融緩和の縮小・終了に向かえば、景気は急速に悪化することになりかねません。
ましてや、現在の黒田日銀総裁は安倍政権との協調路線をとっており、アベノミクスを台無しにするような出口戦略取ることは考えにくいのです。「出口につながる第1歩」と受け取られること自体を避けるでしょう。
金融緩和の長期化によってさまざまな副作用があるのも事実ですが、それも「副作用があるから金融緩和をやめる」というのでは本末転倒です。金融緩和の縮小や終了が日本経済に与えるマイナスは、緩和による副作用の比ではありません。必要なことは、緩和をやめることではなく、副作用をできるだけ小さくする方策を練ることです。
こうして考えれば、今回の“政策修正”も、緩和そのものの修正ではなく、「副作用に配慮した調整」と見るべきでしょう。日銀の課題は今後も緩和継続を一段と明確にし、同時に緩和による副作用を最小限にする対策をきめ細かく実施していくことです。この点では日銀はまだ努力の余地があると思います。
しかしそもそも、「消費者物価上昇率2%」の目標未達成について、日銀だけを責めるのは酷というものです。デフレ脱却という大仕事は、日銀と政府が共同で取り組んでこそ成し遂げられるものだからです。
政府サイド、つまり安倍政権はこれまでアベノミクスによって景気を回復させてきました。安倍政権がスタートする前の5~6年前と比べれば、景気は格段に良くなっています。日経平均株価は8600円台から2万2000円台に(一時は2万4000円台と26年ぶりの高値まで上昇)、円相場は70円台から110円台まで円安となり、有効求人倍率は0.82倍から1.62倍と約44年ぶりの高水準に、上場企業は過去最高益など、「過去最高」「バブル期並み」といったデータが続出するようになっています。
それでも消費者物価上昇率2%という目標が未達成なのは、購買力の高まりが不十分なことが最大の原因で、それは賃金上昇が依然として鈍いこと、年金・医療・介護など将来への不安が大きいことなどが壁となっているのです。この壁は、金融政策だけで打ち破れるものではなく、政府のさらなる強力な政策が必要です。
この観点からあえて大胆に予想するなら、安倍政権は2019年10月に予定している消費増税をさらに延期する可能性がゼロではないと思います。もし例えばトランプ政権が自動車関税の大幅引き上げや米中貿易戦争拡大などに突き進んで世界情勢が現在より悪化する場合、あるいは国内政治情勢が不安定になるなどの場合、そういう中で消費増税を実施すれば景気に悪影響を与え、デフレに逆戻りするリスクが高まると安倍首相が判断すれば、消費増税延期はあり得ない話ではないとみています。
番組内容は、ラジオNIKKEIのHPの番組ブログで山本郁キャスターが紹介してくれていますので、そちらもご覧ください。
http://blog.radionikkei.jp/trend/post_1005.html