大阪経済大学はこのほど、2018年度第1回の「北浜・実践経営塾」を開催しました。ゲスト講師はサクラクレパス代表取締役会長の西村貞一氏で、テーマは「ブランド育成~数々の失敗」でした。


サクラクレパスの創業は1921年(大正10年)で、97年の歴史を持つ老舗企業です。ほとんどの人が幼い頃に同社のクレパスを使って絵を描いた経験を持っていることと思います。それほどに親しまれている同社ですが、長年にわたってクレパス以外の新製品を次々と開発し、今ではクレパスの売り上げは全社の3%程度にすぎません。
現在、同社が扱う製品はサインペン、ボールペン、水性・油性のマーカー、消しゴムなどの筆記具から、学習帳、ファイル、レーザーポインターなどの学用品・事務用品や教育支援事業など幅広く、さらには色材技術を応用して工業や医療分野、エレクトロニクス分野まで手がけています。
ここまで事業を拡大してきたのは、新しいことに挑戦するとういう同社の気風が背景にあり、数々の新製品を生み出してきました。しかし西村会長によれば、成功した新製品と同じぐらい、いやそれ以上に失敗した新製品があるそうです。
講演では、失敗作の例もいくつか披露してくださいました。
例えば、学校教育で版画が取り上げられるようになったので版画用絵の具を売り出しましたが、その後、学校での版画は思ったほど広がらず売り上げが伸びなかったそうです。販路が学校だけに限られていたのが失敗の原因と西村さんは振り返っていました。
また、1984年には水性ボールペンと油性ボールペンの双方の特徴を併せ持つ「ボールサイン」という商品を開発し、一時は女子中高生を中心にヒットしたものの、デザインに凝りすぎて価格が高かったことやノック式への移行が遅れたため、だんだん下火になったそうです。
その数多くの失敗がありましたが、それらすべてを糧にして新たな商品開発に活かし、幅広い商品群を持つ今日のサクラクレパスを作り上げてきたと言えます。
今後の事業展開のポイントは海外とネット通販が大きなポイントです。まず海外ですが、同社はすでに1980年代から欧米への輸出拡大に取り組むとともに、1986年に米国現地法人を設立、1991年にはオランダの絵の具メーカーを買収、次いで1997年にもオランダの鉛筆メーカーを買収するなど、海外事業に力を入れてきました。現在ではそれらに加えて中国・上海とベトナムに製造・販売拠点を設立、現在ではグループ全体の売上のうち海外が40%を占めるようになっています。西村さんは「国内市場は少子高齢化で大きな伸びは見込めないが、海外はこれからも拡大していく」と力を込めていました。
もう一つのポイント、ネット通販にも取り組んでいます。オフィス用品のネット通販大手、アクスルと提携しているほか、独自に学校向けカタログ通販事業「エデュース」を展開しています。これは物販にとどまらず、保育所や幼稚園の先生を対象に保育案の提案、動画による講座など、教育支援を提供するものとなっています。
こうした同社の幅広い事業展開ぶりから「社名変更してもいいのでは」との意見が外部から寄せられることがあるそうですが、西村さんは「次の次の社長の代になっても社名変更はしない」ときっぱり。「多くの人が『子どものときに親しんだあのクレパス』との思いをもっていただいている。そのことを大事にしていきたい。それはわが社の財産」と最後に語ってくれました。