大阪経済大学はこのほど、2017年度最後の「北浜・実践経営塾」を開催しました。今回のゲスト講師は、伊藤園取締役副会長の江島祥仁氏で、「世界のティーカンパニーめざして~イノベーションによる新市場の創造」でした。




江島氏は、伊藤園の前身会社が設立されて間もなくの1968年に入社以来、営業の第1線で活躍し、今日の伊藤園を作り上げた最高幹部の一人です。当時、お茶の販売は専門店が茶葉を計り売りするのが主流でしたが、伊藤園は初めて包装茶を開発してスーパーや食料品店向けに販路を新規開拓しようとしていました。包装茶は業界初の真空包装・二重包装で、賞味期限も印字するという画期的なものでしたが、最初は原料の茶葉の調達にも苦労する状態でした。当時のお茶の栽培農家は農協などにお茶を販売するというルートが出来上がっていたためで、伊藤園は直接農家の所へ足を運んで現金で売ってもらい、やっとのことで原料を確保していたそうです
そんな中、1979年に日本で初めてウーロン茶の輸入代理店契約を結び、ウーロン茶の販売に乗り出しました。翌年には缶入りウーロン茶も発売しました。缶入りウーロン茶は世界初で、これは無糖飲料の草分けでもありました。
ウーロン茶の発売当初、同社はウーロン茶をウィスキーで割るという飲み方を提案していました。当時、神戸支店長だった江島氏は「夜の街作戦」を展開したそうです。三宮の飲み屋街で毎晩、支店の営業マンたちとビルごとに手分けして飲食店に入り営業して回るというものでした。西日本の支店は神戸だけだったため、大阪の北新地、博多の中洲などにも出かけて行ったそうです。
ちょうどその頃に思いもかけない出来事が起こります。当時の人気番組「夜のヒットスタジオ」に出演したピンクレディが、「なぜそんなにスタイルがいいの?」と聞かれて「ウーロン茶を飲んでいる」と答える一幕があり、その翌日からウーロン茶が爆発的に売れたというのです。「まさに神風が吹いたようなものでした」と江島氏は振り返っていました。
こうしてウーロン茶が普及するようになりましたが、そこにはもう一つ同社のユニークな戦略がありました。ウーロン茶の原料茶葉をサントリーなど飲料メーカー各社に販売したのです。普通なら、自社の独占市場になりうるところですが、他社にも原料を供給して多くのウーロン茶製品を送り出してもらうことで市場全体を拡大しようとの狙いでした。伊藤園はまさにウーロン茶市場のパイオニアとなったわけです
一方、日本茶のほうでは、1985年に缶入り日本茶を開発し「缶入り煎茶」の商品名で発売しました。実はこれも世界初の日本茶飲料でした。日本茶を缶入り飲料にするのは技術的な難しさがあったそうです。日本茶は空気に触れると酸素によって劣化して赤くなってしまいます。それを防ぐため、日本茶を缶に充填する最終工程で窒素ガスを吹き付けて缶の内部から酸素を追い出す製法を開発して缶入り煎茶を完成させたとのことです。
ただ江島氏によると、食生活の変化によって日本茶を飲まない人が増え、若い人の中には「煎茶(せんちゃ)」の字が読めなくて「まえちゃ」などと言われたこともあったそうです。それでもその頃からコンビニでおにぎりが売れるようになり、それにつれて缶入り煎茶も徐々に売上が増えていきました。  
そして「缶入り煎茶」は発売から4年後に商品名を「お~いお茶」に変更します。すでに、あの「お~いお茶」と呼ぶ有名なCM放送していましたが、それを商品名にしたわけです。
続いて取り組んだのが、ペットボトルの日本茶でした。これにも技術革新がありました。
ペットボトルは加熱殺菌ができない、茶葉に光が当たると劣化してオリができるなどの難点がありましたが、それらを新しい技術や製法を開発して解決し、現在のようなペットボトル入り日本茶の製品化に成功したのでした。これも世界初。
 今では健康志向もあって、ペットボトルの日本茶はすっかりお馴染みとなっています。江島氏は「その時その時は試行錯誤の連続で、目の前にある新製品を売るのに一生懸命だっただけ」と謙遜していましたが、その過程では伊藤園の技術開発による新市場創造という一貫した戦略があったと言えます。
 同社がいま力を入れているのが海外市場の拡大です。最近は欧米でも日本茶が注目されており、輸出拡大とともに、海外でも日本茶のPRなどを強化しています。特に重点市場と位置づけているのは米国で、ニューヨークには販売店と和食レストランを出店しています。
今やお茶は国際商品となりつつあり、同社にとって海外は成長が見込める有望市場です。
 ただ最近は問題もあるそうです。日本茶が海外で普及するにつれ、中国などで作られた粗悪な抹茶、というよりまがい物が出回るようになっているというのです。江島氏は「抹茶の品質基準を明確に定めて国際ルールにするなど対策を早急に打つ必要がある。そのためには政府に動いてもらわねば」と訴えていました。



 これで今年度の「北浜・実践経営塾」は全日程を終了しました。2018年度も6月以降に開講します。詳細は大学のHPなどで後日告知しますので、またふるってご参加ください。