大阪経済大学ではこのほど、社会人を対象とする公開講座「北浜・実践経営塾」(11月)を開催しました。今回のゲスト講師はパナソニック執行役員の小川理子氏で、「テクニクスにおける感性価値創造への挑戦~技術と心をつなげる~」と題して講演していただきました。

 

 

小川氏は、男女機会均等法が施行された1986年に松下電器産業(現・パナソニック)に入社してすぐに音響研究所に配属され、当時のテクニクス製品など音響機器の研究開発に携わってきました。ちょうど音のデジタル化が進行する時代に対応して、高品質の音を作り上げ同社の音響部門を支えてきました。

2000年代に入ってからは、インターネット事業やCSRなどの部門に異動となりましたが、2014年に、往年の高級オーディオブランド「テクニクス」復活プロジェクトの責任者に任命されて、テクニクス復活の立役者となりました。現在は同社の歴代2人目の女性の役員として、ホームエレクトロニクス部門の社内カンパニーであるアプライアンス社の副社長を務めておられます。

と同時に、世界的に活躍するプロのジャズピアニストでもあります。技術者としての会社員生活の傍ら、30歳の時に大阪市内のライブハウスなどでジャズピアニストとしての活動を開始しました。やがて米国の有名なジャズ・フェスティバルに招待されて、大絶賛を浴びるほど米国で注目される存在に。アルバムも何枚も発売し、米国でのメジャーデビューの誘いもあったそうです。

まさに「二足のわらじ」の見本のような人生です。しかもその両方を別々に活動しているのではなく、双方が大いに関係しているというのです。小川氏によると、ピアニストとして感性が「音」を徹底的に追求する仕事につながり、一方でビジネスのお客様本位という経験がアーティストとしての活動にも生きているそうです。

こうした活動と経験が、2014年のテクニクス復活という大プロジェクトで結実したと言えます。小川氏が同プロジェクトの責任者に着任した時から復活宣言発表までわずかで4カ月しかなかったそうですが、高級ブランド復活にふさわしい製品を作り上げるため一切妥協しませんでした。音質やデザインなどあらゆる面から試作品をチェックし、何度もダメ出しをして部下から恐れられたそうです。さらには復活のお披露目記者発表会のための舞台装置やプレゼンテーションの準備なども入念に行い、不眠不休の4カ月でした。

そしてドイツ・ベルリンで行われたその記者発表では舞台の上で小川氏自らピアノを演奏しプレゼンテージョンもするという異例の演出を凝らし、拍手喝采を浴びました。こうしてテクニクス復活から3年。すでに18機種を発売し、オーディオ愛好家を中心に高い評価を得ています。

こうしてみてくると小川氏の二足のわらじ人生は順調だったように見えますが、実は苦難もあったようです。若手の音響研究所時代、担当していたプロジェクトがバブル崩壊のために終了となり仕事が一時なくなったこと、二足のわらじを始めて間もない頃に先輩から「両方とも中途半端だ」と厳しく指摘されたことなど、何度か挫折やつらい経験があったそうです。しかしそれが次のエネルギーになってきたといいます。ピアノも一日でも練習を休むとだめだそうで「どんなに仕事が忙しくても毎日、夜または朝に1時間ほど集中して練習している」と苦労話をしてくれました。

パナソニックは来年、創業100年を迎えます。小川氏が率いるホームエレクトロニクス部門はいわばパナソニックの祖業でもあります。今後のビジネスについて「オーディオの世界は実は男性中心。いまの多様性の時代、もっと女性がオーディオに親しめるようになってほしい」「今後はAIスピーカー、ロボットのオーディオなど音と家電の未来は広がっている」と指摘し、最後に「100歳までピアノを弾いていたい」と語ってくれました。

パナソニックが次の100年をどう事業展開していくか、それを最後まで見届けることはできませんが(笑)、日本の製造業の未来を象徴するものになることは間違いなさそうです。

 

 今回の小川氏の講演は、毎日放送(MBS)が「ザ・リーダー」という番組で小川氏の密着取材を行っており、テレビカメラの取材が入りました。年末にOAされる予定です。乞うご期待!(今回の様子がどれぐらい使われるかはわかりませんが)

 

「北浜・実践経営塾」の次回は1220日(水)、ゲスト講師はダイビル会長の山本竹彦氏です。ふるってご参加ください!