日本の景気は長年「消費低迷」と言われ続けてきましたが、実は最近は、皆さんがイメージしている以上に回復しています。『会社四季報オンライン』の連載「マクロデータはこう読むと面白い」の最新号で、その回復ぶりを詳しく書きました。

https://shikiho.jp/tk/news/articles/0/178022

 

このコラムを掲載した後の今朝(630日)、厚生労働省が発表した5月の有効求人倍率は前月より0.01㌽上昇して1.49倍となりました。これは19742月以来、433カ月ぶりの高水準です。

有効求人倍率とは、全国のハローワークに登録して職を探している人(求職者)1人に対して企業の求人数が何件あるかを示すもので、全国のハローワークに登録されている「求人数(有効求人数)÷求職者数(有効求職者数)」で表されます。

最近の有効求人倍率は毎月のように上昇が続いており、4月には1.48倍となって、バブル期のピーク(1.46倍=19907月)を上回っていました。それが5月にはさらに上昇して1.49倍となったわけです。

1.49倍という数字だけ見ていてもピンとこないかもしれません。でもこれを次のように考えてみてください。求職者が100人いるのに対して求人数が149件あるということです。数字上は、職を探している人の全員がどこにでも就職でき(職種や待遇を無視して言えば)、なお求人が余る状態だということです。経済データというと無味乾燥、とっつきにくいと感じている人が多いと思いますが、このように数字からイメージを膨らませることによって、生きた経済の姿が浮かんでくることもあるのです。

実際、1.49倍という数字はバブル期のピーク時を上回って、433カ月ぶりの高水準に達しているのです。いかに雇用情勢が良好であるかがわかるでしょう。全国の数字だけでなく都道府県別の数字を見ると、雇用の良好ぶりがもっとはっきりしてきます。バブル期は多くの人が「あんなに景気のいい時はなかった」と感じていますが、じつは意外なことに6道県では1.0倍未満のままだったのです。しかし現在はすでに14カ月連続で全都道府県(就業地)で1.0倍を上回っています。

現在は非正規社員の割合が高くなっているのでバブル期と単純比較はできませんが、それでも4月の正社員の有効求人倍率は全国で0.99倍と、200411月の統計開始以来で最高となっています。

ただ数字と言うものは必ず両面を持っています。これだけ有効求人倍率が高い、つまり求人が余っているということは、企業にとっては人手不足を意味します。極端な人手不足が続くと企業活動を制約することになるので、あまり好ましいことではありません。宅配便の人出不足などが問題になっているにも、その代表例です。

最近は、こうした人手不足という“マイナス面”に焦点が当たっています。しかしそれに対応して企業は人手確保のためにパート従業員の時給をアップさせ始めており、非正規社員を正社員に切り換えたり正社員の採用を増やすなどの動きも広がりつつあります。これが先ほどの正規社員の有効求人倍率の増加となって表れているわけですが、こうした雇用拡大や雇用条件の改善はやがて賃金上昇と消費増加にもつながる可能性があるのです。

「そんなことを言われても景気回復の実感がない」という言葉がよく聞かれます。現在の景気は力強さに欠けていることは確かですし、懸念材料が多いのも事実です。しかしその“実感”が実態からずれている場合もあるのです。前述の有効求人倍率のバブル期の都道府県別の数字がその一例です。数字をしっかり見ないで“実感論”だけで景気を論じるのは適切ではありません。

現在の景気回復はそうした“実感論”からやや過小評価されているきらいがあります。そのため、今回はあえて消費と雇用の回復に焦点を当ててみました。