皆さん、こんにちは。
「会社の数字を知る事は会社を良くする第一歩」がモットーの公認会計士・税理士 岡田章宏です。
タイトルの通り、アニメ化もされた「まおゆう魔王勇者」「ログ・ホライズン」などの代表作で知られるラノベ(ライトノベル)作家・橙乃ままれ(本名・梅津大輔)さんが脱税容疑で東京国税局に告発されたというニュースがウェブ上でも大変話題になっています。
ニュースによりますと、著作権使用料は橙乃さんの著作権管理会社に入金されるようになっていたのですが、会社の方で3年間の使用料収入1億2千万円を申告していなかったそうです。
あくまで「容疑」の段階ではありますが、橙乃さん自身は申告漏れに相当する約3千万円は既に納付したとのことで、故意か過失かは分かりませんが少なくとも非は認めていることだけは確かです。
以下、現時点で判明している情報を基に、個人的な見解と推測を述べてみたいと思います。
まず、どのような経緯でこのような「脱税」が生じたのでしょうか。
まだニュースが出たばかりで詳細は不明ですが、「収入は預金口座に入れたままだった」というところ、隠し口座を使うなどの手の込んだ隠蔽工作をしているようには見えません。
もし悪質な隠蔽工作を伴っていたのであれば、少なくとも手口までは国税局も把握しているはずですから、大々的に報じられるはずです。
だとすると、3年分の収入1億2千万円は(おそらく一部ではなく全額)完全に「申告し忘れた」可能性が高いと私は見ています。
もしかしたら、橙乃さんは「会社は赤字になるから」あるいは「使用料から源泉税が引かれるから」、申告不要と誤解したのではないのでしょうか。
たとえば、著作権管理会社に使用料収入5千万円が入っても、代表である橙乃さんに6千万円の役員報酬を払えば会社は1千万円の赤字になります。
それ以外の経費を会社名義で支払っていることも、十分考えられます。
しかし個人事業主と違って、どんなに赤字であっても会社が存続している限り、必ず決算月の2ヶ月以内(たとえば3月決算であれば5月末まで)に申告しなければなりません。
そして普段の会計処理をしていない限り、原則として損金(経費)には認められません。
また、赤字であっても住民税の「均等割」は常に課税されます。
これは資本金の金額によって異なりますが、最低でも毎年71,000円(都道府県21,000円+市町村50,000円)を収めなくてはいけません。
あるいは、「税務当局から言われたときに申告すればいいや」と思っていた節もあったかも知れません。
しかし管轄の会社・個人だけで膨大な件数になりますので、1件1件を適時にチェック出来るわけではありません。
その結果、もっと早く手を打てばダメージもより少なく済むはずのケースも往々にしてあります。
もう一つの源泉税ですが、ロイヤリティや著作権使用料が法人ではなく個人の作家に対して支払われる時は、給料と同じようにあらかじめ源泉所得税が差し引かれることがあります。
源泉所得税とはいわば税金の仮払であって、確定申告をすれば過不足分を納付ないし還付となりますが、実際に不足が生じないのであれば無理に申告する必要はありません(還付はもらえませんが)。
ただし法人である会社に対してはこのような源泉徴収制度はないので、やはり申告するしかありません。
なので、もしかしたら個人事業主の延長線上のような感覚で考えていた可能性もあり得ると思います。
続いてこの場合、どのような課税関係になるでしょうか。
一番鍵となるのは、今回の件で「仮装」ないし「隠蔽」が認められるかどうかです。
通常、申告そのものを怠った場合は「無申告加算税」が加算されます。
本税の15%なので、450万円が申告漏れの3千万円に加算されます。
(ちなみに指摘される前に自ら申告すれば、5%で済みます)
但し悪質な仮装・隠蔽が伴っていると見なされる場合、更に重い「重加算税」が課せられてしまうのです。
この場合は40%(申告している場合は35%)となってしまうので、上乗せされされるのは1,200万円になります。
もし課税を逃れるために何らかの隠蔽工作を行い、故意に申告をしなかったと国税局が判断すれば、1,200万円の重加算税が課せられるでしょう。
もっとも実務上は、本人の意思に関わらず隠蔽工作の証拠など客観的に明らかな証拠があるかないかを厳重に判断しますし、納税者側が重加算税を不服として「国税不服審判所」に申し立てた結果決定が覆った事例もあります。
橙乃さんの税に対する考えは知るよしはありませんが、明確な確証がない限り国税局も重加算税を課すとは考えにくく、前述の通常の加算税450万円となるのではと個人的には思います。
上記の加算税に加え、「延滞税」も発生します。
これは納期限(実際には修正申告の日)の翌日から納付日までの日数に応じて課せられる延滞利息のようなものであり、最初の2ヶ月間は年7.3%(1日に換算すると0.02%)、それを過ぎると年14.6%です。
つまり、橙乃さんが修正申告から本税の3千万円を納付するまで3ヶ月経っていたとすると72万円が発生しますが、申告と納税を同時に行えば1日分の6千円で済みます。
なお、加算税及び延滞税は本税の納付後、税務当局の方で算定した上で追って納付書が送られてくる仕組みです。
以上を総括しますと、橙乃さんは知識不足か多忙を理由に申告そのものを失念していた可能性が高いと私は思います。
おそらく、橙乃さん個人の確定申告は行っており、自ら法人の申告を行うだけの一定の知識もあったのでしょう。
もちろん相応の報酬は生じますが、決算の時だけでも税理士に依頼をしていれば十分に避けられた問題です。
ただ事務的な知識だけでなく、様々な切り口から税負担の関係や、生じるであろうリスクを事前に読み取り、クライアントにアドバイスするのが税理士です。
橙乃さんにとっては痛恨に違いありませんでしょうが、今回の体験を今後に活かし、再び作家として全力投球して頂きたいと私は考えます。
以下、ヤフーニュースより転載。
小説家「橙乃ままれ」告発=3000万円脱税容疑―東京国税局
時事通信 4月13日(月)11時36分配信
著作権管理会社「m2ladeJAM」(マーマレードジャム、東京都葛飾区)が、法人税約3000万円を脱税したとして、東京国税局が同社と「橙乃ままれ」のペンネームで知られる小説家の梅津大輔代表(41)を法人税法違反容疑で東京地検に告発していたことが13日、分かった。
関係者によると、梅津代表は2009年ごろからインターネット上に、ファンタジー小説「まおゆう魔王勇者」や「ログ・ホライズン」を投稿。人気が出たため書籍化やアニメ化され、m2社は出版社などから著作権使用料を受け取っていた。
しかし、梅津代表は2014年3月期までの3年間で得た使用料約1億2000万円を全く申告せず、法人税約3000万円を脱税した疑いが持たれている。金は銀行口座にそのまま保管していたという。
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