【「幸福の黄色いハンカチ」を教室に-吉村英夫】(下)成長物語が生徒を変えた | Hideoutのブログ

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 四月に古稀を迎える爺ののブログです。

 日本を取り戻したい……そんな事をエントリーしたい。

 覚醒したら、こんな見方になるのかなと言うものに。

    夕張は生まれ故郷でもあり、心の故郷でもあるけど。母が終焉の地でもある。


産経ニュース
https://www.sankei.com/entertainments/news/190831/ent1908310002-n1.html
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 映画『幸福の黄色いハンカチ』のシナリオを使った定時制高校での授業。初回は、主役の勇作(高倉健)が殺人罪で服役していたことが明らかにされたところまで進んだ。2回目の授業では、番長格の生徒が「早く早く」と、シナリオを各席に配布してくれる。

 勇作の妻光枝(倍賞千恵子)は、刑期満了の彼を待っているのか-。生徒は気がかりで仕方ないのだ。

 欣也(武田鉄矢)が運転し、朱美(桃井かおり)と勇作を乗せた車が夕張の町を走る。次第に不安になってくる。勇作を迎え入れる合図の黄色いハンカチは見えるか。

 「そうねえ、引越したかもしれないもんねえ、そん時はしようがないなあ」のせりふ。そんな自動車の3人の気持ちをシナリオを読む生徒も共有している。

 私がふと気づく。鼻水を吸い込む音が聞こえる。あれっ、女生徒が泣いているのだ。あっ、こっちからも。生徒自身が劇中に入り込んでいるのがわかる。

 そして「細長い黄色い物。それは高いこいのぼりのさおの上から下までびっしりと連なった何十枚もの黄色いハンカチである」のト書き(場面説明)。

 教室のあちらこちらから吐息がもれる。感動が広がる。私は「ああ、目が痛い、疲れた、しんどいわ」と涙をこらえるのに必死。

 「よかったぜ、先生。たまにはこんな授業もせなあかん。わしらも良いもんは良いと分かるんや」。次々と出る感想が的を射たもので、議論が高まっていく。授業ではかつてなかったことである。

 ある生徒はこう言った。「映画の主演は高倉健らしいが、この映画の主人公は武田鉄矢だぜ」。そうなのだ、女性をナンパすることばかり頭に描いていた青年が、人間信頼に目ざめていく話である。中年男女の愛の物語から、はすっぱな青年が真の愛情が何かを学んでいく成長物語なのだ。

 定時制の生徒は、いつからか勉強嫌いにさせられている。彼らが落ちこぼれなら、そこへ追い込んだ学校や教師の責任が問われる。直接には私の授業のあり方の問題でもある。

 私がシナリオを持って職員室に帰ると、3人の生徒がやってきた。「シナリオ売ってほしいよ。欠席者に読ませるから」。そして百円硬貨3枚を私に握らせた。手の中で温められた硬貨のぬくもりが私の体内にしみ込んでいく。

 「わかった。他の授業でも読むから、あとで貸し出す」「頼むよ、センセイさん」

 半世紀も教室に立っていて、最も私の心が揺さぶられた瞬間だった。あぁ教員をしてよかった。以後20年、女子校、進学校、大学の映画講座を担当したが、このシナリオ学習を続けた。いずれも反応は最高。黄色い表紙の35ページの冊子は、陽ヤケしすり切れかかっているが、私の部屋の本箱に今も残してある。
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    廃れ行く町。思いでだけしか残っていない町。