少し涼しくなってきたのか?
テギョンにはまだまだ蒸し暑く感じる室内も、少し離れた机のそばで眠るミナムにとっては肌寒いのであろうか、タオルケットを肩までしっかりかけている。
仕方がないな。
この部屋の室温を完全に掌握しているテギョンは、隠し持っているクーラーのリモコンを手に取り、1度だけ上げた。
心なしか、先ほどよりも気持ち良さそうにタオルケットから腕を出している。
なんとなく幸せな気分で、ミナムの顔を見ていると、今度は日焼けしているのが目についた。
どうしてこいつはこんなにも黒くなっているんだ!?
確か…かなりの色白だったはず。
顎に手をやり、自分が仕事でいなかったここ数日について考えてみると…
そうか、そう言えば、シヌもジェルミも仕事はなかったはずだから…。
海かプールか、遊園地か、とにかくミナムが喜びそうな夏の遊びをしてきたことが容易に想像できる。
くそっ!
この俺様がA.N.JELLの為に頑張って働いていた時に、なんということだ!そもそも、明日から俺様が休みなのを全員知っているはずなのに!!
イライラが止まらないテギョンが、すかさず室温を2度下げてやる。
ふんっ!
そんなに日焼けしているんだ、これくらいがちょうどいいだろう!!
また肩までタオルケットをしっかりかけ直すミナムを見て、意地悪な笑みを浮かべるテギョン。
んっ?
あの枕元に置いてある写真は何だ?
そろりとベッドから出て、その写真を見てみると、そこには楽しそうに笑うミナムが海に浮かんでいる。
やっぱり!俺様の読みに間違いはなかった!海だったか!
三人が海で戯れている写真を次から次へ見ていると、次はプールサイドでトロピカルなジュースを飲むミナムが。
なに!?プールへも行ったのか!
まさか…他にはないだろうな!?
慌てて写真を進めていくと…
なんということだ!遊園地にまで!!!
ジェットコースターから手を振るミナムが満面の笑みを浮かべていた。その隣にはシヌもいる。
テギョンはもう今にも怒鳴りつけたい衝動をなんとかこらえてベッドまで戻ると、すかさず室温を5度も下げた。
ミナムは眉間に皺をよせ、タオルケットを体に巻きつけている。
ばかめ!
俺様に内緒で夏を満喫しているから、こんな目に遭うのだ!!
少しだけスっとしたテギョンは、手にしたままの写真を再度、食い入るように見直し始めたのだが、連日の激務のせいか、そのまま気がつけば眠り込んでしまった。
室温を下げまくったままで…。
翌朝、テギョンとミナムが大風邪をひいたことは言うまでもない。
俺は一体なにをしているんだ…せっかくの夏休みだったのに…
咳をしながら、昨夜と同じようにタオルケットにくるまって冷えピタを貼っているミナムが、何故だか嬉しそうに自分を見ている。
「な、何なんだ!?」
「あっ!す、すみません!久しぶりのテギョンさんだったので思わず…。」
そう言うと、顔を赤らめて目をそらすミナム。
そんなミナムを目にして、どうしてだか心が穏やかになっていくテギョン。
まぁ、こんな夏の終わりもいいものだな。
二人で風邪をひいて、二人でゆっくりと同じ部屋で眠る一日を、とても幸せなものに感じたのだった。![]()
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お久しぶりです!皆様お元気でしたか?
まだまだ暑い日が続きますが、テギョンみたいに風邪ひかないようにして下さいね
ある時、気がつけば、ミナムの机の上に魔法のランプが置いてあった。
もちろんミナムは魔法のランプの存在を知らないので、ただの古ぼけたランプだと思い、少し汚れていたので拭いてみた。
すると、青い大きなランプの精が出てきたのだから、驚き過ぎて腰が抜けてしまった。
そんなミナムを指差して大笑いしながら、
「本物のランプの精だよ。貴方の願いを3つ叶えよう。」
と、信じられないことを言いだした。
ミナムは夢に違いないと思いこみ、そうであるのなら、せめて夢の中だけでも幸せな気持ちを味わってみたいと思った。
「初めまして、コ・ミナ…ミニョです。あの…図々しいお願いなのですが…よろしいでしょうか?」
「なんだっていいんだぜ!さぁ言ってみて!」
「ああの…ファン・テギョンさんに好きになってもらいたいです。」
「うーん…それは困ったなぁ…人の心を変えることはできないんだよ。でも…君はとても素直で真面目で誠実に生きてきた人だって分かるから。今回だけはそれを叶えてあげる!」
そう言うと、ランプの精の掌からキラキラ輝く光が溢れてきて、その光はミナムを包み込んだ。
そこからミナムの意識は途切れ、気がつけば自分のベッドの中で朝を迎えていた。
「あーあ、その先が見たかったのになぁ。」
夢でさえもそんなにうまくは行かないものなんだなぁ、なんてしみじみしていると、トントンとドアをノックする音が。
「はーい。」
「お、おはよう。」
「えっ?テギョンさんがおはよう??」
それに、扉の向こうからのぞかせたテギョンの顔がとてつもなく赤かったので、ミナムはどうしたのか分からずに、ただただ首をかしげた。
「おはようを一番に言いたくて…。」
「はぁ??」
「だ、だから…お前の顔が見たかったんだ!それくらい分かれ!」
「………。」
さっきの夢よりよっぽど今起きていることの方が夢のようだ、と、ミナムはぽかんと口を開けた。
「と、とにかく朝ご飯用意してあるから早く下りてこいよ!」
真っ赤な顔をしたテギョンが一瞬愛おしそうな瞳をミナムに向けてから部屋を出て行く。
もしかして…。現実!?
そんなことある訳ないって思っているのに、淡い期待を抱いてしまう自分に軽く首を振りながら、それでも机の上を確認してしまう。
するとそこには、夢の中で見たあの魔法のランプがそのまま置いてある。
ミナムは慌ててTシャツの裾でランプをこすってみると、やっぱり夢の中で見たままの青色の大きなランプの精がモクモクモクっと現れたではないか。
「夢じゃないよ!これは現実だよ!さぁ次の願いは?」
ランプの精はにやりとした笑みを浮かべてミナムを見下ろしている。
「と、ととということは…ギョンさん…私のことを好きなの??」
「だーかーらー、そうだって言ってるでしょう?確かめておいでよ!」
「た、確かめるって!?」
「私のこと好きー?とか聞いてみたりしちゃったらいいじゃない。」
「えええええええ!そ、そんなこと言ったら殺されますよー!」
「とにかく行っておいで!俺はもう少し眠るから。」
そう言うと、またモクモクモクっと煙にまかれてランプへと戻って行った。
本当に!?本当に本当にテギョンさんが私のことを好き!?
部屋の中をウロウロジタバタしながら、何とか気持ちを落ち着け、とにかくテギョンの元へ行ってみることにした。
「ミナム、遅いじゃないか。」
ミナムがリビングに下りた途端、テギョンはミナムに走りより、その肩を抱いて席までエスコートする。
「テ、テギョンさん…あの、私はミナムですよ?誰かと間違えていないですか?」
嬉しくてたまならないのだけれど、普段のテギョンからは考えられない行動に、少し戸惑ってしまうミナム。
「なにを言っているんだ、お前はコ・ミナムじゃないか、俺の大好きな。」
「え?」
「俺はお前が好きだ。大好きなんだ。」
あ、頭が混乱するー!テギョンさん本当に私のことが好きなんだー!!
ミナムが真っ赤な顔でオロオロしているのを、これまた愛おしそうに見つめるテギョン。そして、そんな二人を茫然とながめているシヌとジェルミ。
「一体どうしちゃったの?」
ジェルミが泣きそうな顔でシヌに問いかけると、シヌも暗い顔でただ首を振る。
「お前はどうなんだ?コ・ミナム。俺様のことが好きなんだろう?」
真剣な表情でのぞきこまれ、ミナムは胸がつぶれそうな程にドキドキして、何度も何度も首を縦に振っていた。
「ふん、素直じゃないか。そんなところが好きなんだ。」
テギョンがミナムの頬を優しく触りながら、甘い言葉をささやく。
見かねたシヌとジェルミが、二人の間に割って入り、シヌはテギョンに、ジェルミはミナムに事の真相を探りはじめた。
「テギョン、どうしたんだ急に。ミナムが戸惑っているだろう?」
「戸惑う?あいつは喜んでいるではないか。お前の目は節穴か。」
「ミナム、テギョンさんどうしちゃったの?昨日まではミナムいつも通り冷たいされてたよね?」
「…はい。」
先ほどまで真っ赤な顔で幸せそうだったミナムの顔が、どんどん曇っていく。
そうだ…昨夜まではテギョンさんにいつも通り冷たくあしらわれていた。それなのに私はランプの精さんのおかげで…。
まだジェルミが大声で色々話しかけてくれているようだが、ミナムの耳にはちっとも入ってこず、ただ遠くでキーンと耳鳴りがしていた。
シヌとジェルミはそんなミナムを見て、詮索することはミナムの為にならないのではないかと察し、それ以上なにも言えなかった。
その日は仕事の間中、ずっとテギョンはミナムの手をにぎり片時も離れない。朝方は戸惑っていたミナムであったが、夕方にもなると、そんなテギョンを幸せそうに見つめ、愛の言葉をささやき合っているように見える。
「シヌさん、このまま二人は付き合っちゃうのかなぁ?」
悲しそうにシヌにもたれかかるジェルミ。シヌもまた悲しそうな顔をジェルミに向けた。
しかし、ミナムの心は何故か暗かった。
このまま本当にテギョンさんの心をもらってしまってもいいのかな…。
「ミナム、俺のどこが好きか教えてくれないか?」
「えっ?」
全ての仕事が終わり、テギョンと二人夜のテラスで星をながめていると、テギョンがまたテギョンらしからぬことを言い始めた。
「なんだ、即答できないのか!悲しいな。」
「す、すみません!あの…どこと言われましても…自分でも良く分からないのです。いつも冷たくされるし、酷いこと言われるのに…それなのにどうしてだか目で追ってしまうんです。」
「冷たくされる?この俺から?」
「はい!いつも物凄い冷たいじゃないですか!出会ったばかりの頃なんて、そりゃあもう酷かったじゃないですか!」
「俺がお前にそんなことするはずがないじゃないか!変な言いがかりはよせ!」
「………。」
テギョンさん…。今までのこと全部忘れちゃったの?
すると、モクモクモクっと、ランプの精がミナムにだけ分かるように半透明な姿を現した。
「それは仕方ないよ!だって彼だって大好きな子に意地悪ばかりしていたなんて覚えてたら、こんなにも素直に愛をアピールできないだろう?」
「というと…。」
「だから、今までの君への暴挙は全部なかったことになってるってことだね。」
「そんな…。」
ミナムは頭をガツンと殴られたような気がした。
そうだ…この人はテギョンさんじゃないんだ…。だって…本物のテギョンさんはこんな卑怯な私のことを好きだなんて思うような人じゃないもの。
ミナムは拳をにぎりしめ、泣いてしまいそうなのをなんとかこらえた。
そんなミナムを心配そうに見つめているテギョン。
でも…ランプの精さんにお願いしなければ、こんな瞳を私に向けてくれることは一生なかったはず。そう思うと…。
「テギョンさん、私のどこが好きですか?」
「そうだなぁ。どこと言われても困るが…全部だな。」
「全部?」
「あぁそうだ。俺はお前の全てが愛おしい。」
そんな訳ない…。私のことを虫けらのように思っているはずだもの。
ミナムはテギョンの熱のこもった眼差しを長い間見つめ続けた。
そして、
「今夜はもう眠りましょう。」
と言うと、テギョンの腕にぎゅっと抱きついた。
「こら、そんなかわいいことをしたら、離れられなくなってしまうではないか。」
あのファン・テギョンが!!
ミナムは思わず笑ってしまいそうなのをこらえるのに必死なのであった。
「本当に良いの?」
「はい。」
これで五回目の確認作業を行うランプの精とミナム。
部屋に戻ってすぐ、ミナムはランプをこすり、こう二つ目のお願いをしたのだ。
「テギョンさんにかけた魔法を戻して下さい。」
「どうして?せっかく大好きな人が自分のことを好きになってくれたのに。」
「私が間違えていました。」
「間違い?」
「はい…。大好きな人をこんなことで縛ってしまって…。私は本当に愚かでした。それに…、こんなテギョンさんはテギョンさんではありませんでした。」
「でも…。」
「お願いします!私の決心が鈍らないうちに!」
「分かった。」
またランプの精の掌から光が溢れ、その光が優しくミナムを包んだ。
その時、ミナムは静かに涙を流していた。
あーあ、これで一生、私のことを好きだなんて言ってくれるテギョンさんには会えないんだなぁ。
「三つ目のお願いもこのまま叶えてもらってもいいですか?」
「いいよ。言ってみて!」
「はい。テギョンさんがいつか本当の幸せを手に入れられますように。こんなお願いできますか?」
「できるよ。いつか必ず彼が幸せになればいいんだろう?」
「はい!」
「でも…君の願いを叶えてないけど…いいの?」
「とんでもない!私は夢を見させてもらったじゃないですか!こんなにも幸せな一日は今までありませんでした!ありがとう!」
「そうか。分かった。じゃあその三つ目の願いを叶えたら俺はいなくなるからね。さようなら!」
「さようなら!本当にありがとう!!」
ぱっとランプが光輝いて、そのままランプもその精も跡形もなく消えてしまった。
ミナムはまだ夢の中に居るような心持ちで、床にぺたりと座り込んだ。
翌朝。
「おい!コ・ミナム!とろとろするな!合宿所から追い出すぞ!」
冷たーい視線で仁王立ちをするテギョンを、ミナムは嬉しさ半分悲しさ半分で、じっと見上げていた。
よし!いつものテギョンさんだ。
昨日のテギョンさんにはもう二度と会えないけど…大好きな人には幸せになって欲しいもの。
そして、弾けるような笑顔のシヌとジェルミが、「やったー!いつも通りだー!」なんて言いながら、ミナムをかばうためにテギョンとミナムの間に割って入ったのだった。![]()
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読んで下さってありがとうございます
お久しぶりです!毎日暑くて溶けてしまいそうですが、皆様お元気ですか?私は毎年恒例夏風邪をこじらせておりまして、声が出ない状態です
しかし、楽しみが1つ増えましたぁ
大ファンである川上弘美さんの「ニシノユキヒコの恋と冒険」という大好きな小説があるのですが、それが映画化されるのです
しかもずっと、その主人公を竹野内豊さんに当てはめて読んでいたら、なんと本当に竹野内豊さんがニシノユキヒコに!!
来年の2月が楽しみです
「…大好きです。」
TVの中で、今はやりの俳優と女優が告白をし合っているのを、テギョンとミナムはソファで黙って見ている。
幾多の困難を乗り越え、二人が想いを通わせるシーンであるため、ミナムは号泣である。
「う、うう…テギョンさん!二人はやっと幸せになれるのですね!!」
「ふんっ、ばかばかしい。」
「ばかばかしい!?」
興味もないとばかりに、白けきった顔を画面から背けると、手元の雑誌に視線を落とすテギョンを、ミナムは信じられない気持で凝視した。
「ど、どうしてそんなことを言うのですか??テギョンさんは感動しないんですか?」
「感動?こんな安っぽいドラマのどこに感動する場面があったんだ。」
「今ですよ!今!やっと素直に自分たちの気持ちを伝えることができたんですよ!こんなに感動するシーンはないじゃないですか!」
「ふんっ!これはたまたま二人の想いが同じだったから、今までの苦労が報われただけで、これが一方通行だったらどうなる?ただの地獄じゃないか!そんなあるかないかの幸運の為に、俺は人生を賭けられない。」
「………。」
吐き捨てるように発せられたテギョンの言葉に、ミナムは胸が詰まるような悲しみを感じて、今までの感動とは違う涙が溢れてきてしまう。
まるで私のことのようだ。
「…それでも…、想いが通じなくても、それでも私だったら、大好きな人と乗り越えた困難を幸せだと感じてしまうと思います。」
絶対に好きになどなってもらえないと分かっていても、共に過ごした時間を地獄などとは思わない。いや、思えない。
テギョンは面白くなさそうに口をとがらせて、何か言いかけたが、止めにして、さして面白くもない雑誌に再び視線をおとした。
「…テギョンさんはそんな気持ちになったことは今まで一度もないのですか?」
「ないな。」
顔さえ上げず、即座に答えるテギョンに対して、心配な気持ちがある半面、ホっとしてしまった自分を恥じた。
「…お前はあるのか?」
あるに決まってます!今まさにそんな気持ちです!!だなんて言えないミナムは、顔を赤らめながら、ぼそぼそと呟いた。
「あ、あるような気がします。」
「ふーん。」
なんとなくではあるものの、面白くないテギョンは、ミナムにチラリと視線を向けると、赤い顔をしておろおろしているようだった。
「何をそんなに慌てている?」
「べ、別に慌ててなどいません!あっ!もうそろそろシヌさんとジェルミが帰ってきますかね!」
分かりやすく話題を変えるミナムに、やはり面白くない気持ちがふつふつとわいてくるテギョン。
「…告白などというものをしたことがあるのか?」
「えっ!?こ、告白なんてしたことありません!」
急なテギョンの質問に、しどろもどろになってしまうミナム。
「どうしてだ?このドラマの主人公の気持ちが分かるんだろう?」
TVに目を向けてみると、もうそれから5年後の二人の幸せそうなシーンに切り替わっている。
「わ、分かりますが、それとこれとは別というか…。」
「別なのか?」
急にテギョンから真剣な眼差しで見つめられて、ミナムはどきどきし過ぎて、息さえ上手くできず、むせてしまった。
「ごほごほっ…、す、すみません、ちょっと驚いて…。」
すると、ぎこちない手つきではあるが、テギョンがミナムの背中を優しくさすり始めた。
ミナムは、びっくりして緊張して、ますますむせてしまい、申し訳なさそうにテギョンを見上げると、思いの外、心配そうに自分を見ていたので、胸が痛くて痛くて、また涙が出てしまいそうになった。
「…告白してしまったら、大好きな人から嫌われてしまうから…。だから私は告白できないんです。」
「………。」
「嫌われてしまうくらいなら、告白なんてしない方が幸せでしょう?」
「…言ってみないと分からないではないか。」
「分かるんです。だって私ですよ?テギョンさんなら一番分かるはずですが…。」
「あ、あああ、確かにお前では上手くいくはずもないな!で、でも中には変人もいるのではないか?ほら、なんと言ったか、薬剤師のあいつだってお前ごときが好きだったんだろう?世の中分からないものだ…。」
テギョンは自分の発言に、どうしてこんなにも動揺してしまっているのかさっぱり分からなかったが、目の前の小さな背中が悲しげに見えて、思わず手を伸ばしていた。
後ろから抱きしめられたような形になったミナムは、息が止まるほど驚いて、全身の血が逆流していくようである。
「あ、あの…。」
「お、お前があまりにかわいそうだから、慰めてやっているだけだ!!」
怒ったような口調とは裏腹に、自分を抱きしめてくれている腕はとても優しい。
「お気遣いありがとうございます…。」
またこぼれそうになる涙をなんとか我慢して、ミナムはその自分に回されているテギョンの腕にそっと触れた。
そう、テギョンさんはいつも優しい。
だから絶対に自分の気持ちを悟られてはいけないんだ。これ以上大好きな人の負担になるようなことはしたくないから。
いつか…お兄ちゃんが帰ってきたら、私はみんなと同じただのファンクラブ会員だ。
それでもこの想いはきっと消えてくれないから、この寂しがり屋でひねくれものでとても優しい大好きなお星様を遠くからずっと見守って行こう。それで何かピンチの時には少しでも力になりたい。
ミナムはお腹にぐっと力を入れ、くるりと顔を後ろのテギョンへ向けて、一生懸命笑みをつくった。
「だから…私は現実にはこのような幸せを味わえないから、こうやってドラマを通して自分の夢を見ているんです。」
こんな安っぽいドラマに自分の夢を投影するなど、意味が分からない行為であるが、そんなミナムをかわいらしいと思ってしまう自分もいて、テギョンは混乱して黙りこんでしまった。
ただ、自分の腕にそっと触れているミナムの手の感触が心地良いということだけは分かっている。
「すみません。変なことを言って…。」
目をふせたミナムが自分の腕を外そうとしてきたので、思わず力を込めてミナムを逃れられなくしていた。
「抱き枕!」
「えっ?」
「お前はぽっちゃりでちょうどいい抱き枕なんだ!」
「…抱き枕…。」
「そうだ!抱き枕だ!それ以上でもそれ以下でもない!!」
「………。」
段々とおかしくなってきて、思わずくすりと笑ってしまったミナムを見て、テギョンは照れ隠しからその頭を軽く小突いた。
そして、どちらともなく額をくっつけて笑い合った。
本当の兄弟みたい。
ミナムは笑いながら、涙も出てきて、とても幸せな気持ちになっていた。
これは一体どういう感情なのだろうか。まさか…。
テギョンは心から安心した笑い声を上げながら、自分の気持ちと向き合う覚悟をしなければならない気がしていた。
告白。
ふと目に映ったTVの画面には、もう次の新しいドラマの宣伝が流れている。
俺にそんな大それたことができる日がくるのだろうか。
そんな不安を感じながら、もう一度ミナムを抱く腕に力を込めたのであった。
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急に暑いですねー
冬眠ならぬ、夏眠していたいです…。