「どうしたの?事故にでも遭ったの?折れてるわ。」
スプーンおばさんである女医にそう質問されて、なんと返答したらいいのか黙り込んでしまうチソン。
普段であれば、上手につける嘘なのに、今日はどうもうまくいかない。
「まぁ、答えたくなければいいの。それよりも少しの間入院になると思うわ。」
「あ、あの…他の病院に移ることは可能でしょうか?大変申し訳ないのですが…。」
「うふふ、ここは内科だから気にしないで。」
「あ、あああ、すみません。」
すまなそうに顔を下げていたチソンは、ほっと安堵の表情を浮かべた。
「紹介状書くわね。近くに良い先生がいるから。」
「ありがとうございます。」
「その間にあの子たちのところへ行ってくる?」
「…いえ。あの…、私がその病院へ移ることを、シヌさんに伝えてもらえますか?」
「シヌさん?あーあの長身のイケメンね。分かったわ。」
「ありがとうございます。それと…あの…その…。」
「なに?」
「…ええっと…………。」
「…。」
「……もし…あっ!紙とペン貸して頂けますか?」
スプーンおばさんは、なにも聞かずに、紹介状に添える手紙を書いていた便箋を何枚かボールペンと共にチソンへ渡した。
チソンは、折れたのは左腕であったものの、紙がうまく押さえられず、苦労しながら時間をかけて文字を綴った。
「すみません。これを…皆さんがいなくなってからミニョちゃんへ渡して下さいませんか?」
「分かった。でも、あのテギョン君がね…。なかなか傍を離れないからなぁ。まぁいいわ。任せておいて。」
温かな笑顔をチソンへ向けると、チソンは泣きそうな顔で頭を深々と下げた。
何があったのかは分からないし、聞く気もない。ただ、全員とても良い子に見えるから。
幸せになって欲しいわね。
スプーンおばさんは、チソンが病院を出ていくのを見送ってから、ミニョの病室をのぞいてみた。
「あらあらあら、なんだか騒がしいわねー。」
まだ揉みあっていた三人の間に割って入り、シヌだけを病室の外へ出すと、チソンが近くに病院で入院になるであろうことを伝えた。
「…分かりました。」
よほど暴れていたのか、いつもナチュラルにセットされている髪がぼさぼさで、肩で息をしているシヌを見て、スプーンおばさんは笑いながらため息をついた。
「あの子まだ本調子じゃないんだから、早く帰りなさいよ。」
「……すみません。でも…今晩は帰りません!!」
急に大声を出して、また病室に戻っていくシヌの後ろ姿に、また盛大にため息をついたのであった。
「…更に三人分のベッド用意しなくちゃね…。」
そして白衣のポケットに入っている手紙。
スプーンおばさんは息を大きく吸うと、大声で叫んだ。
「今から彼女の診察の時間だから、全員外へ出て!!」
びっくりしたようにスプーンおばさんを見る、テギョン、シヌ、ジェルミとミニョ。ただミナムだけは振り返りもしなかったのだが。
スプーンおばさんに強制的に病室の外へ追いやられるA.N.JELL。
そんな様子をきょとんとした顔で眺めているミニョに、スプーンおばさんは誰にも見えないように、そっとチソンからの手紙を渡した。
ミニョは、きっちり角を揃えて折られた手紙を見て、更に目を丸くしている。
「あの子からよ。キレイな顔の男の子。」
「…キレイな…。」
もしかしてチソン先生?
恐る恐る、その白い便箋を開くミニョ。
その様子を見て、スプーンおばさんは出て行くべきかと迷ったが、今出て行けば確実にメンバーがまた入ってくるに違いないのだ。
ミニョに背を向けて読み終わるのを待つことにした。
やっぱり…チソン先生だ。
アフリカに居た時よりも、なんだかヨレヨレの字だけれど、確実に先生の字だ。
いつも自分が困っている時に助けてくれる、優しくて温かい、けれどしっかりとした信念を持って動物と接していた先生は、アフリカの大自然の中で常に自分に微笑みかけてくれていた。
そんな毎日を思うと、その手紙を読み始める前に、もう涙がこぼれてきてしまうのであった。![]()
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読んで下さってありがとうございます
なんだかもう冬ですね、今日はお家の中で毛布にくるまっています。寒いー
物凄ーく時間が経ってしまいまして…もう皆様お忘れだとは思うのですが…
本編19 の続きです。
ほんの少しだけですが…頼りなくて本当にすみません
──────
「…そんなわけない…そんなわけないじゃないか!結婚ってなんだよ!まだ入籍もしていないくせに!!」
ミナムが思いつめたように叫ぶ。
すると、ミニョがこれまた嬉しそうに満面の笑みで、
「入籍したんだよー!お兄ちゃん!!」
と、ミナムの首に抱きついた。
そこからは、まさに地獄絵図。
放心状態のミナムの横では、シヌとジェルミが真っ青な顔でテギョンに詰め寄っている。
「テギョン!入籍っていうのは嘘だよな?保証人はどうしたんだよ!え?」
と、シヌがテギョンの足を力いっぱい踏む。すると、その足を逆にテギョンが踏んづけて、
「窓口の職員が書いてくれた。」
得意げな笑みを浮かべると、それを聞いたジェルミが、回し蹴りをテギョンにくらわせながら、
「それダメなんだよ!ニュースでやってたもん!!職員さんは拒否するはずだよ!」
などと必死に抗議すると、テギョンがジェルミのお腹にパンチを浴びせながら、
「その職員は、きゃー!私でいいんですかー?って嬉しそうに即書いてくれたけどな。」
ふふふんっと鼻をならした。
そんな三人を、ミナムに抱きついたままで幸せそうに見ているミニョ。
「お兄ちゃん、シヌさんとジェルミも喜んでくれてるのね!テギョンさんにあんなにくっついて!!」
そんな声もミナムの耳には届いていないようで、瞬きもしないでまだぼんやりしている。
いつもなら、ここでユ・ヘイやスタイリストのワン、たまにはマ室長が止めてくれるのだが、あいにくここには誰もいない。
しばらく、この不毛なやり取りが続いた後、とうとうジェルミが声を上げて泣き出した。
「テギョンさん酷いよー!最低!最悪!悪魔!大嫌いだーー!!」
「…本当だな。最悪だ…。」
ジェルミに触発されたのか、シヌは目頭を押さえて、なんとか涙をこらえようとしている。
しかし、口をつく罵詈雑言とは裏腹に、どこか吹っ切れたような笑みを見せる二人を見て、さんざんやられて痛む体をさすりながら、テギョンもまた静かに涙を流し始めた。
ミニョも更に勘違いを重ねて、
「お兄ちゃん…みなさんが泣いて喜んでくれています!なんて幸せなのー!!」
と、更にミナムに抱きつく腕に力を込めて泣き始めた。
それでも、ミナムはまだ動くことも、泣くこともできずにいた。
今日は清々しい良いお天気になりそうだ。
そんなことをぼんやり考えながら、ゆっくりと高度を上げ続ける太陽を窓越しに見つめていたのであった。![]()
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読んで下さってありがとうございます
全然進まなくて本当にすみません
のんびりですが頑張ります!!
シャワーを浴びている時、髪を乾かしながら、音楽を聞いている時に、ふっと頭に浮かぶ奴。
今頃はもうぐーぐー眠っているのだろう。とか、ご飯でもがっついているに違いない。だとか。
たまには、シヌと一緒にいるのかな?とか、ジェルミとバイクで出かけているんじゃないか??とかの時もあるけれど。
俺ばかり忙しいのはどうかと思う。
「テ、テギョーン!なんなんだよーー!!」
気がつけば、隣に座っているマ室長に掴みかかっていて、物凄い震え上がっていた。
いかんいかん。
ちょっとしたストレスだろうか。疲れ過ぎているに違いない。
なんとなく改心して、マ室長の襟元をぱっと放すと、ドスッと鈍い音がして、マ室長が床に仰向けに転がった。
「もー!なにー!?なんなのー??」
急におねえさんみたいな口調になるから、思わず吹き出してしまった。
さっきまでもやもやしていたのも、なんだかバカみたいに思えてきたし。
「おい!今日はなんかご飯でも食べに行くか?奢るぞ。」
「い、いやだーー!!!」
真っ直ぐ帰りたくないような気がして、俺としては優しく笑みを浮かべて誘ってやったつもりなのに、マ室長は半泣きになって叫びながら走り去ってしまった。
「……なんなんだ一体。しかも、所属アーティストを放置して帰る室長がどこにいるんだ!まったく信じられないな!」
俺はイライラしながら荷物をまとめていると、横で片づけをしていたスタイリストのワンが、
「テギョン…あれじゃあ脅しね…。」
と、呟いて俺の肩を2、3回ぽんぽんっと叩いて、控室を後にした。
「脅し!?」
どこがだ!何がだ!俺は奢るとまで言ったのだぞ?この俺様がだぞ??
誰も居なくなった、撮影スタジオの控室のソファにどっかりと腰を下ろすと、どうしてだかまたあいつの顔が浮かんでくる。
『テギョンさん遅かったですねー!』とか言いながら俺に駆け寄ってくるあいつ。
そしたら、この俺様が、『お前に何の関係がある!』などと怒鳴ると、悲しそうな顔をして口をきゅとかむあいつ。
その顔を見て、なぜか満たされた気持ちになる俺様。
そこまで考えて、俺は勢いよく立ち上がり、自分の荷物さえ持たずに、一目散に合宿所へと帰った。
無性に腹が立ったのだ。だから早く帰ってあいつをとっちめてやらないと気が済まない。
そんな腸が煮えくりかえる心持であるのに、どうしてだか鼻歌なんかが口をつく。
足取りも妙に軽いし、通りですぐに捕まえたタクシーのラジオも普段なら耳障りなはずなのに、全く気にならない。
「お客様、2890円です。」
いつの間にか着いていた合宿所の門の前で、ポケットに手を入れて財布を出そうとして、自分が置いてきた荷物のことを思い出した。
内心かなり慌てているのだが、
「ちょっと待っててくれ。」
と、澄ました態度で車を降りようとして、運転手さんに腕を掴まれた。
「ちょ、ちょっとファン・テギョンさん!どこへ行くんですか?お支払は!」
いつ俺だと気がついたのか!とか、変なことが引っ掛かったが、そんなことよりも財布を持っていないなどと、このファン・テギョンが言えるわけもない。
かと言って、このままでは一生タクシーから降りられない。
どうしたものかと思案していると、
「テギョンさん?どうしたのですか?」
外で声が聞こえたからーと、のんびりした口調で、ミナムがこちらへ近づいてきた。
俺はどうしてだか慌ててしまい、
「な、なんでもない!いいから早く中へ入れ!」
と、怒鳴ると、ミナムはしゅんと肩を落として帰ってしまった。
俺は一体何をしているのだー!せ、せめて誰か他の奴を呼ばせればよかったのに!!
思わず頭を抱えてしまったその時、
「お待たせしてすみません。これ。大目に取っておいて下さいね。」
と、シヌが5000円札を運転手に手渡していた。
俺は物凄く感謝しているのだが、素直にありがとうなどと言えないので、
「遅かったな…。」
歯切れの悪いことを言って、シヌから目をそらした。
シヌは口元に手を当ててよそを向いている。笑いをこらえているに違いない。
しかももしかしたら、もっと早くから気がついていたのに、こんなギリギリまでテラスから見て楽しんでいたのではないか?
シヌをじろりとにらんだら、シヌはとうとう肩を揺すって笑い始めた。
「ミナムに謝れよ。」
笑いながらだけれど、とんでもなく冷たい目で言われて、
「うるさい!!」
と、怒鳴って、大股でシヌを追い越して玄関をくぐった。
すると、捨てられた子犬のような顔の、俺の頭の中を占め続けているあいつが、体育座りをして俺を玄関先で待っていた。
「あ、あのー、なにかあったのですか?大丈夫ですか?」
財布を忘れて、それをお前にバレたくなかっただなんて言えない俺は、口をくいくいっと左右に動かして思案していると、シヌが面白そうに口元を隠して素通りして行った。
「別になんでもない!しつこいぞ!!」
と、心にもないことを口走って、ちらりとあいつの顔を盗み見ると、物凄く悲しそうな顔をしてうつむいてしまった。
あー!俺は一体…と思う反面、やっぱりいつものように何故かスカッと爽快な気分になってしまう。
そんな俺を置いて、あいつは肩を落としてリビングへ向かいかけて、俺の方をくるっと振り返った。寂しそうな顔で。
ふんっ!俺様の思考に勝手に入りこんできて、俺を追い込むからそんな目に遭うのだ!
ん?俺は追い込まれているのか?何に??
分からないことだらけで、一人首をひねっている俺の前で、ジェルミがあいつの肩を抱いて、
「ミナムーどうしたのー?元気ないよー?」
その顔を覗き込んだ。
俺は、弾かれたように、二人へ駆け寄り、その肩に置かれたジェルミの手を払いのけていた。
びっくりして俺を見上げるジェルミとミナム。
二人して真ん丸な目をしている。
そのことになんだかイラっとして、逃げるように自室へと階段を上った。
イライラしてムカムカして、ソワソワして、ムッとして、気分が良くなったかと思えば、またイラっとして。
目についた豚うさぎを手に取ってながめてみると、
やっぱり…あいつに見える…めちゃくちゃ似ているではないか!!
途端に我慢できなくなって、声を上げて一人で笑っていた。
俺はもうダメだ。ダメに違いない。
認めたくないが、少しは認めないと、自分の中の辻褄がどんどん合わなくなっていく。どんどん合わなくなっていくから、イライラしてその矛盾をなんとか解消しようとする。そうすると、あいつの顔も見たくなくなる。でも、そうなるとどんどん寂しくなって…。
気がつけば豚うさぎを抱きしめている自分がいて、なおさらに嫌な気分になってしまう。それなのに、いつでもあいつが何をしているのか気になって気になって…。
もうダメだダメ。もう無理だ。
俺はきっと…ミナムのことが好きなのだ。
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読んで下さってありがとうございます★
急に絵文字が使えなくなって、そっけない感じの文章ですみません(>_<)
私がいつも一緒に眠っている豚うさぎちゃんを眺めていて思いついたお話です(*^_^*)
本当にありがとうございます(*^_^*)