当然のように心に根を下ろし繁殖し続けていた、あの灰色の重い塊を、最近たまに見失ってしまう。
それは良いことなのか、悪いことなのか、あまりに慣れ親しんだ感情であるが故に、少し落ち着かない。
しかし、結局は自分の中であまりに定着してしまっているために、もうわざわざ認識するまでもないと、無意識のうちに判断してしまっているのかもしれないが。
テギョンは目の前で派手に転ぶミナムを見つめながら、そんなことを考えていた。
ちょうどテギョンの座るリビングのソファには、眩し過ぎるほどの朝日が差し込んでおり、今が凍えそうに寒い冬だということを一瞬忘れそうになってしまう。
脛でも打ったのであろうか、その場にうずくまったまま立ち上がれないミナムを、特に助けるでもなくぼんやり視界の端に写しながら、テギョンは知らず知らずのうちに貧乏ゆすりをしていた。
それは、痛さに顔を歪めるミナムに気がついたシヌがすぐさま抱き起こしているからか、ミナムのドジさそのものにイラついているからか、とにかくあまり面白いとは言えない新しい感情がテギョンの中に生まれていたからかもしれないし、ただ単に寝起きで機嫌が悪いだけかもしれない。
朝からこんなことばかり考えていたのでは、今日一日体がもたないと、深いため息をついたテギョンは、シヌからお姫様抱っこをされて丁寧にリビングの椅子に座らせられているミナムから目を背けると、いつものあの青色の瓶に入った水を冷蔵庫から取り出して一気に飲み干した。
自分ではごく普通に水を飲んだつもりであったが、どこかおかしかったのであろうか、ジェルミが目を丸くしてこちらを凝視している。
ん?あれ?これは水のはずでは??
頭が少しくらっとするのだが…
手にした瓶のラベルを良く見てみると、『焼酎』と、書いてある。
驚き過ぎて二度見してみたが、やはりはっきりと、『焼酎』と書かれたラベルが貼ってある。
そりゃあジェルミも驚くよな…。朝から焼酎一気飲み…。
しかし、そこで狼狽したのでは、A.N.JELLリーダーとしての威厳に関わる。
何でもないというような顔をして、テギョンが食卓のいつもの自分の席へ座ると、ジェルミがこそこそと飲み干した焼酎の瓶を確認すると、また更に目をまん丸にして口まで半開きにして、テギョンと瓶を交互に見つめている。よほど驚いたに違いない。
テギョンの視界の端では、シヌがまだミナムの足をさすっている。
こうして眺めていると、自分の周りにはいつもシヌとジェルミ、そしてミナムがいる。
それはごく当然のことなのだが、そんなことを考えるようになったのも、もしかしたらミナムがこの合宿所へ来て、様々な面倒をかけてくるからではないだろうか。
今だって、あいつがこけたりしなければ、俺は間違えて焼酎を一気飲みなんてしなかったし、ジェルミがあんなに驚くこともなかったし、シヌがそこまで心配する必要もなかったはずだ。
要するにやはりあいつは厄病神なのだ。
けれど…
けれど、それだけでないことはなんとなく分かってはいる。
こうやって迷惑をかけられるからこそ、もしかしたら孤独を感じずに済んでいるのかもしれないからだ。
かいかぶり過ぎだろうが、そんな気がしなくもないのだ。
テギョンはいよいよ眠くなってきたが、ジェルミの手前お水を飲むことだけは避けなければならない。
しかし、意地を張れば張るほど睡魔と喉の渇きが襲ってくる。
「はい、テギョンさん。」
ミナムの声と共に、冷たい青色の瓶が渡される。
それは焼酎ではない、間違いなくいつものお水だ。
テギョンは思わず泣きそうになってしまった。
酔いがまわり思考がおかしくなっているからだと自分に言い聞かせると、無言でミナムから瓶を受け取り、ごくごくと喉を鳴らして飲んだ。
いつもよりも美味しく感じるなんてセンチメンタルなことは思わなかったが、それでも美味しいと素直に思った。
こけてからはシヌと二人でずっと居たにも関わらず、自分のことを見てくれていたのではないかという淡い期待と、そんな期待を持つなんて自分らしくないという思いが交錯して、心臓が変な感じのリズムを刻み始める。
聞いてみるべきであろうか、それとも勝手に良いように解釈していれば傷つかないで済むのではないだろうか。
そんなテギョンの不安をよそに、ミナムが眉間にしわをよせて心配そうにこう言った。
「テギョンさん、朝から焼酎を一気に飲むだなんて…何かあったのですか?」
その途端、テギョンはどうにも涙を止めることができなくなってしまった。
もう今までのように何かを諦めなくても良いのかもしれない。もしかしたら、何かを求めても良いのかもしれない。
しゃくり上げそうになりながら、無言でその場を後にするテギョンのその顔には、涙とは対照的な、あの小犬のような笑顔が浮かんでいた。
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読んで下さってありがとうございます

こんな寒い日には、どうしてだか寂しい気持ちになりますよね。今までの嫌なできごとや、失敗なんかを思い出してしまったりと、やりきれない気持ちになることもあります。
けれど、きっとテギョンはミナムのおかげで、温かい気持ちになれているのではないかなぁと思って書いてみました

また私の大好きなやきもき期間の二人です

なかなかゆっくりできず、本編を書けなくてすみません
私のなんかを読んで下さる方がおられるだけで奇跡なのに…申し訳ないです…