ジェルミの言葉を受け、気まずそうに目をきょろきょろさせるテギョン。
黙り込んで牽制し合うメンバーとマ室長の間に、微妙な空気が流れる。
「…」
「……」
「………」
「…………」
「もーー!僕耐えられないー!」
ジェルミがたまりかねて声をあげると、ミナムの部屋のドアノブに手をかけようとするではないか。
テギョンは慌ててジェルミを突き飛ばすし、蹴りまで入れている。それを止めるシヌ。マ室長はおろおろ。
それをきっかけに、廊下は小さな戦場と化してしまった。
全員で揉み合う内に、まずマ室長が、
「もう俺は帰る!とにかくこれをミナムに渡してくれればいいから…。」
と、脱落。
「おい!中身は何だ!」
テギョンが偉そうにマ室長を見下ろす。
「何もそんなに凄まなくても…。手袋とマフラーだよ。これからまだ寒くなるからね。」
「ふんっ!馬鹿じゃないのか!そんな物、今は必要ないではないか。まぁいい。ほら!早く帰れ!」
しっし!と、テギョンに手で追いやられ、マ室長は名残惜しそうに帰って行った。
ジェルミもまた、
「僕ももう寝るね。どうせテギョンさんとシヌさんはしつこいだろうし…。」
と、プレゼントをまだきちんと渡してくれそうなシヌに預けて脱落。
「で、お前の中身を言え!」
テギョンは相変わらず腕を組んで偉そうだ。
「なっ、なんで言わないといけないの?」
ジェルミはジェルミで、マ室長のように従順に中身を言う気にもなれず、少し反発してみたのだが、無言の圧力に屈し、
「……漫画。」
と、悔しげに答えた。
「漫画?お前もまた馬鹿だな!」
「どうして!?だって寝てばかりでは暇でしょう?だからミナムの好きそうな漫画を全巻揃えたんだよ!」
ふんっと、意地悪く笑うテギョン。
「きつくて漫画なんて読めるかよ!そもそもお前、あいつの好きな漫画とか分かるのか?案外それ好みじゃないかもしれないしな。」
ジェルミは、きっとテギョンを睨み唇をかみしめると、どすどすと自室へと帰って行った。
残るはテギョンとシヌ。
二人で無言の睨み合いが始まる。
どれほどの時間が経ったであろうか、とうとうシヌがふーっと息を長く吐き、こうテギョンに提案した。
「とにかく一旦眠らないか?明日も雑誌の撮影だから。で、明日の朝、ミナムに全員のプレゼントを一緒に渡そう。それでいいじゃないか。」
「………」
た、確かに…それもそうだな。
そもそも俺は一体何にこんなにも熱くなっていたんだ。プレゼントはどう考えても俺のを一番喜ぶはずなんだから、他の奴らの下らないのと一緒に渡した方がより価値も上がるってものだ。
そこまで考えがまとまると、テギョンはおもむろに、
「分かった。」
と、首を縦に振った。
そして、不正のないようプレゼントはぬいぐるみ部屋へ保管しておくことにし、お互いを意識しながらそろりそろりと各自部屋へと戻った。
翌朝。
少し顔色の良くなったミナムがマスクを付けてリビングへ下りてきた。
途端にその周りに群がる男性陣。
びっくりして目をぱちぱちさせるミナム。
「さぁミナム!この中から好きなの選んでー!!」
ジェルミが目を輝かせながら、リビングのテーブルの上にあるかわいくラッピングされた4つのプレゼントを指差した。
「こ、これは??」
「みんながミナムが少しでも元気になって欲しくて用意したんだよ。」
シヌが優しい優しい笑顔でミナムの頭をそっと撫でる。
テギョンは面白くなくて、その手をぱーんと払うと、思わず、
「おい!お前はあの部屋で隔離のはず!何故出てきた!」
などと心にもないことを言ってしまい、頭を抱えそうになってしまう。
「す、すみません!あの!お水!お水が飲みたかったのです!」
ミナムは慌ててマスクを強く上から押さえながら、お水を飲みにキッチンへ向かう。
「テギョン…。」
マ室長がテギョンの肩に手を置くと、テギョンはその手を捻り上げた。
「ミナム。テギョンの言うことなんて気にしなくていいから。さぁこっちへおいで。」
シヌが柔らかく目を細めて、お水を飲み干したミナムの手を取った。
「ああああの、ここんなに…。いいのですか?」
ミナムは目をうるうるさせながらプレゼントを眺めている。
「もちろんだよー!僕はいっぱいいっぱいミナムのことを考えて用意したよー!」
ジェルミがミナムをぎゅーっと抱きしめる。
「ジェルミ…本当にありがとうございます。」
「とにかく。ミナム開けてみて。」
シヌがべりっとジェルミを引きはがすと、自分のプレゼントをミナムの手に持たせた。
「はい…。本当にありがとうございます。」
そう言うと、ミナムは大切そうに箱からリボンを外し、かわいい花柄の包装紙を丁寧に取り去ると、中からもこもこの温かそうなパジャマとガウン、靴下のセットが出てきた。
パステルカラーのピンクと水色と白のかわいい水玉模様のそれらを広げて自分にあててみると、なんとも肌触りが良くて幸せな気持ちになった。
「これは…シヌさんからですか?」
ミナムが目にいっぱい涙をためて見上げると、シヌが八重歯を見せて微笑みながらうんうんと頷いた。
「あ、ありがとうございます。本当に本当にかわいい!今夜お風呂に入ったら早速着させて頂きます!嬉しいです!」
と、パジャマを自分にあてたまま、くるくる回っている。
そんな様子をつまらなそうに見つめる3人。
「ミナム!そんなのそこら辺に置いておいて!次は僕のだよ!」
と、少し重たそうに派手なビニールのラッピング袋に真っ赤なリボンがついた物をミナムの前に置いた。
「これはジェルミからですか?ありがとうございます!」
「うん!早く開けてみてー!」
「はい!」
リボンをするするっと外すと、中から今話題の少女漫画全巻と、映画化された少年漫画、更にはシュールで面白いと評判のまだ完結していないギャグ漫画までがぎっしりと入っていた。
ミナムは目をらんらんと輝かせながら、漫画を取り出しては嬉しそうに表紙をめくった。
「ジェルミ本当にありがとう!どれも読みたかったものばかりです!」
「本当に?やったー!良かったー!悩んだ甲斐があったよー!それにね、そのまだ続いてるこれね、これからも新刊が出る度にプレゼントするから一緒に読もうねー!」
と、嬉しそうにミナムの手をぎゅっとにぎって、ぶんぶん振りまわした。
ミナムもその笑顔につられて幸せそうに目を細めている。
テギョンはイラつき過ぎて、ぴきぴきっと自分の血管が膨張する音が聞こえるようだ。
「おい!次だ!次!まずそのもう1つの下らない奴を開けてみろ!中身は手袋とマフラーだ!」
と、開ける前から中身をバラしてしまうという暴挙に出るテギョン。
マ室長は後ろの方で悲しそうな顔をしている。
そんな様子に気付きもしないミナムは、嬉しそうに袋を開け、お揃いのかわいい熊さんのついた手袋とマフラーを身につけて、マ室長に「かわいい!本当にありがとうございます!!」と、嬉しそうに見せた。
そしていよいよお待ちかね、シンプルで高級そうな包みを手にするミナム。
あー、何か妙に緊張するー。
テギョンは手に汗にぎり、その光景を眺めている。
ミナムはミナムで、
これがテギョンさんから…。本当に嬉しい。インフルエンザにかかって迷惑かけているのに、こんなに幸せでいいのかな…。
と、今にも泣き出しそうな思いで封を開けた。
まずはチョコレート。
大した知識のないミナムでも知っている、デパートの地下で警備員を配備しているほどの超高級チョコ。
ミナムは嬉しそうにテギョンを見つめる。
次に、もう1つ中に入っていた小さな包みを開ける。
「これは…」
鈍感なミナムは何のセーターなのか全く見当もつかないようで、目の位置まで持ち上げてじっくりと見つめている。
な、なんて奴なんだ!!
どう考えても豚ウサギのセーターしかも手編みではないか!!!一目見て分からないのか?
信じらない!なんて薄情なんだ!!!
テギョンがいらいらを募らせていると、ミナムの表情がぱっと明るくなった。
「テギョンさん!分かりました!これ、ジョリーのお洋服ですね!!ジョリーまで風邪をひいてしまわないようにってことですよね??」
ちっ!
テギョンは思わず舌打ちをしていた。
何がジョリーだ!こんな小さいの入るわけないではないか!アホなのか!!
テギョンの様子を伺う限り、どうも違うらしいことは分かるミナム。
再考してみるも、全くぴんとこない。
「あの…テギョンさん…これは…。」
「豚ウサギのだ!」
テギョンは堪らず大声で答えを言ってしまい、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になる。
「豚ウサギの…」
ミナムは一瞬にして溢れてきてしまった涙を止めることができなくて、その小さくて赤い完璧な網目のセーターをぎゅっと強く抱きしめた。そして、言葉にならない感謝を伝えたくて、思いっきり頭を下げた。
そんなミナムを見て、テギョンは一瞬にして固まってしまった。
どうしてだか、また昨日感じた、得体の知れない感情がより強く体中を駆け巡る。優しく抱きしめたいのに、その存在自体を無視してやりたいような、でも自分の手の中に納めておきたいような。
テギョンはミナムからふいっと顔をそらすと、信じられないくらい痛む胸を何度も何度も叩いた。
「テギョンさんあれ編んだの?」
ジェルミがつまらなーいとでも言うように、口をとがらせている。
シヌもまた無表情でテギョンを見つめる。
そんな中、マ室長が全く空気を読まずに、
「よし!ミナム!じゃあ今回のプレゼントのランキングはどんな感じ?」
「そうですねー。」
ミナムもミナムで、涙をくいっと拭うと真剣に考え始めた。
あいつは本物の馬鹿だな!
さっきのミナムを見ていなかったのか?どう考えてもこの俺様が1位ではないか!
まぁいい。高みの見物といくか。
「じゃあまず1位から順番に言え。」
テギョンは余裕の笑みで全員を見回した。
「はい。では…。1位はシヌさんです!このもこもこがもう病みつきになりますー!!」
ミナムは嬉しそうにシヌのパジャマに手を伸ばした。
にやりと八重歯を見せて幸せそうな笑顔を見せるシヌ。珍しく小さくガッツポーズをしている。
よほど嬉しいに違いない。
テギョンは衝撃で今にも膝をつきそうになるのを、必死の思いで耐えている。
信じられない…一体何が起こっているんだ??
さっきの涙は一体………
「ちぇー!いつもシヌさんが1位なんだよなー!じゃあ2位は??」
ジェルミが身を乗り出してミナムを急かす。
「そうですね…では2位はジェルミです!読むの本当に楽しみなんですよー!」
と、漫画本を大切そうになでた。
「やったーーーーー!!!」
ジェルミがその場で小躍りして、喜びを爆発させる。
テギョンはもうふらふらである。
なんだか目がちかちかしてきた…。
「さぁ、ミナム!次はどう考えても俺だよね?」
マ室長が十字架をきっている。
「はい!次はマ室長の熊さんです!」
ミナムは嬉しそうにそのマフラーを再度首に巻きつけて見せた。
テギョンはとうとう足に力が入らなくなり、膝からがっくりと崩れ落ちた。
そんなテギョンを見たミナムは、
「テギョンさんのも凄く嬉しかったのですが…結局は豚ウサギのセーターなので…。チョコも今あんまり具合が良くないので食べられないし…。」
と、すまなそうに目を伏せた。
俺のあの必死な夜なべは一体何だったんだ!
このショックは1週間は引きずるな。なんて思いながら、ふらふらする足を引きずってテギョンは自室へと戻って行った。
テギョンさんごめんなさい。
本当は…。だれよりも一番テギョンさんのプレゼントが嬉しかったんです。でも…
そんなことを言ってしまって、テギョンさん私の気持ちを気づかれてしまうのが怖かったのです。
嬉しそうに円陣を組む3人から見えないように、愛おし過ぎて震える指を、そっとその赤い小さなセーターに這わせるミナムであった。
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読んで下さってありがとうございます
完全に書きあげてしまいましたぁ!!
しかも、もっと甘ーくしてあげたかったのに、書いていたらどんどん変な方向へ…
皆様、そしてテギョン!ごめんなさーい