しっかりしなさいよ!卑怯じゃない!!!!!
私は自分に喝を入れると、そっと先輩の腕の中から離れた。
「先輩、行ってきますね。」
ちゃんと笑えているのかな。
先輩は困惑した表情で、あの大きな瞳を細めて私をじっと見つめている。
何を考えているのだろうか。私のことをどう思っただろうか。
きっと…。アメリカから帰ってきたら、先輩は今までのようには一緒に居てくれなくなるだろう。
親友ジュンピョと別れてしまえば、何の関係もないだだの庶民なんだから。
それでも、それなら仕方ないから諦めようなんて、そんな風に思うこともできないくらい、私はジフ先輩のことを好きになり過ぎていた。
「…まだどこに行くか聞いてない。」
先輩が少しむっとしているのが分かる。
「えへへ、じゃあ行ってきますね。」
作り笑いを浮かべて、うやむやにしてしまおうと、そのままキャリーケースをひいて歩き始めた。
「行ってきますってことは、ちゃんと帰ってくるんだよね。」
背中から先輩の声が聞こえてくる。どんな表情で、どんな気持ちでそう言ってくれたのかは、声色だけでは読みとれなかったけれど、それでも嬉しかった。帰ってきていいと今だけでも言ってもらえることが。
「はい!もちろんですよ!石にかじりついてでも医者になりますから!」
振りかえらずに拳を振り上げて、アメリカ行きの登場口へとゆっくりと向かった。
ジャンディは一体どうしたんだろう。
今更ジュンピョのところへ行くのに俺に隠さないといけない理由は何なのか。考えても考えても思い当たる節がない。
俺は近くにあった椅子にどっかりと腰を下ろして目を閉じた。
自分の腕に鮮明に残るジャンディの温もり。シャツから肌に伝わったジャンディの涙の冷たさ。
それらは全て現実であったはずなのに、いつもの空想の産物であるかのように思える。
別に帰ってこないわけではないのだからと、自分に言い聞かせてみるけれど、今も独りで泣いているはずの彼女を思うと、いてもたってもいられなくなる。
俺はすぐにアメリカ行きの空港券を手配してもらうと、一目散に搭乗口へと急いだ。
ジャンディの非常ベルを聞き逃すわけにはいかない。
考えるよりも先に体が動いてしまうなんてことが現実にあるんだってことは、彼女が教えてくれた。
考えて行動に移さずに、彼女が独りで悲しい思いをするのなら、俺がその何倍も悲しい方がずっとましなのだ。
携帯でイジョンとウビンに連絡をする。
最近のジュンピョに変わりはないか確認するために。またあのおばさんが出てきて…なんてことがあっては大変だから。
けれど親友たちは口を揃えてこう言った。
「「ジュンピョは順調に会社を大きくしているし、最近は落ち着いて変なこともないはずだぞ。」」
ますますおかしい。
じゃあ一体彼女は何に心を痛めているの?
アメリカ行きの飛行機が離陸を始めた。
ジャンディは手をぐっと握りしめ、じっと前の座席を見つめていた。
ジュンピョのことが好きだった。大好きだった。その気持ちに嘘はない。今でも大好きだ。
けれどそれは試練に打ち克つ自分が好きだっただけなのかもしれないと、ジュンピョと会えなくなってから、そう思うようになった。
普通の恋愛をしたことのない私にとって、ジュンピョは初めての彼氏であり、とてつもなく輝いて見えたのだ。
それに比例して、いつも傍にいて支えてくれるジフ先輩への気持ちが日に日に初恋の時の自分を思い起こさせるようになった。
ずっと憧れ続けて手にできない宝石のような先輩が近くにいてくれるのだから、それは勘違いもするさ!と、自分に言い聞かせながら、どうにかこうにかこの三年やり過ごしてきていたのに、あの図書館での出来事で、頭をがーんと殴られたような気がした。
逃げてばかりいたのでは、何にもならないと。例えジフ先輩に嫌われようと、ジュンピョから見放されても、それでも自分の気持ちに正直にならなければ、結果全ての人を傷つけることになることを神話に入ってから学んだから。
私ってとにかくモテないし、彼氏なんていなくても生きていけるタイプの人間だしね!!
そうそう!ジュンピョみたいな、あんな王様みたいなきらきらした人が私の彼氏だなんておかしいもの。神話に入ってからおかしなことになってしまっていただけだもん。
ちゃんと医者になって、僻地で医療に従事するのもいいかもしれない。そして…それから、ほんのちょっとだけジフ先輩のことを考えることだけを許してもらえたら、それでもう十分私は幸せに生きていけるはず。
ジュンピョは誰よりも強くて、その強さに見合った優しさも兼ね備えている素敵な人だから、きっと最高の相手が見つかるだろう。
今でだって、その太陽みたいな魅力にどれだけの女性がジュンピョに恋をしたか分からない。
けれど…ジフ先輩は、ソヒョンさんだけを見つめて生きてきた子供みたいに純粋な人。誰も自分の周りに寄せつけないのに、とても寂しがり屋で誰よりも心の痛みの分かる繊細な人。
だから勝手にどうかいつまでも見守らせて下さい。何かあった時には飛んで行って、今までの恩を一生かけて返していきたいから。
その為には、私はちゃんと1人になって歩き出さなければいけない。
ジュンピョの怒ったような悲しい顔が目の前をちらついて、きちんと自分の気持ちを伝えることができるのか自信がなくなりそうだったけれど、ぐっと力を入れて目を閉じたら、さっきのジフ先輩に包まれた柔らかな感触が蘇ってきて、それだけで勇気をもらえた気がした。
こんな勝手な私を許してくれなくてもいい。それでも先輩に何かあった時に一目散に駆けつけられる自分でいたい。
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読んで下さってありがとうございます
ジュンピョーごめんねー
決して批判などではなくただの個人的な気持ちなので、どうか聞き流して下さm(__)m