「ミナム凄いねー!」
ジェルミの屈託ない声が、今のミナムにはとても痛い。
少し泣きそうになりながらも、なんとか笑顔を作り、その場をそそくさと離れた。
最近、ミナムにもファンレターが届くようになった。
それはとても喜ばしいことで、現に最初の頃は一人で浮かれていたものだ。しかし、日が経つにつれて、切ない恋心を綴ったものや、熱烈な思いの丈を打ち明けてあるものまで送られてくるようになった。
アイドルとしては、至当なことであり、なんら問題ないように思うであろう。けれど、それは男性アイドルであるという前提で、ミナムは女性なのである。
今もその手ににぎられているファンレターには、かわいらしい少女が自分の写真を同封しており、中には携帯番号やアドレスが書かれている。
本当に本当にコ・ミナムが超好きですー♡
かっこかわいいし、ちょっと変な歩き方も最高です♡
絶対に連絡してねーー♡♡♡
連絡してくれたら死んでもいいー♡
私は女です。こんなメールを送りつけたら、この子はどう思うのだろうか。
とんでもなく怒り狂うに決まっている。
軽い気持ちで書いているのは分かっている。でも、自分の写真を撮り、今の時代にかわいい便せんと封筒を買い、切手を貼ってわざわざ送ってくれているのも、コ・ミナムが男だと思い、その偽者の私に恋をしてくれているからだ。自分はそんな人たちの気持ちを騙している。
そう思うと、いてもたってもいられなくなるのだ。
それに…私なんかにこんなお手紙が届くのだから、テギョンさんになんてとんでもない内容のものが送られてきているに違いない。
こんな気持ちを抱いた女性が、同じグループで活動しているなんて、テギョンさんファンのみならず、シヌさんファン、ジェルミファンも許してはくれないだろう。
毎日が大罪を犯しているようなものだ。
やっぱり、お兄ちゃんには悪いけど、このままここを去った方がいいのかもしれない。
ミナムは、そんなことをぼんやりと考えながら、胸の痛みをどうにかやり過ごそうとしていると、トントンと、部屋のドアがノックされた。
あまり誰にも会いたくない気分だったので、そのまま無視していようかと迷っていると、返事を待たずにガチャリと扉が開いた。
「おい、こんなに暗いところで何をしている。」
パチパチっと部屋の電気が点けられ、大好きなテギョンが腕を組んで扉に寄りかかっている。
ミナムは光の中のテギョンが眩しくて目を細めた。
さっきは夕方だったのになぁ。テギョンさんは相変わらずかっこいいなぁ。
「おい!コ・ミナム、俺様を無視するとはいい度胸だ!」
そう怒りながら、どすんどすんと大股で、ミナムが座っている近くのベッドに腰を下ろした。
「す、すみません。」
「ふんっ、で、何に悩んでいる。」
「え?」
「さっきジェルミから聞いた。」
「ジェルミから?」
「そうだ、泣きそうな顔で部屋に入ったとな。」
「それで何でテギョンさんが??」
本当に心底不思議そうな顔をミナムがするものだから、テギョンは面白くなくて、口を左右にくいくいっと動かした。
「俺はリーダーだ、メンバーの悩みは聞く。それにジェルミは今から仕事だから、仕方なくでもある。」
「そうですか…気を遣わせてしまってすみませんでした。もう大丈夫です。」
当然よね。私の心配なんてしてくれるはずもない。
ミナムはうつむいて、テギョンが部屋から出て行くのをじっと待ってみたのだが、なかなか立ち上がる気配がないので、そっと視線だけ上げてみると、何だか悲しそうな顔をしたテギョンがじっと自分を見ていた。
「その手に持っているものは何だ。」
「こ、これは…その…ファンレターです。」
「ふーん、見せてみろ。」
「だめです!これは、僕にくれたものなんですから、絶対にだめです!」
「僕!?」
「は、はい…僕です。僕は男ですから!」
なにを今更…もう全員お前が男だと知っている…。
喉元まで出かかったが、どうにか堪え、その『僕』に、今回の問題のヒントがあるはずだと、考えを巡らせた。
「…もしかして、お前が女だとバレたのか??」
焦ってテギョンが立ち上がるも、黙って首をふるミナム。
良かった…。
安堵でふらつきながら、どうにかベッドに腰を下ろすテギョン。
「では何なんだ。早く言え!」
「………。」
「そのまま黙っているつもりか!」
段々といらついてきたのか、凄んでくるテギョンに、ミナムはびくっと肩を震わせて、大きくため息をついた。
「あの…その…私は本当は女ですから…ファンの方々を騙しています。それが…。」
「辛いって?」
「はい…。」
「ふんっ、そんなの最初から分かっていたことではないか。今更、良い人ぶるつもりか!」
「そ、そんな…。」
確かにテギョンさんの言う通りだ。
テギョンさんは何度も私を追い出そうとした。その度に食らいついていったのは他でもない私だ。それはお兄ちゃんの為だという大義名分のもと、本当は自分の為だったのだ。このテギョンさんへの想いに気がついてしまったから…。
ぽろりと、ミナムの頬に涙がつたう。
テギョンは急に動悸がして、自分でも不思議なのだが、その涙を拭ってやっていた。
「べ、別に責めてはいない。」
「えっ?」
驚いて目を大きく見開くミナム。その大きな瞳からは、次から次へと涙が流れている。
「前にも言ったはずだ。お前を受け入れてからは、俺が味方になると。でもそれは、お前が懸命にファンと向き合い、兄を代役を全うしようとしているからだ。」
「そ、そうでしょうか…。」
「は?どういう意味だ?」
「私は、私は…。」
嗚咽をもらしはじめたミナムを、テギョンは無意識のうちに抱きよせていた。
「もういい。そこまで深く考える必要はない。俺だってファンを騙しているのだから。」
「テギョンさんが?」
「そうだ。ファンは俺を完璧な人間だと思っている。しかし、アレルギー体質で偏食。しかも夜盲症。こんな俺を知ったらショックを受ける奴もいるんじゃないか?」
「そ、そんな!そんなことくらいでショックなわけありません!!むしろより好きになってしまうと思います!!」
「そんなわけない。」
そんな馬鹿なことがあるか!実の母親でさえ…
そんな思考が頭を占める前に、ミナムがひどく怒った顔で声を張り上げた。
「ファンを甘く見てもらったら困ります!むしろ、そんなテギョンさんの一面を知れることによって、もっともっと好きになってしまいます!!」
自分の腕の中で力説するミナムに、テギョンは動悸がますます収まらなくなっていた。
「お前もそうなのか?」
震えそうになる声で、そっと訊ねてみる。
「もちろんです!画面の中では知ることのできないテギョンさんを知ってしまったら、ますますその想いは大きくなってしまいます。もうどうしようもないくらいに…。」
ミナムは、ハッと口をふさいだ。
ばかばか!!何を言っているの!これでは告白しているのも同然じゃない!!!!!
テギョンの腕の中でパニックになっているミナムと、そんなミナムを真っ赤な顔で見つめているテギョン。
トントントン。
静かな部屋にやけに響き渡るノックの音に、慌てて離れる二人。
「ミナム、もうご飯だよ。」
シヌの優しい声が扉の向こうから聞こえる。
「は、はいー、すぐ下ります!!」
ミナムがどうにか返事をすると、シヌは分かったと、そのまま下へ降りて行ったようだ。
テギョンはこの今の自分の気持ちがどのようなものなのか、良く分からなかったが、それでも伝えなければならないと、口を開いた。
「おい、お前はコ・ミニョだが、今はコ・ミナムだ。だから、そのファンレターだって素直に喜べばいい。それが兄の為にもなり、俺たちA.N.JELLの為でもあるのだから。分かるか?」
「あまり…。」
「あーーーーこれだから豚うさぎは困る!要するにだ、お前が必要だって言いたいんだ。」
「必要?」
「そうだ!コ・ミニョが必要だ!」
「私が?」
「そうだ。A.N.JELLにとっても俺にとっても。」
今、俺にとってもって言ったーー!?
ミナムは頭の中で花火がぱーーんと打ちあがって、口をぽかーんと開けてテギョンを凝視した。
そんなミナムの視線にたじろぎながらも、いつもの妙なミナムが戻ってきたことが嬉しくて、テギョンはそっとその腕を離し、ミナムの頭をくしゃっとなでて立ち上がった。
「とにかく、今お前の出来る限りのことを一生懸命頑張ることこそが真実だと俺は思うからな。」
そう言うと、赤くなった顔を隠すようにくるっと背を向けると、そのまますたすたとミナムの部屋を後にした。
院長様、お星様が私を必要だと言って下さいました。
だから、もう少しだけ…ずるい私をお許し下さい。精一杯お兄ちゃんになりきってみせますから…。
テギョンもまた、階段を降りながら、どうしてあそこまでムキになってミナムを引き留めたのか、自分でも意味不明だったが、それでも心の内にある想いを、ほんの少しだけでもミナムに伝えられたことが、なんだか嬉しかった。
本物のコ・ミナムが帰ってくる時、なにかが変わっているだろうか。
今までに感じたことのない、甘い胸の疼きに、テギョンはそっと目を閉じた。![]()
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皆様にとって楽しい連休でありますように
「あれ?ジフ先輩のお部屋こっちじゃなかったですか?」
リビングのすぐ側にある部屋に行かず、今まで見たこともない廊下を走るジフに、ジャンディが不思議そうな顔をしている。
「だって俺の部屋だったら、おじい様に丸見えだよ。」
「ででででも、別に何もやましいことはありませんので…。」
ジャンディが、言葉につまりながらジフの顔をのぞきこんだ。
「やましいことって?」
ぴたっと足を止めて、とてつもなくかわいい顔でジャンディを見つめるジフ。
「いいいや、それはその、別になんでもありません!!」
ふふふって楽しそうに笑って、更に意地悪を言うジフ。
「やましいことしたらダメ?」
一瞬かなり驚いた顔をして、それから、
「ダメかと聞かれればダメなような、そうでないような…。」
落ち着きをなくし、真っ赤な顔でおろおろするジャンディを、楽しそうに見つめ続けるジフ。
「ダメじゃないよね?」
「どどういう意味ですか?」
「だって、もう婚約したし。」
「そ、それは…まだその分からないじゃないですか!」
「それこそどういう意味?」
少しむっとした顔のジフから、少し視線をそらせたジャンディは、急に真っ赤な顔になって、小さな声で話しはじめた。
「あ、あの…今はその私のことあんまりというか、何も知らないけど、これから先、色々な私を知って…その…ジフ先輩私のこと嫌いになるかもしれないじゃないですか…だから…」
まだまだ続きそうだったジャンディの言葉をさえぎるジフ。
「ならない。」
「どうしてそんなことが分かるんですか?」
「…ジャンディ、俺がどれだけジャンディのことだけ見てきたか分かってる?」
「それは…。」
「絶対に分かってないね。」
ジフは、黙ってうつむくジャンディの頬を両手でむぎゅーって包み込んで上を向かせて、
「これから死ぬほど分からせてやる。」
と、ちょっと怒った顔に悲しさをにじませて、ジフが口をとがらせた。
ジャンディは、あまりに心臓が早く動き過ぎて、死んでしまいそうになりながらも、そのジフの表情から目をそらせないでいた。
「嫌いにならない?」
「なーらーなーいー。」
「本当?」
「本当。俺はジャンディの方が心配。」
「はぁ?」
「俺のこと嫌いにならない?」
「なるわけないじゃないですか!いい加減にして下さいよ!!」
ジャンディが白目をむいて怒りだしたものだから、ジフはたまらず声を上げて笑ってしまっていた。
「俺に全く同じこと言ったくせに、ジャンディだけ怒ってずるい。」
「えっ?あ、そうかぁ。そうですよね…。すみません。」
ジャンディが素直に謝るものだから、かわいくてたまらなくて笑いが止まらないジフ。
「大好きだよジャンディ。」
「私も、ジフ先輩が大好き。」
バカップルみたいだぁ、なんて思いながらも、こんなにも幸せでいいのかと心配になるくらいの極上の時間を、ジャンディは一生忘れたくないと深く心に刻むのだった。
ジフもまた、愛して止まないジャンディが、自分から嫌われるのではないかと心配しているのを目の当たりにして、内心はとても驚き、そして、たまらなく幸せな気分であった。
俺がジャンディのこと嫌いになるわけないって、他の人なら当たり前に分かることなのに。
部屋に入る前なのに、ジフはたまらずにジャンディを強引に引きよせると、その額にちゅっとキスをした。
「ジャンディ、今日は泊まってくれるよね?」![]()
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ジフ先輩が、CDを5枚同時に発売するらしいのですが、それを全て買えば、更にイベントの抽選に応募できるらしく…
かなり迷っています。買うべきでしょうか…。
しかも、買う店舗によっては、ポスターがついてくるらしく、一体どこでどのように何を買えばいいのか全く分かりません
む、難しい…どなたか教えて頂けないでしょうか、よろしくお願い致します
おじい様とジフ、ジャンディは、そうして長い間抱き合って幸せの涙を流した。
「さぁ、ご飯にしようか。」
おじい様の晴れやかな声に顔を上げると、いつの間にか彩り鮮やかな食事が大きな食卓に所狭しと並べてある。
ジャンディの目があまりにもキラキラとしているので、ジフは思わず笑ってしまっていた。
「そういえば今日はお昼も食べてないもんね。」
「うん!急に凄いお腹空いてきちゃった!!」
「お前はいつも腹ペコなんじゃないのか?」
「おじい様ー。」
口をとがらせて目じりを下げるジャンディに、おじい様とジフは更に笑みを深めた。
そして、食事をとりながら、ジャンディがこの家から離れていた1年の時間を埋めるように、たくさんたくさん話しをした。
どれだけ話しても話し足りず、それがどれだけ3人の心を寂しくさせていたかを知ることとなった。
「ジャンディ、もうここから離れることは許さんからな。」
少し涙ぐみながらジャンディを諭すおじい様に、ジャンディは深く深くうなずいた。
「はい。もう二度とおじい様の傍を離れません!」
「ジャンディ…おじい様じゃなくて、俺なんじゃないの。」
少しふくれっ面のジフが、ジャンディの洋服の裾を引っ張ると、途端に顔を赤らめるジャンディ。
その反応を見て、嬉しそうにこれまた顔を赤らめるジフ。
そんな二人を見て、
「おい!結婚はまだなんだから、部屋の中に二人だけで扉を閉めることは許さんからな!」
と、大声で怒ったふりをするおじい様。
「おじい様、もうその約束は守れません。」
と、ジフがいたずっ子のように口角を上げたら、目をまん丸にして驚くジャンディと、「こらっ!」と、冗談で拳を振り上げるおじい様。
それから、ジフとジャンディは真っ赤な顔を見合わせて、幸せそうに微笑み合った。
そして、ジフはジャンディの手をぐいっとつかみ、
「おじい様、早速二人で部屋へ行きますね。」
と、にっこり微笑んでから、走ってリビングを後にした。
「おおおじい様!ごちそう様でしたーー!!!」
ジフに引っ張られながら、ぺこりとおじぎをするジャンディに、おじい様は嬉しくて幸せで仕方がなくて、会心の笑みを浮かべたのであった。![]()
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あっちこっちしてしまってすみません…