じっとりと皮膚の表面にまとわりつく暑さ。
早々に満を持せず扇風機を登場させた。
分解できないタイプの扇風機がゆえ、隙間から綿棒をつっこみ
ファンに付いた埃や塵をくまなく除去して、埃の蔓延を防ぐ。
今年もよろしくお願いしますと感謝を述べ、早速スイッチを入れると、
ファンのどこかに、何かが当たってカラッカラッとリズムを刻み始めた。
扇風機内部の諸事情は判らないが、数年前の夏から始まる不具合は今年も健在のようだ。
最初の風には当たってはいけない。
ここはぐっと堪えて待つ。
待って待って、もういいだろうと思うところを固唾を飲んで待つ事、
永遠にも感じるほどの10秒。
大きめの一塵が内部より吹き飛んで出てきた。
昨年の夏の思い出を全て吐ききってしまわないと、今年の夏が迎えられない。
風を直接受けると身体に悪いそうなので、温めの風がかすめる程度に、
丁度いい塩梅の角度で設置した。
涼しい!
なぜ昨日出さなかったのかと、なぜ1日我慢したのかと悔やまれる。
温まった室内の空気をかき混ぜるだでけ、こんなにも違うものかと。
毎年感動して秋頃にはすっかり忘れ、また数ヶ月後には新たに感動する。
なんと新鮮な気持ちの繰り返し。
人間の最大にして最高な能力 ”忘却” あってこその感激、
涼しさへの感動、そして感謝の心。
ふと気がつくと”夏” がいる。
玄関前に佇んでいたはずの、申し訳なさそうにチャイムを押してた彼奴が、
まねき入れた記憶もないまま見事我が家に上がり込み、厳かに胡座をかいている。
ここ数日の暑さで朦朧としはじめたところを春先のふりした彼奴に、
まんまと一杯食わされたのかもしれない。
留守番中の子やぎが母の帰宅だと確信し、思わずドアを開けた時のように、
”夏” の巧妙な手口は年を重ねるごとに洗練され、演技の幅が広がってきている。
平田オリザ氏の芝居よろしく、ドア前に佇んでいた時すでに開演していたのかも知れない。
”夏”はすでに本番を迎えていた。
