アメリカ編「第2部」⓾「車椅子の少年」

 

 

10月の下旬、少し肌寒い日が続くようになった。
レレイは、セミショートの髪が少し伸びて、天然のソフトウエーブの前髪が、とてもステキになっていた。

リハビリ・センターで、レレイの進歩は目覚しいものがあった。手すりにつかまって、足を左右に上げられるようになった。また、手すりを片手でもつだけにして、方向を変えられるようになった。

今日から、平行棒に沿って、歩行の練習を始める。
平行棒は脇の下より少し低い位置。
レレイは、棒を頼りにしながら、少しずつ歩いていった。
「レレイ、歩けるじゃない。」と私は叫んだ。
「うん。他の練習していたからかな。」とレレイは言う。
棒の終わりまで来て、ターン。少しずつ足を動かして、これもなんとか出来た。また、歩く。だんだん棒に頼らないようにしていく。

1時間ぶっ続けでやって、とうとうレレイは、手すりにほとんど触らないで歩くことが出来た。
「わあ、レレイ。すごい。すごい。」と私はレレイを抱きしめた。

「何度もやってみるね。」とレレイは言った。
両腕を横に少し伸ばしたまま、レレイは歩く。
前かがみで歩いていたものが、だんだん背筋が伸びていく。
わあ、すごいと私は見ていた。歩くだけなら、クリスマスに絶対間に合う。

車椅子の男の子が、それをじっと見ていた。
このリハビリ・センターは、地域に開放しているので、
小学生もやってくる。

レレイが少しでもうまくなると、その男の子も、拍手を送り始めた。
「お姉ちゃん、すごいよすごい。すごい上達だよ。」
レレイが気が付いて、
「ありがとう!」と男の子に言った。
「あたしは、レレイよ。」とレレイは、棒につかまって言った。
「ぼく、ジョン。ときどき来てるんだけど、お姉ちゃん、ど    んどん上手になっていくんだもん、つい応援しちゃっ           た。」

「ジョン、あたしジュンよ。」と話しかけた。
「あ、よろしく。」とジョンは握手をした。
「ジュンがいつも励ましているから、レレイはやる気になれ     るんだね。」とジョン。
「そうよ。ジュンがいると、やる気になれるの。」とレレイ。
「ぼくには、そういう人いない。」と男の子は淋しそうに言った。
「私たちが励ましてあげる。つきっきりは無理だけど。」とレレイが言った。
「ほんと。なら、ぼくもがんばる。」ジョンは言った。



レレイは、どんどん上達して、自立していった。私の励ましも少しでよくなって来た。私はその分、男の子の方をサポートした。

「車椅子から、足を上げる練習ね。」
「うん。」
ジョンはそう言ったが、なかなか足が上がらない。
「1cm上がったら、教えてあげるね。」
私は足乗せの高さに目をやって見た。

そのうち、ジョンの足が1cm上がった。
「あがったわ。ジョンえらい!」と私はジョンを抱きしめた。ジョンはうれしそうな顔をした。
「今度は反対の足いこう。むずかしいよ。」と私は言った。

ジョンはがんばった。
「わあ、いった。2cmあがったよ。すごいジョン。」
ジョンの頭を撫でた。
「じゃあ、あたしは、レレイの方行くから、がんばって。
 3cmいけるかもしれないよ。」
「うん。」とジョンはうれしそうに言った。

レレイは、かなり速く歩けるようになっていた。
「レレイすごい。どうして、そんなに上達が早いの。」
「なんだか歩けるの。自分でも不思議。基礎練習たくさんや     ったからかな。」とレレイ。
「レレイ、少し休憩した方がいいよ。ジョンの応援少しやろ     う。」と私は言った。
私は、レレイを抱えて、床に座らせた。
そして、2人でジョンを見ていた。
ジョンは、両足3cm上がった。
「わあ、ジョンすごい!」と2人で言った。
「やったー。ぼくうれしい!」とジョンは笑顔いっぱいで言った。

それを、少し離れたところで、見ている人がいた。
目にハンカチを当てている。
「あ、お母さん。」とジョンが言った。
お母さんは近づいてきた。
「ありがとうございます。ジョンが笑顔を見せたの、今が初     めてなんです。交通事故にあって3年経ちますが、それか     ら、笑わない子になってしまって。それなのに、こんなに     生き生きして。」
お母さんはそう言って、また涙をぬぐった。

「そうだったんですか。」とレレイは言った。

「私も歩けなくなったときは、世の中がまっくらに思えまし     た。笑顔なんか出ませんでした。」
ジョンが、「レレイとジュンのおかげだよ。ぼくやる気出たから。」と言った。

お母さんは言った。
「ジョン、お母さんが間違っていたわ。あなたがセンターに     いるとき、お母さんは、買い物をしたり、自分の用を済ま    せていたの。でも、レレイさんとジュンさんを見ていてわ    かったの。私、いつもジョンのそばにいて、ジョンを励ま    すべきだった。一人で練習させてきて、ごめんなさい。こ    れからは、お母さんが、レレイとジュンの代わりをする        わ。」

「レレイと、ジュンの方が嬉しいけど、お母さんでもいい       や。」
とジョンが言ったので、4人で笑った。
「じゃあ、あたしたちときどき見に来るからね。」とレレイは言った。
私は、レレイに立つことだけは、手伝った。
私が手を貸すと、レレイはもう歩ける。うれしかった。
私たちは、ホールの壁のところにいった。



私はレレイに言った。
「レレイ。ぼく欲張りだから、レレイが歩くだけじゃなく      て、ワルツを踊れるようになったらいいなって思うの。
 ステキじゃない?お父さん、お母さんと、クリスマスの日     に、ワルツを踊れたら。」
「ジュン。それステキ。あたしがんばりたい。」
「それには、前に行けること。バックができること。横に歩     けること。この3つだと思う。」
「うん。がんばる。さっきの平行棒で、後ろ歩きしてみる       ね。」レレイは言った。



このごろ、レレイは、6時までに帰るということで、
私が、お家まで送り届けていた。
レレイは、車椅子から、座席に簡単に移れるようになっていた。
「お母さんのとき、わざと出来ない演技をするのが、大変な     の。」とレレイは言った。
「あはは。そういうの『うれしい苦労』って言うんだよ。」
と私は車椅子をしまいながら言った。
「なるほど、うれしい苦労が増えていくといいな。」

6時まであと30分。
私はレレイを乗せて発車した。

 

次回(迷ってます。)

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