リナと二人で夜の新宿を散歩(新宿編7 後編)

 

 

リナが落ち着くまで、

小部屋の中で、壁に寄りかかって、並んで座った。

 

「落ち着いた?」と聞いた。

「少し。」

「よかった。」

「ぼく…。」

「あ、リナは女の子だから、自分のこと、リナって呼ぶと可愛いわ。すぐに慣れるわ。」

「大丈夫です。ぼくは、心の中で、自分のことずっとリナって呼んでいたから。」

「そうなの。かわいいな。」

「リナね。さっき、ナナさんに抱いてもたったとき、心臓がドキドキしました。

 女の人に抱かれたの初めてだったから。」

 

(リナは、私のこと女の子だと思ってたんだ。リナには言おう。)

 

「ナナは、男よ。」

「え?」と言って、リナが私を見た。

「ほんとう?」

「ええ。」

「わあ、感激です。完全に女の人に思えました。」

「リナは、もっと女の子に見えるわ。」

 

 

「ママがね。こんなこと言うの。リナとナナは、『同じ人種』だって。」

私はちょっと笑った。

「でも、意味がわかった。」

「どんな?」

「リナは女声。ナナも。リナは女顔。ナナも。リナは女の子の匂いがする。ナナもそうなんだって。」

「ほんとだ。すごく似てます。」

 

「普段でも女の子に間違われない?」

「間違われてばかり…。」

「苦労してる?」

「苦労してます。」

「トイレとか。」

「そうです!」リナが嬉しそうな顔をした。

「おっと、ここは男子だぞって、あれ?。」

「そうなんです!ナナさんも?」

「あれ、悲しいわよね。」

「だから、リナは、髪の毛をわざと短くしてるのに…。」

「それでも、言われるんだ。」

「はい。」

 

 

「リナ、学校でいじめられていない?」

「いじめられてはいないけど、一人ぼっち。」

「休み時間なんかどしているの?」

「一人で本を読んでいます。」

「それしかないわよね。」

「はい。」リナはちょっとうつむいた。

「今までで、よかった本は?」

「『二人のロッテ』。」

「あ、かわいい。あれ、ナナも大好きだった。」

「リナは、ロッテみたいに双子だったらいいなって、何度も思った。」

「ナナもよ。双子だったら、二人で女装して、話合えるのにって思った。」

「同じです。」と言って、リナが笑った。

 

「でも、もう私達、二人のロッテよ。」

「ナナさんとリナで?」

「そう。同じ人種だもん。字だって一文字ちがいよ。」

「あ、ほんとだ。」

二人で手を取って笑った。

 

 

リナのお化粧直しをして、ママと近藤さんへリナを見せに行った。

「はい、リナちゃんの誕生でーす!」

 

「おお、白雪姫じゃないか。」と近藤さんは、喜んだ。

「可愛いわ。ナナと姉妹みたい。」とママ。

「姉妹じゃないの。双子なの。二人のロッテなのよ。」と私は言った。

 

 

「遅くならないうちに、早くお散歩に行ってらっしゃい。」

とママに言われた。

 

ママが持って来てくれたオーバーコート。

リナには白いのを。私は黒いのを。

コートに合わせたバッグを肩から下げた。

 

バッグが軽くない。中を見ると、化粧品やハンカチまで入っている。

 

「わあ、ママ。ここまでしてくださったの。」と私。

「気が利くのよ、あたし。お金は入ってないから、自分で入れてってね。」をママが笑う。

 

 

リナと私は手に手をとって、お店を出た。

ゴールデン街をさっと抜け、新宿通りに出た。

 

夜の10時を過ぎているというのに、通りはまだまだ人がいる。

 

クリスマスが近くて、クリスマス飾りのお店が並んでいる。

店からのクリスマス・メロディーが、通りに流れている。

 

私達は、新宿駅を目指して歩いていった。

 

「リナ、幸せです。ナナさんみたいな人と、新宿の外を歩けるなんて、夢にも思わなかった。」

とリナが言う。

 

「リナ、ほらウインドウを見て?」

閉店したお店のショーウインドウに、二人の姿が映っている。

コートを着た女の子が二人。私達は、しばらくそれを眺めた。

「だれも、男の子二人だとは思わないわ。」私は言った。

「そうですね。」リナも言う。

 

歩道の人々とすれ違う。

 

スーツを着た男性や、学生風の男の子。

たくさんの人の視線を感じる。

 

「女の子になるとわかるでしょう?

 男の人がどれだけ女の子を見ているか。」私。

「リナ、男とバレているのかと思いました。」

「多分逆よ。あたし達、可愛いなって見られていると思うわ。」

「なんだか、うれしい。」

「ときどき、振り返って見て?すれ違って、もう一度私達を見て行く人もいるわ。」

 

リナは、ちょっと振り返った。

「ほんとだ。さっきの人振り返って、私達を見てました。」

 

 

「リナ、あそこから来る男の人に、道を聞いてごらんなさい。

 新宿駅はどこですかって。」私。

 

「だって、目の前ですよ。」とリナ。

 

「いいの。声パスするか試すの。リナなら絶対だけど。」

 

男の人が近づいて来た。

 

「あの、新宿駅はどこですか?」とリナは聞いた。

 

男の人は、リナと私をまず見てから、

「あ、あの目の前の大きなビルですよ。」

そう言い、ちょっと微笑んで通り過ぎていった。

 

「わ、リナ、初声パス!」と私。

「ジロっと一瞬見られました。」

「リナが可愛いからよ。」

 

 

新宿の駅構内に入った。

私が詩を売っているように、通りにしゃがんで手製のブローチを布に広げて売っている男の子がいた。

髪を伸ばしていて、少し可愛い。

 

「リナ、今日のフィナーレ。あの男の子とお話ししちゃいなさい。」

「はい。」とリナ。

 

リナはつつっと、男の子の方に行って、しゃがんでブローチを見始めた。

私は、少し離れたところで、見物。

 

「見ていい?」とリナ。

「うん、よく見て。」と男の子は言った。

リナが見ている間、男の子はリナばかり見ている。

(リナ、モテてると思った。)

 

「どうやって、作るの?」

男の子は、うれしそうに作り方を説明した。

「ふーん、大変なんだ。」とリナ。

「あのさ、君、可愛いね。」と男の子が言った。

「誰が?」とリナ。 (リナ、やるなあと思った。)

「君のことに決まってるじゃん。」

「あ、ありがとう。」リナは男の子を見て、ニコッと笑った。

「働いてるの?」

「うん。」

「何して。」

「喫茶店でウエイトレスしてる。」

「ふーん、えらいね。」

「ありがとう。これ、買います。」

リナは、ブローチを1つ買った。

 

リナが私のところへ来るまで、男の子はずっとリナを見ていた。

 

私のところへ来たリナは、

「ああ、男の子と話しちゃった!」とうれしそうにはしゃいだ。

「リナ、クールだったわよ。感心していたの。」私。

「なんか、心の中が、完全に女の子になっていました。」

「男の子の前では、自然に女の子なってしまうでしょう。」

「はい。そうでした。」

 

 

「そろそろ帰ろう。」と私は言った。

「はい。」とリナ。

 

帰り道で聞いた。

「今日のお散歩で、一番よかったことは、なあに?」

「もちろん、男の子と話したことです。」

「彼、リナがブローチ見ている間、ずーとリナのこと見てたのわかった。」

「はい。視線感じて、最高に幸せでした。

 今日は、生まれてから、一番いい日です。」リナが満足そうな顔でそう言う。

「リナの最高の日に立ち合えて、ナナも幸せ。」

 

二人で、また腕を組んで、ゴールデン街までの道を歩いた。

クリスマスの曲がまだ流れていて、夜の新宿が輝いて見えた。

 

 

(*続きが、見つかったら、続けます。)

 

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