リナと二人で夜の新宿を散歩(新宿編7 後編)
リナが落ち着くまで、
小部屋の中で、壁に寄りかかって、並んで座った。
「落ち着いた?」と聞いた。
「少し。」
「よかった。」
「ぼく…。」
「あ、リナは女の子だから、自分のこと、リナって呼ぶと可愛いわ。すぐに慣れるわ。」
「大丈夫です。ぼくは、心の中で、自分のことずっとリナって呼んでいたから。」
「そうなの。かわいいな。」
「リナね。さっき、ナナさんに抱いてもたったとき、心臓がドキドキしました。
女の人に抱かれたの初めてだったから。」
(リナは、私のこと女の子だと思ってたんだ。リナには言おう。)
「ナナは、男よ。」
「え?」と言って、リナが私を見た。
「ほんとう?」
「ええ。」
「わあ、感激です。完全に女の人に思えました。」
「リナは、もっと女の子に見えるわ。」
*
「ママがね。こんなこと言うの。リナとナナは、『同じ人種』だって。」
私はちょっと笑った。
「でも、意味がわかった。」
「どんな?」
「リナは女声。ナナも。リナは女顔。ナナも。リナは女の子の匂いがする。ナナもそうなんだって。」
「ほんとだ。すごく似てます。」
「普段でも女の子に間違われない?」
「間違われてばかり…。」
「苦労してる?」
「苦労してます。」
「トイレとか。」
「そうです!」リナが嬉しそうな顔をした。
「おっと、ここは男子だぞって、あれ?。」
「そうなんです!ナナさんも?」
「あれ、悲しいわよね。」
「だから、リナは、髪の毛をわざと短くしてるのに…。」
「それでも、言われるんだ。」
「はい。」
*
「リナ、学校でいじめられていない?」
「いじめられてはいないけど、一人ぼっち。」
「休み時間なんかどしているの?」
「一人で本を読んでいます。」
「それしかないわよね。」
「はい。」リナはちょっとうつむいた。
「今までで、よかった本は?」
「『二人のロッテ』。」
「あ、かわいい。あれ、ナナも大好きだった。」
「リナは、ロッテみたいに双子だったらいいなって、何度も思った。」
「ナナもよ。双子だったら、二人で女装して、話合えるのにって思った。」
「同じです。」と言って、リナが笑った。
「でも、もう私達、二人のロッテよ。」
「ナナさんとリナで?」
「そう。同じ人種だもん。字だって一文字ちがいよ。」
「あ、ほんとだ。」
二人で手を取って笑った。
*
リナのお化粧直しをして、ママと近藤さんへリナを見せに行った。
「はい、リナちゃんの誕生でーす!」
「おお、白雪姫じゃないか。」と近藤さんは、喜んだ。
「可愛いわ。ナナと姉妹みたい。」とママ。
「姉妹じゃないの。双子なの。二人のロッテなのよ。」と私は言った。
*
「遅くならないうちに、早くお散歩に行ってらっしゃい。」
とママに言われた。
ママが持って来てくれたオーバーコート。
リナには白いのを。私は黒いのを。
コートに合わせたバッグを肩から下げた。
バッグが軽くない。中を見ると、化粧品やハンカチまで入っている。
「わあ、ママ。ここまでしてくださったの。」と私。
「気が利くのよ、あたし。お金は入ってないから、自分で入れてってね。」をママが笑う。
*
リナと私は手に手をとって、お店を出た。
ゴールデン街をさっと抜け、新宿通りに出た。
夜の10時を過ぎているというのに、通りはまだまだ人がいる。
クリスマスが近くて、クリスマス飾りのお店が並んでいる。
店からのクリスマス・メロディーが、通りに流れている。
私達は、新宿駅を目指して歩いていった。
「リナ、幸せです。ナナさんみたいな人と、新宿の外を歩けるなんて、夢にも思わなかった。」
とリナが言う。
「リナ、ほらウインドウを見て?」
閉店したお店のショーウインドウに、二人の姿が映っている。
コートを着た女の子が二人。私達は、しばらくそれを眺めた。
「だれも、男の子二人だとは思わないわ。」私は言った。
「そうですね。」リナも言う。
歩道の人々とすれ違う。
スーツを着た男性や、学生風の男の子。
たくさんの人の視線を感じる。
「女の子になるとわかるでしょう?
男の人がどれだけ女の子を見ているか。」私。
「リナ、男とバレているのかと思いました。」
「多分逆よ。あたし達、可愛いなって見られていると思うわ。」
「なんだか、うれしい。」
「ときどき、振り返って見て?すれ違って、もう一度私達を見て行く人もいるわ。」
リナは、ちょっと振り返った。
「ほんとだ。さっきの人振り返って、私達を見てました。」
*
「リナ、あそこから来る男の人に、道を聞いてごらんなさい。
新宿駅はどこですかって。」私。
「だって、目の前ですよ。」とリナ。
「いいの。声パスするか試すの。リナなら絶対だけど。」
男の人が近づいて来た。
「あの、新宿駅はどこですか?」とリナは聞いた。
男の人は、リナと私をまず見てから、
「あ、あの目の前の大きなビルですよ。」
そう言い、ちょっと微笑んで通り過ぎていった。
「わ、リナ、初声パス!」と私。
「ジロっと一瞬見られました。」
「リナが可愛いからよ。」
*
新宿の駅構内に入った。
私が詩を売っているように、通りにしゃがんで手製のブローチを布に広げて売っている男の子がいた。
髪を伸ばしていて、少し可愛い。
「リナ、今日のフィナーレ。あの男の子とお話ししちゃいなさい。」
「はい。」とリナ。
リナはつつっと、男の子の方に行って、しゃがんでブローチを見始めた。
私は、少し離れたところで、見物。
「見ていい?」とリナ。
「うん、よく見て。」と男の子は言った。
リナが見ている間、男の子はリナばかり見ている。
(リナ、モテてると思った。)
「どうやって、作るの?」
男の子は、うれしそうに作り方を説明した。
「ふーん、大変なんだ。」とリナ。
「あのさ、君、可愛いね。」と男の子が言った。
「誰が?」とリナ。 (リナ、やるなあと思った。)
「君のことに決まってるじゃん。」
「あ、ありがとう。」リナは男の子を見て、ニコッと笑った。
「働いてるの?」
「うん。」
「何して。」
「喫茶店でウエイトレスしてる。」
「ふーん、えらいね。」
「ありがとう。これ、買います。」
リナは、ブローチを1つ買った。
リナが私のところへ来るまで、男の子はずっとリナを見ていた。
私のところへ来たリナは、
「ああ、男の子と話しちゃった!」とうれしそうにはしゃいだ。
「リナ、クールだったわよ。感心していたの。」私。
「なんか、心の中が、完全に女の子になっていました。」
「男の子の前では、自然に女の子なってしまうでしょう。」
「はい。そうでした。」
*
「そろそろ帰ろう。」と私は言った。
「はい。」とリナ。
帰り道で聞いた。
「今日のお散歩で、一番よかったことは、なあに?」
「もちろん、男の子と話したことです。」
「彼、リナがブローチ見ている間、ずーとリナのこと見てたのわかった。」
「はい。視線感じて、最高に幸せでした。
今日は、生まれてから、一番いい日です。」リナが満足そうな顔でそう言う。
「リナの最高の日に立ち合えて、ナナも幸せ。」
二人で、また腕を組んで、ゴールデン街までの道を歩いた。
クリスマスの曲がまだ流れていて、夜の新宿が輝いて見えた。
(*続きが、見つかったら、続けます。)