この記事は、2011年4月23日、生まれて初めてブログに書いた、記念の第1号です。懐かしいです。

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    新宿ゴールデン街の500円のラーメン店

                         

私が学生になったとき、幼い頃からの夢だった女装が叶った。女装サロンがあって、何回か女装しに行った。でも、1回の料金が高いので、そう頻繁には行けなかった。

その頃の私は、小田実の「何でも見てやろう」という言葉に触発されて、賑やかな新宿の夜の姿を知りたいと思っていた。

夜の町を冒険をするのに、私にはハンデがあった。女声であったこと。女顔だったこと。若く見られ、学生なのに、ともすると中学生に見られたことだった。

だのに、私は単独行動が好きだった。

学生だった私は、親から月5千円の小遣いをもらっていた。
夜の世界を冒険するには、少し貧し過ぎた。



新宿の「ゴールデン街」と呼ばれるところは、間口1間くらいのバーやスナックが、凝縮して並んでいる迷路のような地帯だ。私は、そのゴールデン街に、ラーメンが食べられる店があると聞いて、是非そこに行きたいと、冒険心を燃やしていた。

そこで、まず昼間のゴールデン街を下見にいった。
店々は、夜からの営業なので、昼間は、誰も人がいない。
どこへでも、安全に行き放題。
そして、ついに「ラーメン500円で食べられます。」と小さな貼り紙を出している店を見つけた。店は、9時開店と書いてあった。
そこへの道順を頭に入れて、私は気合を入れて家に帰った。



夜の9時を過ぎた頃に、ゴールデン街へ入って行った。

辻々に怪しげな女の人が立っている。そばに行くと声を掛けられる。声で、男性だとわかる。私は逃げるようにして、目的のお店に行った。

私は女の子に見られるのが、ハンデだと思っていたくせに、
髪は、肩まで伸ばしていた。そして、いつも大きめの野球帽をかぶり、顔を半分隠していた。その帽子で、女っぽい顔立ちを隠しているつもりだった。

目的の店に来た。
店を前に、私は深呼吸をして、勇気を奮ってドアをあけた。

中にいたのは、2人のお客と、30代半ばの綺麗なママさん。二人のお客はラーメンを食べながらお酒も飲んでいた。

私はドアから首だけ出して、
「あのう、ここは500円でラーメンが食べられるんです       か。」そう聞いた。
「ええ、そうよ。」とママさんは言う。
「テーブルチャージなんか無しで食べられるんですか?」と     私。
「そうよ。安心してお入りなさい。500円きりよ。」ママさんはそう言って、私に手招きをした。
私は恐る恐る店に入り、カウンターの丸椅子に座った。
私は、こんなバーのようなスナックのような店に来ること自体初めてだった。

二人のお客から、ジロジロ見られた。

「あなた、どこの店の子?」とママさんから聞かれた。
「ぼくですか?」と私が言ったとき、ママさんはちょっと目を見開いた。
「あら、あなた男の子?」
「い、一応そうです。」
「女装バーで働いてるの?」
「いえ、学生です。」そう言うとママさんが、また目を見開いた。
「ちょっと、帽子をとって、ちゃんとお顔を見せて。」
私は言われる通りにした。
ママさんは、私の前髪をパラリと払って、
「眉が少し太いけど、前髪で隠せばいいか。」
と何か考えているようにつぶやいた。

やがて、ラーメンが来た。
かなりおいしい。
夢中になって食べていると、ママさんが、話しかけてきた。

「あなた、うちで働かない?女装がしたいんでしょう?」
「どうしてわかるんですか?」
私はラーメンを食べるのを忘れて聞いた。
「顔見りゃわかるわよ。ここでなら、赤い可愛いお洋服着       て、お化粧して、立たせてあげるわ。」
とママさんが言う。
 赤い可愛い服。お化粧。なんだか子供の頃から憧れた、たまらなく私をくすぐるキーワードだった。

「ぼ、ぼくは、働くんじゃなくて、お客として女装のお店に     行きたいんです。」と、私はやっとの思いで言った。
ママさんが、くすっと笑った。
「もう、来てるじゃない。」とママさん。
「……。」
「あたしは男よ。女に見えた?」
「え?」私は驚いた。脳の奥の方を打ち砕かれた気がした。
奥のお客が笑っていた。

「あなた知らないで来たのね。かわいいわ。」ママはくすっと笑いながら言った。
「絶対女の人に見えます。」私は言った。
「ありがとう。12時までは、食堂。それから、バーになる     の。あなたが、働いてくれるなら、もっと流行るんだけど     な。お洋服やかつらは、全部只で貸してあげる。土曜の夜     だけでもいいわ。」

小田実の「何でも見てやろう。」のフレーズが頭に浮かんだ。私にとって、夜の世界を知ることは、『大人になること』を意味した。何でも、社会勉強だと思った。

「あの、お客さんから、変なことされたりしませんか?」と私は聞いた。
「あたしがさせやしないわよ。じゃあ、9時から11時まで     の食堂タイムだけでいいわ。」
「まず、1日だけでもいいですか。」
「いいわよ。」とママさん。

決まった。
それだけで、心臓がドキドキしてしまった。
いよいよゴールデン街の一員になるのかと、ある感慨で胸がいっぱいになった。

<第2話につづく>

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