スーパー洋子・全日本男子バレーボール戦④

      「全日本が得た物」最終回
        

アナ「息詰まる攻防戦でしたね。感動しました。」
村井「ええ、これには、全日本の人達も、思わず拍手をして           いましたね。153cmの倉田選手が、198cmの           平井選手のスパイクをダイレクトで返すなんて、感動           以外の何物でもありません。」

平井は、高鳴る胸をやっと収めた。
10点差が付いたら、試合終了というのを思い出した。
それは、元々洋子が弱くて見ていられないときのものだった。だが、今、全日本が0点である。あと5点差で試合が終わる。平井は、選手の交代をした。自分に代わって鳥居、小林に代わって、高井を出した。つまりは、もと緑川高校の選手を出した。
鳥居も高井も、平井の心が分かり感謝した。
鳥居は4年後の自分のスパイクを洋子に見て欲しかった。
高井は、4年後のサーブとレシーブを見て欲しかった。

洋子は、高校の日々がよみがえるようだった。
まず、大蔵に、強烈なドライブサーブを出した。
大蔵は、体を倒しながら、それをとった。それをセッターに上げるところがすごい。セッターから鳥居へ。
鳥居は、渾身のスパイクを洋子にぶつけた。
洋子は、『わあ、すごいパワーアップ!』と思いながら、
アンダーでネット際に高く上げた。
そこまで、走り、例の7mスパイクを高井にぶつけた。
(選手にぶつけるのは、初めてである。)
高井は、顔の前に指を組み、後ろに倒れながら拾った。
『すごい!』と洋子は思わずにこっとした。その洋子の笑顔を高井は見た。

高井のレシーブは、セッターに届き、鳥居へ。
鳥居は、2本目、渾身の力で、洋子のいないところへ打った。鳥居は、この日のために瞳が動かない特訓をしていた。
洋子は走ったが、届かなかった。全日本、初めての1点である。洋子は、鳥居にもにこっとした。鳥居も、洋子の笑顔を見た。

初の1点。
「うおおおおお。」と全日本のメンバーは、固まって喜びを分かち合った。平井は、横で大きな声で、
「やっぱり、緑川は、違うなあ!」と叫んだ。

1点で喜んでいる。
観客は、どちらが全日本なのか、錯覚を起こしそうだった。

5-1

時は、少し遡る。
全日本男子バレーボール監督大平修の部屋に、マネージャーの梅田ミカがお茶を持って入って来た。
「まあ、監督何をやっているんです。早くテレビを見てくだ     さい。」
「何?どうしたんだい。全日本が女の子とバレーをやる茶番     劇など、見たくもないぞ。」
「それが、負けているんですよ。3-0で、一人の女子に、
 1点も取れずにいるんですよ。それでも平気なんですか?
 おふざけじゃないですよ。全日本の人達、本気の本気でや     って、1点も取れずにいるんですよ。」
梅田ミカは強引にテレビを付けた。
大平は見た。

それは、全日本がセットプレーを試みているところだった。
石井からのトスを平井に送り、平井がスパイクと見せかけて、反対側の横田にボールを送る。それを、横田がクイックスパイクをするのを、一人の女子に、見事に阻止されるところだった。
「なんだ。どうして、2人でやらん。阻止は簡単だろう。」と監督。
「違うんです。はじめから、1対6でやっているんです。
 彼女は、一人で戦っているんです。だのに、全日本が、ま    だ、1点も取れていないんです。」
「なんだあ?一人の女の子が、平井の偽スパイクを見ぬい       て、横田に飛んだのか。そして、クイックに間に合ったの     か。誰だ、この女性は。」
「鳥居さん、高井さん、大蔵さんの3人が、世界1と言った     人です。民間の人です。」

「しまった。はじめから見たかったな。」
「あとで、ビデオを見てください。あと5点取られたら、コ     ールド負けなんですよ。」
ここで、初めて、大平は、真剣になった。

「あああ、あのジャンプはなんだ。」
洋子の7mジャンプスパイクを見たときである。
ズバーンと豪快に決まる。
平井の渾身のスパイクを拾って、そのままネットに持って行き、トスを上げ、そこから、7mスパイク。
「おおお、世界で一番高いリー選手でも、4m80だぞ。7     mとは考えられん。」

「これでも、誰も怪我しないように、彼女は、人を狙ってい    ないんです。」
横田が、サーブを胸元に受け、後ろに2m飛ばされるVTRがあった。
「胸元なら、大きな怪我にならないだろうとの配慮です。す     ごいコントロールです。」
監督は、心から、驚いた。
「打球が見えないじゃないか。」
「そうです。サーブを打った瞬間、もうこちらに来ているん     です。」
「はじめから、見たかったなあ。それより、会場で見たかっ     た。」

洋子と平井、横田との、はげしいラリー戦になった。
「なんで、ここまで捕れるんだ。一人だろう?こんなに動け     る選手は世界にもいない。」
「だから、あの3人が、世界1と言うんだと思います。」
「あああ、平井の渾身のスパイクをダイレクト・スパイクし     た。すごい。これは、感動だ。体重がないから、スパイク     で跳ね返したんだ。何ということだ。」

「そうですね。」
見るうち、選手の交代があった。
鳥居と高井。

洋子、初めて高井にスパイクを打つ。
「おおこの人は、初めて7mスパイクを人に当てたぞ。高井     だ。おお、高井は、倒れながらレシーブだ。すごいガッツ     だ。セッターにあげた。すごいぞ、高井。次、鳥居だ。い     け!鳥居。おお、抜いたよ。さすが鳥居だ。
 みんな1点取れたことを喜んでいる。俺もうれしい。
   なんだな、この一人でやっている女性は「女神」だな。
 うちは、高さに弱い。ガッツも今一だ。それを、この人       は、7mから徹底的に打ってくれている。高井のガッツ       で、太田も7mを受けたぞ。」

「平井さんのときスパイクが通らなかったのに、鳥居さんに     なってから、どんどん決まります。」梅田。
「何?平井の方がパワーでは上だろう。」
「平井さんにないものが、鳥居さんにあります。」
「そうか。うれしいことだ。」

監督は、そのままテレビに首っぴきだった。

こちら会場。
全日本は、高井が、洋子の7mスパイクを取ったことが刺激になり、どんどん7mスパイクに挑んでいった。
アタッカーの横田も、鳥居に負けじと、スパイクを放った。
こうして、1つの大きな恐怖を超え、自信をつけていった。
そして、とうとう、7mスパイクをブロックポイントにした。

会場は、興奮のるつぼとなった。

全日本は、晩回し、13対13になった。
そして、18対16で、洋子が勝利した。
しかし、勝敗を気にするものはいなかった。

観客は、大満足していた。
「こんな試合が見られたなんて、超ラッキーだったな。」
「ああ、感動した。来てよかった。」
観客は、皆、そんなことを言っていた。

試合が終わり、みんなは、洋子の周りに集まった。
「倉田さん、俺のスパイク、なんで通ったの。」鳥居。
「鳥居さんの瞳が動かなかったから。」
「これ、瞳を読めるのって、倉田さんだけでしょ?
 実は俺、特訓したんだけど。」と鳥居。
「どの選手も、知らずに瞳を読んでますよ。でも今日の鳥居     さんのは、誰も読めません。だから、試合でびしびし決ま     ると思いますよ。」
「おおお。」と鳥居。
「なな、俺に7mスパイクくれたでしょ。初めて選手をねら     った。あれ、俺のこと信頼してたからでしょ。」と高井。
「違いますよ。高校時代の恨みです。」
みんなで、大笑いした。
「大蔵さんに、どんどんサーブを取られるようになって、焦     りました。」
「あれ、試合中に上達したんだよ。毎日練習に来てほし           い。」
「あたしも、バレーボールの方が、好きなんですけどね。」と洋子は笑った。

平井がしめた。
「今日の倉田さんとの試合で、はっきり成長したこと。
 (1)7mスパイクを経験したので、もう中国やロシアが              恐くありません。
 (2)ガッツ入れて挑めば、けっこうやれるとわかったこ             と。
ものすごく大きな成長です。
倉田さん、ありがとうございました。
緑川の3人は、倉田さんを世界1と言っていましたが、それ以上です。倉田さんは、『神』です。」
平井の言葉にみんなが笑った。
「さあ、みんなで、あいさつしよう。」と平井。
洋子と、選手たちは、会場の人達に向いて、挨拶をした。
「オリンピック、金メダル、待ってますよ。」
「洋子さん、最高。」
「感動した。ありがとう。」
と、たくさんの声をもらった。

洋子は、応援席に行って、
「みなさん、ありがとうございました!」と言った。
百合子が飛んで来て、洋子を抱き締めた。
「もう、あなたって人は。どこまですごいの。」
みんな、わあ~と拍手して、もう最高!などと言葉を投げかけた。
社長が立って、
「じゃあ、今日も、いつもの中華飯店でいいかな。」
「いいでーす!」

TBBの調整卓では、視聴率がうなぎのぼりで、35%になった。
小池と遠藤は抱き合って喜んだ。

三栄出版の社員たちは、ユニホームを着たまま、
洋子を囲んで、にこにこと通りを歩いて行った。

<おわり>

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