ぼくは、名物図書委員・哲学編(後編)

 

 

美咲ちゃんがやってきました。どうも、スピノザの本をもっています。

本の真ん中へんに栞を挟んでいます。

「わあ、美咲ちゃん、もうそんなに読んだの?」

「あたし、読むのだけは早いんです。」

「うらやましい・・。」

「今日は、委員長に超難問です。」

「それは、楽しみ。」

「デカルトは言いました。『我考える故に我在り』。

スピノザは言いました。『我思惟しながら存在する』。

委員長、この違いがわからなくて、昨日先に進めませんでした。

教えてください。」

 

「美咲ちゃん、この2つの言葉は、あまり深く考えなくても、いいかもです。」

「え?有名な言葉では、ないんですか。」

「デカルトの方は、いいんです。意味がよくわかるから。

 デカルトは、この世に確実に存在するものを吟味していったの。あるものは夢かもしれない、幻覚だってあるだろう。こうして、最後の最後、今こうして考えている自分だけは、間違いなく存在するだろうって。これが、デカルトの存在論の出発です。」

「なるほど。だから、『我、考える故に我在り』なんですね。」

 

「でも、スピノザは、デカルトと似たようなことをいいながら、ほとんど違うことを言ったの。『神』について語った。創造主は、神に似せて人間を作ったってあるでしょう。だから、キリストも、仏陀も、アマテラスも、ゼウスも、みんな人間の形をしている。でも、スピノザの言う神は、輪郭がないの。外側がない。起点も終点もない。

 高さも幅もない。」

「つまり?」

「宇宙です。そして、あらゆる存在、自然や人間は、神に属する部分であるって言ったの。神=宇宙です。」

 

「あらあああ。委員長、それ、まずいと思います。スピノザに味方や賛同者はいなかったんですよね。神は宇宙で一つだけって、スピノザは一人で言ったんですよね。世界中で、超ブーイングでは、ないでしょうか。スピノザ、ピンチですね。」

「その通り、滅茶苦茶、批判を受けたと思いますよ。」

「どうなったのですか?」

「スピノザは、ここで起死回生の「感情論」を出します。」

「世界1の難書ですね。」

「ぼくは、難書だとは思いませんでした。」

「それは、委員長がお利口だったからですね。」

「ちがいます。本当はやさしかったからです。世界1やさしい哲学書です。」

 

「スピノザは、人間の感情は、主に3つあるといいました。欲望、喜び、そして悲しみです。そして、3つのバランスが、人間を支えていくといいました。さらに、スピノザは、3つの感情を分析・統合して、38の感情に分けました。」

「すごいですね。38も思いつきません。」

「ぼくも、思い出せません。3つの大きな感情と、38の感情の内、自分に合ったものを選び、バランスを取って行きます。自ずと理性的振る舞いが求められます。これが、

 人に「幸福をもたらすのです。」「理性知」とも言うそうです。この理性知がやがて、

 人を「真の自由」に導きます。」

 

「まあ、感動的だわ。あたし、スピノザを割り振られてよかったです。」

 

美咲ちゃんは、少し目を伏せて、やがて目を開いて、にっこりしました。

美咲ちゃんは、ぼくにとって、スピノザと同じくらいの喜びです。

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