ユキは、柔道の試合に緑の丘のメンバーとして出ます。

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「ユキと雪之介」青春編④⑤「ユキ、県大会出場決定」

   ====思い切って2話連続掲載です===

 

 

緑の丘高校柔道部は、予選を軽く突破し

いよいよ全国大会の出場権をかけた、県大会となった。

男子戦での女子の参加については、過去に例があるのであっさりOKとなった。

これで、ユキは、出場できることになった。

 

ユキは、無段で白帯である、

練習のときも、みんなのコーチばかりしていたので、

実力は未知数だった。

(ただ、相当強いことはわかっていた。)

 

柔道の団体戦は、5人対5人。

勝ち抜き戦ではない。

3人勝てば、そこでチームの勝ちが決まる。

緑の丘は、部長の佐伯、副部長の篠原、1年の高木が3段で、3枚看板。この3人さえ勝てばいい。

並んだ順に下から、先鋒、次鋒、中堅、副将、大将となる。

 

大将の位置に、一番強いものがなるとは限らない。

ここは、作戦で、誰がどこに来てもいい。

チームの一番強いものが、相手の一番強い者には、負けそうなとき、

相手の2番手にあてる。すると、こちらの1勝。

相手の大将には、自分たちの一番弱い選手をあてる。

一番弱い選手は、どうせ負けるなら、相手の大将に負けるのが、こちらの得である。

 

こんなふうに、戦う順番を相手校により、考えることは大変大切である。

 

試合は日曜日にあり、県の体育館では、2面の柔道場があった。

緑の丘の柔道部員は、もちろん全員、

合気流部も、ユキの試合を見ようと、ほとんどが来ていた。

 

緑の丘は、大将にユキを置いていた。

しかし、3段の3人が勝って、そこで終わるので、

ユキが試合をすることは、まだなかった。

 

「わあん、また、ユキまで回らずに勝っちゃった。」

と道子はいった。

「今のところ、ユキさんは、『お人形』って見なされていま    すね。」

と小川正志がいう。

「お人形ってなあに。」と梨花。

「つまり、5試合まで回ることがないので、

 一番弱い選手をおいておくんです。」

と小川がいう。

「じゃあ、最後まで、ユキの試合がないこともあるの?」と道子。

「はい。あの3人が負けない限り、ユキさんの試合はありま     せんね。」

と小川。

「ああん、せっかく来たのに。」と梨花は言った。

「決勝では、強い学校とあたるので、ユキさんも試合をする     ことになりますよ。」

と小川が、まるで占い師のように言う。

 

試合は進み、小川の占いの通りになった。

毎年優勝をしている黒金高校との決勝になった。

「わあ、相手強そう。ユキ出るかな?」と道子が言った。

「出ることになると思いますよ。」と小川が言う。

 

黒金の部長の近藤啓二は、3段。185cmあり、体重も85kg。

巨体なのに、小さく丸まることもでき、小技も出す。

全国個人でも、4位である。

その他、3段があと3人いる。

緑の丘は、3段が3人。ユキを3段以上と考えないと、

勝ちはない。

 

体育館は、決勝以外のすべての選手は、決勝の回りに集まっていた。

中でも、たった一人の女子選手に注目が集まっていた。

どうせ「お人形だろう。」と思われていたが、

もしかしたら強いのかも知れないという期待もあった。

なぜなら、ずっと大将の座にいたからだ。

しかし、帯は、白帯である。

やはり、お人形か、というのが大勢の見方だった。

 

相手の黒金高校の部長の近藤は、ずっと4番手でやってきた。緑の丘の部長佐伯も4番手で来た。

最後だということで、黒金高は、予想した。

「最後は、部長同士、清々堂々大将で来るのじゃないか          な。」

そこで、黒金は5番目の大将で行くことにした。

 

だが、順番を発表して、並んだとき、

緑の丘の大将は、ユキであった。

『佐伯、逃げたのか。どうして、俺とやらない。見損なったぞ。』

と近藤は、そう思いながら、佐伯をにらんだ。

『うちは、一番強いのを大将にしているだけだ。

 彼女に勝ってから、俺を責めろ。』

佐伯はそんな目で、近藤を見た。

 

試合を始める審判が、上がった。

会場に、すごい声援が起こった。

2人しか負けてはならない。

 

1番手先鋒は、緑の丘が負けた。

あと3人連続で勝たないと、ユキが試合をすることになる。

ユキは、強いと思うのだが、自信がない。3人は、そう思っていた。

練習のときも、ユキが試合うのを見たことがない。

 

2番手、高木が、一本背負いを決めて勝った。

ユキは、うれしかった。

そして、3番手、篠原が敗れたのだった。

 

「わあ、これで、ユキさん出るよ。

 その前に、部長の佐伯さんが負けたら、終わりだけど。」

と、ギャラリーの小川が言った。

「楽しみ。佐伯さんが勝ちますように。」

道子と梨花は、祈った。

 

佐伯の相手は、黒金最強の近藤ではなかった。

佐伯は、綺麗な大外刈りを決めて勝った。

そのとき、会場は、「うおおおおおお・・。」と盛り上がった。

朝から、ずっと座して戦わなかった大川ユキが出るからであった。

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ユキと雪之介⑤「青春編」ユキの柔道

 

 

『やっと試合だ。』

ユキは、にこりとして、高木を見た。

高木は、ユキを見て、

『君なら勝てる。』そう言っているようだった。

ユキは、他のメンバーを見た。

みんな、にっこりうなずいていた。

 

『おじいちゃん、柔道やるよ。』

ユキは、雪之介に心で言った。

『ああ、柔道の技だけで、勝つんじゃぞ。』と雪之介の声がした。

『わかってる。』ユキは、そう答え、体を左右に伸ばした。

 

畳の上に上がった。

すごい、声援である。その声援のほとんどは、ユキを応援している。

相手は、185cmの巨体の近藤。

163cmのユキと比べて、縦にも横にも、大人と子供だった。

 

礼をして、近藤と見合った。

近藤は、真剣な顔で、ユキを見ていた。

『そうか、この人は、ウサギを倒すにも全力ふるうライオン。』

ユキは、うれしく思った。

 

「はじめ!」の審判の声がかかった。

近藤が全力できた。ユキも全力で行った。

ユキは襟を取りに来た近藤の両手を、

外側から、がっちり締めた。

そのとき、会場が、わあああああああっと湧いた。

ユキが、近藤の両手を締めたまま、前にぐぐぐっと押していったのだ。

1m、2m、3mとぐいぐい押していく。

近藤は、信じられぬ思いでいた。

『この細い女子が、俺を押しているのか?』

 

『すごい、大川さん、すごいよ。』

高木は、心で感動していた。

会場は、すごい熱気である。

ユキは、まだまだ近藤を押し、5mも押した。

そのとき、ぱっと両手の力を緩め、身を低くした。

 

近藤は、全力で押し返していた対象がいなくなり、前につんのめった。

そのとき、真下にユキが仰向けにいた。

右足を近藤の下腹に、ピタリとつけ、両袖をとられている。

『巴投げか?』

気が付いたとき、近藤は、ユキの頭上に投げられた。

 

会場は、わああああああと叫んだ。

巨体の近藤が、宙に浮いている。

このまま、ユキの巴投げが決まるのかと思ったとき、

近藤は、かろうじて、身をひねり、うつ伏せになって、落ちた。

 

「すごい、決まらなかったけど、すごい!」と梨花が叫んでいた。

「もう、たまらない。」と道子は叫んだ。

 

巴が及ばなかったユキは、瞬時にうつ伏せになり、構えた。

身を立て直した近藤が、やって来る。

互いの袖に触れたとき、巨体の近藤が、猫のように身を丸くして、ユキの懐に入った。

そして、豪快な一本背負いを放った。

このときユキは、脇の下に入っている近藤の釣り手をがっちりつかんで、自ら真上に飛んだ。

その勢いで、ユキは、近藤の上に真っ逆さまの状態になった。

 

緑ヶ丘の4人の選手は、これで終わりかと、思わず目を閉じた。やはり、近藤は強い。

 

すごい力と技を見せてくれたあの女子選手も、近藤には勝てない。誰もが、そう思った。

 

「まだ、だよ。」と小川正志が言った。

 

ユキは、真っ逆さまの状態から、近藤の釣り手を両手でつかみ、その腕をぐいと胸まで引いた。

投げが終わったと思っていた近藤は、

宙にあるユキに釣り手を引っ張られ、仰向けにされた。

ユキは、そのまま脚から、近藤に向かい、

両脚を開き、その脚を近藤の腕の左右にかけ、

落下と同時に、「腕ひしぎ十字固め」に入ったのだった。

(腕ひしぎ十字固め)

 

わああああああああ・・・・・!

会場は、感動して、割れんばかりの声援だった。

近藤は、もがきながら、心で、佐伯に語り掛けていた。

『佐伯、お前は俺との対戦を逃げたのじゃない。

 この人が、一番強かったからだ。』

 

道子と梨花は泣いていた。

『ユキさん、ステキ。感激して涙が出てくる。』

 

近藤は、必死に逃れようとしていた。

俺は負けるわけにはいかない。

全国が待っている。

 

近藤は、死に物狂いの力を出した。

身体を曲げて、勢いを付けて、身を起こした。

そのとき、ユキの固めを解いた。

再び、すごい声援が起こった。

 

審判の「まて。」があり、二人は、上着と帯を直した。

 

スタートに戻り、気持ちを新たに開始だ。

二人は袖と袖をつかみ合った。

ユキは、「よし!」と気合を入れた。

ユキは半回転し、近藤の懐に入った。

「速い!」

近藤は、目を見張った。

次の瞬間、近藤の巨体は、宙にあった。

近藤は反射的に畳を叩いた。

ユキの一本背負いが、見事に決まった瞬間だった。

 

「うおおおおおおおお!」

と緑の丘の選手は、両手を上げた。

 

会場は騒然となり、泣いている人も大勢いた。

「梨花、ユキが勝ったよ。」道子が言った。

「うん、うん、うれしい。」と梨花は涙の目を向けた。

「やっぱり、ユキさんは、最高だ。」と小川は言った。

 

5人が並び、審判から「勝ち」の声を聞き、

5人は、ユキをもみくちゃにした。

近藤がやってきて、佐伯に言った。

「こんな人がいたんだ。完璧に負けた。

 負けて悔しくないのは、初めてだよ。」

と手を差し出した。

「そうなんだ。ユキさんがいる限り、俺は大将になれな           い。」

と佐伯は笑って握手をした。

 

ユキは、高木を見た。

「俺たちの一本背負いの先生の一本背負い、

 初めて見た。うれしくてたまらない。」

と高木は言った。

「うん。がんばったの。」

とユキは言って、にっこりとした。

 

ユキは、ギャラリーのみんなにも、手を振った。

みんな総立ちで、拍手をくれた。

 

「はい、ユキさんは、今日は柔道部の人たちのものだから、

 ぼくたちは、帰りますよ。」

と小川が言った。

「そうね。」とみんながいい、ギャラリーを出た。

 

会場には、熱い空気がまだ残っていた。

 

■次回予告■

最終回です。

ユキは、自分には、16年間の過去がないと悩みます。

黒衣の人がまた走って来ます。

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                                高2のとき

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