以前第7話まで書きました半実話のお話です。第1話を抜かしましたので、状況が分かりにくいかもしれません。とりあえず、第2話のみ、投稿いたします。「私」は、高3です。読んでくださると、うれしいです。
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ぼくは、名物図書委員長<その2>
私が、昼休み図書室のカウンターに立つと、3人の級友がやってきます。
背の高い高木、横に太い横井、私より小柄な小林。
3人は、文学青年を自称していて、生意気であり、意地悪ですが、運動がからきしダメという引け目があり、同じく運動音痴の私と、目に見えない仲間意識があります。
彼らは、3日に一度は、やってきて、本を読まない図書委員長である私をいびることを大きな楽しみとしています。
高井「な、委員長。(こう呼ぶのは、嫌味です。)ミステリ ーとサスペンスの違いって何だ。委員長なら、わかる だ ろう。」
私 「文学青年の君らがわからないの?」
横井「これだけは、嫌みで聞いてんじゃない。本気で知りた い。」
小林「ほんとだよ。昨日三人で、話してて、喧嘩になりそう だったんだから。」
私 「うん、わかった。ミステリーは、謎解きが必須。物語 が、ドラマ風に描かれていてもね。殺人があるかない かは、ほんとは、必須じゃない。あくまで謎解きが大 事。
サスペンスは、恐怖が必須。出来事を重ね、読者に心 理的な恐怖感を与えるのが、目的。殺人は、なくても いい。謎解きより不思議現象が大切。アンソニーパー キンスが主演した「サイコ」って映画を見ると、これ こそサスペンスかって、思うと思うよ。」
高木「いやあ、参った。こんなに明快な答えを聞いたのは初 めてだ。昨日、小林が言っていたこと、ほぼ正しかっ たとわかった。」
小林「委員長。今日は、冴えてるね。見直したよ。」
私 「今日「は」なの?今まで見くびってたってこと?」
横井「ちがう、ちがう。一目置いてるから、俺たちほどの3 人がやって来るんじゃね。」
私(笑ながら)「そうだね。君たちほどの3人が来てくれる ことを、光栄に思ってるよ。」
3人が去ると、その後ろに、ちょこんと上村美咲さんがいました。
上村さんは、3人と私の会話をすぐ後ろで聞いていたようで、私にニッコリして、
「委員長、さすがじゃん。」と言ってくれました。
上村さんは、身長が152cmくらいの小柄な人。2年生。牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡をかけていて、髪は、乙女ヘアーで、右上の髪の一部を赤いゴムで束ねて、ピンと横にしています。その上村美咲さんこそ、学校1の文学少女。図書館の10万冊をすべて知っていそうな、ものすごい人なのです。
上村さんは、いつも図書カウンターの上に両手で頬杖をついて、私に話します。頬杖のまま、首を傾けたり、うなずいたりします。図書カウンターの高さが、ちょうど上村さんの両肘の高さにぴったり。
「委員長。あたし、『ノンちゃん雲に乗る』を読みたいんです。」
(こう言いながら、上村さんは、今図書室に「ノンちゃん・・・」がないことを完全に調べ上げて知っています。)
「石井桃子の日本初と言われる児童文学ですよね。コミックサイズで、紺色の表紙で、ノンちゃんが、空に浮かんでる。」
「そう!その本です。委員長、あるんですか?」
「残念ながら、新着を入れるために、先月お蔵入りになりました。」
「それは、残念だわ。」
「でも、石井桃子というなら、去年入ってきたA.A.ミルンの「クマのプーさん」という児童書は、石井桃子が翻訳しています。翻訳でも、石井桃子の香りがすると思います。」
「ほんと!『クマのプーさん』ですね。読みたいです。どこ にありますか。」
彼女は、うれしいとき、頬杖を解いて、身を起し、時に立ち上がります。
「新着本コーナーにあります。」
「わあ、うれしいです!委員長、ありがとう!」
「あ、待って。先月の廃棄本だから、一応、裏の倉庫を見てきます。」
図書カウンターの後ろが司書室で、司書室の一角が小さな倉庫になっています。
そこに、スズランテープで束ねられた本が山積みになっています。
そこに、背表紙に黄色い字で書かれた「ノンちゃん雲に乗る」を見つけました。
上村さんが喜ぶ顔が目に浮かんで、うれしくてたまりませんでした。
「はい。ノンちゃん」です。」と、カウンターで上村さんに見せました。
上村さんは、目を大きく開けて、飛び上がって喜んでくれました。
「どこに行ってもなかったんです。夢のようです。
もったいなくて、今日は読めないかもです。」そう言いました。
上村さんより、私の方が、胸がいっぱいで、幸せな思いでいました。
次回<第3話>「何かいいことないか子猫ちゃん」
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