アメリカ自叙伝・外伝⑨『カチート』

 

私は、こう見えて、歌が好きですし、踊りも好きです。

姉も歌が大好きで、私が小さい時、姉と二人で、一日中歌っていた気がします。また、父も歌が好きで、外国のレコードをよく買って来てくれて、家族で聞きました。だから、私は、外国の歌もよく知っていました。7才位の時って、外国の歌も、そのまま、意味も分からず、覚えてしまうんですね。

 

 

その日は、寮に珍しくアシフが留守でした。アシフは、ああ見えて、車を持っているんです。大変なジャンク・カーでしたが、動きます。アシフは、ガソリン代がないからと言って、めったに乗りませんでしたが。

 

私は、その日、かなり可愛いワンピースを着ていて、ご機嫌でした。そして、可愛い踊りを考えていました。

手を、耳の横に持って来て、指をパーに開き、指をひらひらさせます。そして、右足を斜め前にワンステップ。それを戻して、左足を斜めにワンステップ。

『あ、これ、けっこう可愛いかも。』と、うれしくなって、

ナット・キング・コールの「カチート」を歌いながら、やってみました。(幼い日に覚えた歌。)

♪カチート カチート カチート ミーオ

 ペダッソレ シエロケ ディオス メディオ

 テミーロ テミーロヤㇽ フィンベンティゴ

 ベンディーゴ ア スウェルテデ

 セレ トゥアモール

 

(わあ~、我ながら よく覚えているなあ。)と、感心しました。

 

そのとき、続きになっている隣の部屋から、二人の隣メイトが、洗面の通路を通ってやってきました。二人は、白人で、中央アメリカのコロンビアの出身です。スペイン語圏です。二人は、顔に「俺ら陽気です」と書いてあるくらいの気のいい人達です。

「オウ、オウ、オウ、オウ。ジュン、『カチート』じゃないか。ジュン、ナット・キング・コールを歌えるのか。」

「わあ、聞かれちゃったの?間違ってなかった?」と、私。

「ああ、合ってた。俺ら、今、最高に興奮してるよ。

 ジュンの可愛い踊りも、ちょっと見たよ。」

「わあ~、恥ずかしいな。よかったら、一緒に踊ろう?」

 

こうして、私達は、いっしょに歌いながら、可愛い踊りを踊りました。

二人は、踊りを大変気に入り、何回も踊りました。

私は、楽しくてたまりませんでした。

アシフがいたら、アシフも踊るかな・・無理にも踊らせちゃおう、と、考えて、くすっと笑いました。

 

*「カチート」とは、「赤ちゃん」のこと。母親が、可愛くてたまらない赤ちゃんを、「カチート、カトート」と呼ぶのだそうです。

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【次回予告】

ネタ切れ状態ですのに、今日も書きました。「もう、いい加減にしたら?」と、お声が聞こえそう。どうしよう・・。

 

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