2度目の女装外出・人形作家「四谷シモンに会う」

 

 

大学1年生の頃です。

女装のために借りた3畳の小部屋の2か月目の終わり頃。

この間、部屋で密かに女装の研究をして、少しは、ましになっていました。

 

しかし、部屋代がが続かず、これが最後というときです。

思い切り、2度目の外出をしようと思いました。

季節は5月でした。

涼しい日でした。

 

初外出で、一つ残念だったことは、下が、ジーンズだったことです。

今度こそスカート・・と思いましたが、

まだ、女の子の歩き方ができるとは思えません。

ミニスカートを履く勇気は、さらにありません。

 

そこで、私は、ふくらはぎまでの長さの茶色のミディ・スカートを中古で買いました。

少し厚手で、ひらひらとはしません。

上は、黒い、体にフィットしたサマーセーター。

ウエストライン、ヒップラインを隠すために、長いメッシュのベスト。

髪は、かつらにせず、肩まで伸びていた自毛にしました。

(地毛は、かつらより断然楽です。)

自毛では、男子にも見えるので、

頭に、スカートの色に合わせた、ベレー帽をかぶりました。

メイクは、マスカラに、頬紅、リップだけにしました。

 

目的地は、決まっていました。

私が、その頃心酔していた唐十郎の劇団状況劇場の劇を見に行くことです。

いつもは、空地に赤テントを張って行われていたのですが、

そのときは、上野不忍池の野外水上ステージで行われていました。

 

私は、胸をドキドキさせながら、外に出ました。

すると、すれ違う人からあまり見られません。

私は、少しずつ自信を持ちました。

 

劇は、開場6時、開演7時。

着くと、長い列が、すでにできていました。

私は、チケットをもって、立っていました。

隣は、女の子でしたが、私をジロジロ見ていません。

女の子なら、私の女装をいっぺんで見抜くでしょう。

しかし、アンダーグランド的な劇なので、奇抜なスタイルの客が大勢いて、女装の私など目立たないのでした。

この劇に来て、正解でした。

 

私は、やっとチケットを切ってもらい、中へ入りました。

舞台の正面は、避けて、前から、10列目くらいの右端の木のベンチが空いていたので、そこに座りました。

背の高い男性の隣でした。

 

状況劇場の初期に、四谷シモンという背の高い女形がいました。大変な人気で、セクシーで、客を笑わせます。

私も、女装趣味なので、四谷シモンが大好きでした。

彼は、俳優が本業ではなく、本業は、球体関節人形の作家です。私は、人形が大好きだったので、四谷シモンの人形は、よく見に行っていたし、四谷シモンといえば、私にとって、人形作家なのです。

 

私は、隣の背の高い人を、なんとなく見たのです。

すると、素顔の四谷シモンではありませんか。

(伊勢丹の個展に行ったので、素顔を知っていました。)

私は、いっぺんで、緊張の塊になりました。

私は、自分が女装していることも忘れ、

『どうしよう。話しかけたい。でも、その勇気が出ない。

 しかし、今は、劇の開演を待っているとき。話しかけても     迷惑にならない。』

そう、思いました。

 

私は、とうとう話しかけました。

「あのう、四谷シモンさんでしょうか?」

シモンさんは、私を見て、

「ああ、そうですよ。」と言いました

やさしい声でした。

「あの、ぼくは、シモンさんの人形のファンです。」

「そうなの?私の人形を知っている人なんて、滅多にいない     のに。」

「そんなことありません。伊勢丹の個展に行きました。」

「個展に来てくれたの。うれしいなあ。あれは、初めての個     展だったんですよ。

   じゃあ、住所と名前を書いてくれたら、今度あなたに個展     の招待状書きますよ。」

「ほんとですか!」

私は、嬉々として、自分のノートの1ページに住所と名前を書いて、破いて渡しました。

シモンさんは、それを見て、

「あれ?あなた、男の子だったの?」と言いました。

「女装してます。なんとか女の子に見えますか?」

「さっき、ご自分のことを『ぼく』といいましたよ。

   もしやと思っていました。」

「劇での、シモンさんのファンでもあります。」

「あはは。人形作りより劇の方が、ずっと楽しいんだよ。」

そこまで、話したとき、劇団のスタッフのような人が来て、

シモンさんを連れて行ってしまいました。

 

『わあ、四谷シモンと話した!』

と、私は、後から興奮しました。

その感激を、胸の中で繰り返していましたので、

その日の劇は、内容を、ほとんど覚えていませんでした。

(劇の題名は、「二都物語」でした。)

 

私の、超思い出に残る、女装外出でした。

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         <四谷シモンの人形>

ギムナジウムの少年

 

 

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