このお話は、次回⑥が、(完結編)です。もちろん、ハッピーエンドです。今回、字がたくさんありますが、読んでくださるとうれしいです。
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ミミ、男の娘に好かれる⑤「ミクの気持ち」(中編)
「あの、お父様のこと、伺ってもいいですか。」ミミは聞いた。
「はい。ミクが、4年生のとき、交通事故で亡くなりました。心の広い人で、ミクにとっては、天使のような父親でした。」
道子は、そっと涙を拭いた。
「小学校に入るとすぐ、ミクは、家でも女の子の服でいたいと、言いました。主人は、迷わず、
『いいよ。でも、家の中と、父さん達が一緒のときだけだよ。』と、言いました。『父さん達と一緒のとき』というのは、いっしょに公園に行ったり、食事に行ったり、ディズニーランドに行くときという意味でした。外でミクのことを呼べるように、『ミク』という女の子の名前で呼ぶことにしました。
3年生になったとき、ミクは、家では女の子の言葉を使いたいと言い出しました。そして、家では自分のことを『あたし』と呼ぶようになりました。
鏡に向かって、髪をいじっているのが大好きでした。ポニーテイルにしたり、ツインテイルにしたり、編んでアレンジしたり。私もたくさん手伝って、二人で遊びました。とても楽しいかけがえのない時間でした。そういう私達に、主人は、一切文句など言わず、にこにこ笑っていました。
4年生になって、主人が事故で亡くなったときの悲しみは、計り知れない大きなことでした。
死の床で、主人は、ミクに言いました。『たくさん本を読んで、たくさん勉強して、夢中になれることを思う存分やるんだよ。』って。あたしには、『ミクがいるじゃないか。ミクは、しっかりした子だよ。君が、ミクを頼ればいいのさ。俺の代わりに、ミクをね。』そう言いました。それから、ミクはとても勉強する子になりました。本もたくさん読む子になりました。」
ミミもお母さんも、泣いていた。
母は、続けた。
「でも、主人の支えを失うと、あたし、ミクを女の子のように育ててしまったことに、気が咎めるようになってしまいました。男の子だったら、もっと伸び伸びと好きなことができたかもしれない。小さい時、女の子の服なんか着せなければ、女の子みたいにならなかったかも知れない。髪なんか、伸ばさせなければ、よかった・・。そう思うときが、時々あって、とても辛い気持ちになります。」
母は、テーブルに顔を伏せて泣き始めた。
ミミは、はっきりと言った。
「お母さん。それは、反対です。お母さんのその時々の思いは、全部逆です。ミクは、お母さんとお父さんに育ててもらって、最高に幸せだったと思います。
ミクは、生まれたとき、女の子の心で生まれて来たんだと思います。その女の子の心のままに、お父さんとお母さんが、大切に育ててくれた。ミクは、お母さんのオシャレな服を着せてもらって、最高に幸せだったはずです。髪を伸ばしていいと言われて、最高にうれしかった。家で女の子の言葉を使っていいと言われ、すごくうれしかった。自分を『あたし』と呼んでも、いいよと言ってくれた。女の子の心で生まれた子にとって、これ以上の幸せは、なかったと思います。」
ミミが、半分泣きながらそう言ったとき、階段を降りて来ていたミクが、母の背に駆け寄って、母を抱いた。
「お母さん、ミミの言う通り。全部ミミの言う通り。お父さんとお母さんのお陰で、あたしは、毎日幸せだったの。ディズニーランドへ行ったでしょう。あのとき、お母さんは、すごくオシャレな服を着せてくれて、髪を小さなたくさんのリボンをで飾ってくれた。そして、唇にリップをちょっと付けてくれた。あのとき、すれ違う人がみんな見てた。あたし、自分が可愛いからだって思ってたから、すごく得意で、うれしくてたまらなかったの。お父さんと、コースターに乗った時、怖くて、お父さんにしがみついて、『キャーッ!』って思い切り叫んだ。あんな大声出したの初めてだったから、スカッとして、最高の気分だった。いろんなお店に行くと、店員さんが、みんな『お嬢さん』って呼んでくれた。それも、うれしかった。夢の中を歩いているみたいだったの。あの日のことは、一生忘れない。」
ミクは、母の背で泣いた。母は、手で顔を覆って泣いた。
ミミは、目を潤ませながら、とても幸せな気持ちで、二人を眺めた。
(次回 完結編『驚きの再会』です。)
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<ミクのイメージ>
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