これまで、長いのを読んでくださって、ありがとうございます。今日でやっと最終回です。
明日から、どうしようと考えています。
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英二のサンタさん⑥「その後の二人」最終回

 

英二は5年生になり、クラス編成があった。
教育的配慮なのか、岬と同じクラスになった。
境遇の似た二人を離さないようにしてくれたのだろう。
岬は背が伸びて、身長が150cmの英二より2,3cm高くなった。
他のクラスにも二人の名は知れていて、岬をからかうものはいなくなった。

5月の連休のころ、英二は、岬を家に呼んだ。
家族には、岬のことをしょっちゅう話していたので、
家族は、岬を歓待した。
「岬くん、ステキねえ。かっこいいわ。」
と母の和歌子は、岬を見て言った。
父の啓二も出て挨拶をした。
「いえ、まだ、全然です。」と岬は言った。
英二は、岬を自分の部屋に案内した。

和歌子は、「ほんと男の子ね。でも顔は可愛い。」と啓二に言った。
啓二は、「あの二人、男女のカップルなんだよな。」と感慨深げに言った。
和歌子は「ほんと。結婚してくれればいいのに。赤ちゃん作                れる。」と冗談で言った。
啓二は、「お。それ名案だよ。でも、そう上手くはいかない                か。」
と和歌子と顔を見合わせ笑った。



岬は、英二の部屋を見て、
「うへー、『ザ・女の部屋』だな。気持ちわりー。
 ぬいぐるみ並べちゃって、ピンクピンクしてら。
 それに、AHBだらけじゃね。まあ、これは、女の部屋はど     こも同じか。
 アランの桜木のポスターデカデカはちゃって。
 恥ずかしくねーのかよ。」
「いいじゃないの。好きなんだから。」

英子は机の整理をしながら言った。
「英子は、やっぱ男好きなんだ。」
「そりゃね、女だから。
 岬だって、男だから、女の子好きでしょう。」
「まあな。可愛けりゃ、たいてい好きだよ。」
「クラスで、だれか、好きな子いたりして。」
「いねーよ。みんなブスばっか。」
「あたしがいるじゃない。」
「バカ、おめーとは、同士だろう。例外だよ例外。」

「あたしは、岬のこと、女の子だと思ったことないよ。
 とくに、最近、すごくカッコいいし。」
「え?俺、最近いいの?」
「うん、女の子にかなり人気高いよ。
 それに、女の子たち、岬が女の子なんてこと、もう忘れて     るよ。」
「え?ほんとかよ。ウソだろ。」

「そこでさあ。」
と英二は片付けが終わって、岬と二人、ベッドを背にして、床に座った。
「これからは、真面目な話。」と英二は言った。
「ななんだよ。」
「もうそろそろさあ、大人になり始めるじゃない。
 もし、大人っぽくなって、髭なんか濃くなってきたら、
 あたし、死にたくなる。」英二は言った。

「俺も、そうなんだ。
 実は、おっぱい少し出てきた。
 それに、背も伸びたし、
 女には生理ってのがあって、血が出んだって。
 体だって、脂肪がついて、ぽやぽやになる。
 俺、そんななるの、死ぬほど恐ええ。」

「中学になって、男子の制服着るの、絶対いや。」
「それ、俺の方が悲惨だぜ。
 俺、スカートなんかはかされたら、学校いけねー。
 男がスカートだぜ。耐えられると思うか。
 女がズボンの方が、まだましだろうよ。」
「わかる。岬にとって、地獄だよね。」

そこで、英二は、K子から聞いた、GIDの話をした。

「それでね、お医者さんに見てもらって、GIDだって診断さ     れたら、岬は、男の子扱いで、制服も男子、トイレ、更衣     室、全部男子の使えるの。
 あたしは、反対に、女子の制服で、全部いけるの。」
岬は目を丸くした。
「すげえ。中学、男で通えたら、俺泣いて喜ぶよ。」
「あたしだって。」

英二は、ホルモンの話も、きっちりとした。

「そうかあ。恐いものなんだな。
 でも、俺、とにかく制服がいやだ。
 それさえクリアできたら、あとはぼちぼち考える。」
「クリニック、行く気ある?」
「あるある、ダメ元じゃん。」
「でも、GIDって、大変なことだと言われた。」英二は言った。
「おれ、自分で完全にGIDだと思う。
 どんなに大変だろうが、そうなんだもん、しょーがねー       よ。」

「岬は、そうだろうなって思う。
 でも、あたしは、少し心に男が残ってる気がするの。
 でも、あたし、好きになる子は、男の子だし、女じゃなき     ゃ生きていけない。
 それで、GIDじゃないなんて言われたら、泣く。
 だけど、GIDって言われるのも恐い。」
英二は、膝の上に顔を埋めた。

岬は、英二の肩に手をかけた。
「英子、お前らしくねーぞ。気持ちわかるけどさ、
 何事も先に進まなけりゃ、変わらないって。
 このままじゃ、地獄が待ってるだけだぜ。」
「うん。そうだね。」
と英二は顔を上げた。

和歌子は、果物を持ってきて、
二人の最後の方の会話を聞いた。
二人のいじらしさに、涙が出た。

涙をふき、気を取り直して、部屋に入っていった。
「さあ、どうぞ。」と差し出した。
「わあ、うれしいっす。」と岬は言った。
「ありがとう。」と英二は明るく言った。

5年生でもたいしたものだな、と和歌子は思った。

*    *    *

英二の近藤家と、岬の浅井家とで連絡を取り、
6月の初旬に、ジェンダー・クリニックに言った。
問診、各種テストをいくつかした。

2週間後に結果を聞きに、両家族は、クリニックを訪れた。
岬に関しては、GIDの項目をほぼ満たしていて、診断が下された。

英二は親子三人で、先生の部屋に入った。

主治医は言った。
「英二さんは、言ってみるなら、10のうち9くらいが女子     で、1ほど男子の心が見られます。
 これは、性自認において、自分はわずかに男性性があると     思っているようです。

 しかし、1つの検査の中で、母性性において、極めて高い     数値が出ています。
 その他においては、ほぼ女子としてのラインを超えていま     す。
   性志向、つまり男女どちらに異性を感じ恋愛をするかとい     うのも、男子を好きになると答えています。これは、とて     も大きなことです。

 また、書く字も、典型的な女子の字を書きます。これは大     きな判断材料なのです。
 社会的性という点も、小学校のすべてを女子として送って     いて、女子への適応は十分と言えます。

 診断を下すには、100%近い結果が必要なので、
 今は、GIDの疑いが、極めて高いとしておきます。
 
 10のうち9が女子ですから、これでは、男子としての生      活は耐え得ないでしょう。
  意見書を作成します。これで、中学は、女子の扱いで通        えると思います。
 つまり、セーラー服で通えるということです。

 なお、今後定期的に通っていただいて、第ニ次性徴を抑え     る意味で、極微量のホルモン治療を行うことも考えていき     ます。また、精神的な面をフォローするために、定期的な     カウンセリングを受けていただきます。」

 主治医の説明は以上だった。



クリニックを出ると、岬の家族が待っていてくれた。
「英子、どうだった?セーラー服、OK?」と岬が聞いた。
「うん、OK。3年間、女子生徒だよ。」
「わあ、よかったなあ。俺は、楽勝だった。男子生徒だ。」
二人は手を取り合って、ぴょんぴょん跳ねながら喜んだ。

二人の両親は、共に、そろって、喜び合う二人を見ていた。
「これで、よかったみたいですね。」と啓二は、岬のお父さんに、話しかけた。
「そうですね。うちのは、根っからの男の子でしたから           ね。」
「ほんとに、2人そろってなんて、夢見たいですね。」
と和歌子が、岬のお母さんに言った。
「これからも、家族同士のお付き合いを、お願いします。」と岬のお母さんは言った。
「こちらこそ。」と啓二と和歌子は言った。

*    *    *    *

翌年、12月22日。二人は6年生。
校門をくぐるカップルがいた。
英二と岬。
二人は、その後、もう生まれた性に戻る可能性はほぼゼロと見られ、6年生のときから、微量のホルモン治療を受けている。英二の乳房は、ほんのりと大きくなった。
ヒップにも脂肪が付いてきた。
身長は、158cmで、横ばいになった。
髭も濃くならず、声も、女子のまま変声期を過ぎた。

岬は、背が163cmを越え、まだ伸びると思われた。
声も、男性的になり、筋肉もたくましくなった。
顔立ちも、アゴの骨格が発達して、女子の面影はなくなった。

校門を二人は抜け、並んで歩いた。
だれが見ても、仲のいいカップルだった。

二人は、歩いていて、あるチキンの店の大きなクリスマス・ツリーを見た。
綺麗なイルミネーションがちりばめられている。
横に大きなサンタの格好をした、人形がある。


「ね、岬、サンタさんに、お願いしない?」
と英二は言った。
「お、いいね。」
岬はそう言って、ツリーに向かい、二人は指を組み、目をつぶった。

「英子、何をお願いした?」
「えへ。将来、ウエディングドレスを着られますようにっ       て。」英二は言った。
「岬のお願いは、何?」
「俺の?俺は、ガキのころから、願いは1つさ。」
「え?ずーと同じなの?何何?」
「そりゃさあ、なになにが、生えてきますようにって。」

「『なになに』って何よ?」
「決まってんじゃね。英子にあって、俺にないものさ。」
英二は考えた。
「あ、わかった。『あたしにあって』っていう言葉が、イ       ヤ。生生しいじゃない。ああ、あたしの綺麗なお願いが、     けがれる。岬のバカ!バカ!」
英二は、学生かばんで、岬の頭をぶとうとした。
岬は、かばんを頭に乗せて、逃げた。
「だって、本心なんだからさ。」と言いながら。
「バカバカ。」と言いながら、英二は追いかけていく。

ツリーの横の、サンタのおじさんは、
心なしか、笑っているようだった。

<おわり> 

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        <やっと登場サンタさん>

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