看護師 江崎裕美①「憧れの前髪」(2014.6月に再投稿)

 

 

3月31日。

明日に、看護師としての第1日を迎える江崎裕美、男子。

その夕飯。

「裕美、いいか。社会人となったら、自分のことは『私』と     言うんだぞ。

 『ぼく』なんて言うんじゃないぞ。」

裕美の父、康夫は言った。

「うん、わかってる。初めから『私』って呼べば、はずかしくないから。」

父は、ハンバーグを頬張りながら言った。

「それから、もう一つ。

 裕美は、天下のT大の看護学部を出ている。

 それを、鼻にかけちゃダメだぞ。」と康夫は付け加えた。

 

「お父さん、裕美を子供扱いしないの。裕美なら心配いりま     せんよ。」

と母の美佐江は言った。

 

「ねえ、お兄ちゃん、長い髪を後ろで1本にまとめてるけ       ど、お兄ちゃんのオデコ賢そうに見えすぎるから、前髪作     ったらどうかな。T大出だし。オデコ隠した方がいい          よ。」

高校3年の妹美紀が言った。

「ダメよ。前髪なんか作ったら、裕美、益々女の子に見えるじゃない。」

美佐江が言う。

 

「平気よ。長髪で前髪のある男の子なんていっぱいいるわ      よ。」と美紀。

 

裕美は、密かに思っていた。

ああ、前髪は、ぼくの憧れ。

でも、確実に、女の子みたいになる。

でも、女の子に見えるのはうれしい。

美紀、ほんとに肩まである髪で、前髪のある男の人っているの?いたら、うれしい。美紀、がんばって。

 

「美紀、ほんとにそう言う男の子いるの?」と美佐江が言った。

「だって、ミュージシャンなんか、みんなそんな感じじゃな     い。」

と、美紀は言った。

 

決まった。

 

夕食が終わった。

「お兄ちゃん、あたしの部屋来て。髪切ってあげる。」

美紀に言われ、裕美は、ドキドキしながら付いていった。

 

美紀は、裕美をドレッサーのストールに座らせ、

裕美の髪のゴムをとった。

裕美の長い髪が、肩に触れた。

美紀は、裕美の髪を梳かし、お化けのように顔の前に髪を垂らした。そして、ハサミをもった。

裕美の眉の下あたりに揃えて、前髪ができた。

 

切った髪の毛を払い、美紀は、裕美を見た。

「はあ~。」と美紀が焦っている。

「ねえ、美紀。なんなの?何を焦ってるの?」

裕美は、不安になって言った。

「お兄ちゃん、ごめん。お兄ちゃん、もう男の子に見えな       い。どうしよう。こんなに女の子になっちゃうとは思わな     かった。」

美紀が言う。

 

裕美は、後ろの鏡を見た。

「あああ。」

可愛い。女の子だ。うれしい。

裕美は、思わず興奮して、自分の小さなアソコを大きくした。しかし、明日からのことを考えると、喜んではいられない。ああ、どうしよう。裕美は、思った。

 

美紀が、あわてて父と母を呼びに行った。

康夫と美佐江が来た。

「まあ。」と美佐江が言った。

「ねえ。髪を1本にまとめてみて。」

美佐江は美紀に言った。

美紀が裕美の髪をゴムで後ろにまとめた。

みんなが、「あああ。」と言った。

髪を後ろでまとめると、前髪が強調されて、

余計に女の子に見えるのだった。

 

「どうしよう。お母さんの言うこと聞いておくんだった。」美紀が言った。

「今から言っても遅い。美紀。裕美の前髪を前みたいに分け     て、ヘアピンで留めたらどうだ。」父の康夫が言った。

「ヘアピンなんか使ったら、余計女の子だよ。」と美紀。

「じゃあ、水で濡らして分けたらどう?」と美佐江。

それは、名案だということになり、

美紀は、裕美の前髪を水で濡らして分けた。

すると、前髪のないヘアスタイルに近づき、一同は少し安心した。

 

* 

 

裕美は、子供の頃から、顔立ちが女の子のように可愛いと言われてきた。美人の母美佐江によく似ていた。

 

江崎裕美は、性分化疾患をもって生れて来た。

そのため、成長期に、女の子のような体に発育した。

 

骨盤が大きくなり、脚がすくすくと伸びた。

声が女の子のようだった。

ヒップに脂肪が付き、ハイウエストになった。

肩幅が狭く、細い体が、脂肪に覆われ、柔らかくなった。

 

高校生になり、背は、163cmで止まった。

胸だけは、女の子のようにならなかった。

そのために、性分化疾患に気づかなかった。

 

また、これほど女の子のような体なら、普通は、大きな劣等感を抱くところだ。しかし、天の恵みか、裕美には女装願望があった。それが、裕美にすべて幸運だと思わせ、裕美を救っていたのだった。

 

* 

 

明日からのことを思うと前髪は困ったことだったが、

裕美は、前髪がうれしかった。

美紀にお礼を言って、自分の部屋に飛び込んだ。

部屋に鍵をかける。

そして、ベッドの下の衣装ケースを引き出し、

隠している、赤いワンピースと女物の下着を出した。

死ぬほど勇気を出して買ったたった一組の女装用具だった。

(裕美は、まず女の子に見えたので、勇気を出す必要など、本当はなかった。)

 

『ああ、ドキドキする。』

 

ブラを着け、ショーツを履き、ワンピースを着た。

上がキャミソールのワンピース。

感触のいい柔らかな生地だ。

 

姿見を立てて、自分を映した。

分けている前髪にブラシを当て元に戻した。

ああ、やっぱり前髪は可愛い。

髪を結んであるゴムを取った。

ブラシを入れる。

髪を少し内巻きにする。

髪がボブヘアーになった。

たまらなくうれしかった。

腕を上げてみた。

裕美は、体毛がない体質だった。

つるつるの女の子のような脇の下。

すごく萌えてしまう。

 

まるで女の子のボディライン。

スカートの裾から出ているスネがとても長い。

ヒップが張っている。

かなりカッコイイ。

ああ、なんか我慢できそうもない。

裕美はもだえた。

 

■次回予告■

いよいよ裕美の勤務第一日。就職の決まった病院へいきます。裕美は、他のナース達にいろいろに取沙汰されます。

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             <裕美のイメージ>

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