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スーパー洋子・⑤「事態の収拾」最終回

 

 

洋子は言った。

「これから、警察に行って、自首しなさい。

 ま、その前に校長に話して、親に言うことになるかな。

 さあ、校長室へ行きなさい。

 あたしは、もう警察に届けてあるから、

 ぼやぼやしてると、警察の方から先に来るよ。」

 

7人は、校長室に飛んで行った。

群集はざわざわと話しながら、拡散し始めた。

 

洋子は、しばらくたたずみ、袖で涙を拭いた。

 

群集の中から一人走って来る。

「五島君。」洋子は言った。

五島は涙で、顔をぐしゃぐしゃにしていた。

五島は、洋子の手を取り、

「よかった。よかった。よかった。」

とうつむきながらくり返した。

 

洋子は、五島の手を両手でにぎった。

「五島君。あたし、おととい失った記憶がもどったんだ。

 私が死のうと思っていた夜、五島君、あたしに電話くれた。

 電話の向こうで、五島君が泣いているのがわかった。

 五島君は言った。『何にもできなくてごめん。でも、君の味方だ。』って。」

 

洋子の目から涙がいっぱいあふれて来た。

「あたしね、ビルの5階から飛び降りるつもりだった。

 でも、五島君の電話のおかげで、3階から飛び降りたの。

 五島君の声を聞いて、心のどこかで、生きたいと思ったんだと思う。

 それで、助かったの。だから、五島君は、あたしの命の恩人だよ。

 どうも、ありがとう。」

「お、俺はそんな。でも、俺のあんな電話でも、少しは意味があったってこと?」

「大ありだよ。誰も、メールすらしてくれなかったんだもの。

 五島君の生の声は、胸の奥に届いた。うれしかった。」

五島と洋子は、見つめ合い、互いに少し微笑み、涙を拭いた。

 

 

教室にもどると、洋子に校長室への呼び出しがかかった。

洋子が呼ばれ立ち合った。

校長室には、副校長、教務主任、生活指導主任で担任の藤崎の4人がいた。

神崎と美優は、洋子がノートに書いていたことをほぼ正直に伝えた。

余程、洋子が恐かったのだろう。

洋子は、B5のノートの内容をすべて暗記していた。

それでなくても、失った記憶がすべて戻っていた。

 

校長は洋子に、この件は学校内で、内内に済ませたいがどうか、と言ってきた。

それを聞いた、生活指導の藤崎は怒り狂い、机を叩いて立ち上がった。

「校長!何をおっしゃてるんですか。

 この7人がやったのは、強姦ですよ。内容的には、殺人に近い重罪だ。

 恐喝もし、傷害もし、さらにその数倍も罪の重い強姦罪ですよ。

 おそらくですが、主犯の2人は少年院送り、または、自立支援施設行きです。

 あとの5人も共犯ですから、似たような処分だ。

 内内に済ませるレベルを遥かに越えているでしょう。」

 

「藤崎君、わかった。わかった。君の言う通りだ。内内にすますなんて、とんでもないことだった。」

校長は、あわてて発言を撤回した。

 

聞いていた神埼と美優は、少年院送りと聞いて震え上がった。

神崎は、度胸の座ったワルなんかではなかった。

たまたま運動と勉強ができ、親が金持ちだということで、

親分格にのし上がった気の小さい男だった。

美優は、それをそっくり小者にしたようなお嬢様であった。

それが、「少年院送り」と聞き、自分の行く末を思って、神崎は子供のように泣き始めた。

その横で、美優はうずくまるようにして泣いた。

子分の5人は号泣の果て、あまりのショックで、茫然自失となっていた。

 

洋子は、すぐに警察に行かないと、警察の方から、今にも学校に来る。

自首して少しでも刑を軽くしたいなら、急ぐべきだと言った。

 

藤崎も言った。

「校長、学校に警察のパトカーが来たら、マスコミも来ますよ。

 7人がどれだけ悪くとも、手錠を掛けられ、

警察に連行されるところを全校生徒に見せるつもりですか。

 教育委員会にお伺いを立てている時間はないですからね。」

 

校長は、まさに、教育委員会へお伺いを立てようと思っていたのだった。

 

学校長は、あわてた。手分けをして、保護者を呼んだ。

警察に連行されるかもしれないと聞いて、保護者達は血相を変えて、学校に駆けつけた。

洋子の母、美佐子も来た。

校長は、保護者に急いで話のすべて聞かせた。

 

神崎の父親は、怒り狂い、持っていた鞄で泣きながら、息子を何度も叩いた。

美優の母親は、美優の頬を何度も叩き泣きわめいた。

子分5人の母親も泣き崩れていた。

そして、保護者達は、

洋子と母の美佐江に、床に手をついて何度も謝った。

しかし、母美佐江も洋子も到底許せるものではなかった。

 

その後、警察まで、関係の先生と7人は、歩いて行った。

自首をするのに、タクシーでえらそうに行くわけにはいかない。

洋子と母美佐子だけはタクシーを呼んでもらえた。

 

 

警察からの帰り道、洋子は、母と二人だけで、歩いて帰ることにした。

美佐子が言った。

「ほんとに警察に届けたの。」

「昨日ね。洋子のノートに証拠物件と上申書をつけて届けた。

 洋子はね、強姦されたとき、帰ってきて、そのショーツをビニールに入れて、

 大切にもっていたの。DNA鑑定で、神崎の有罪を立証できる。

 それにね、ATMで引き出したときの明細も、洋子は、

 全部ノートに貼ってあったの。日付と日記の内容が合うでしょう。

 そういう物的証拠があったから、警察もわかってくれた。

 洋子は、ただ弱い子であったんじゃない。

 洋子は、自分で考えて、戦う準備をちゃんとしてたの。

 賢くて、強い子だよ。」

洋子は言った。

 

「そうだったの。母さんの方が、ずっと弱虫だったね。

 洋子が、されたことの記憶を失っていて、耐え難いことを

 思い出さなければ、それでいいと思っていたの。」美佐子は言った。

「母さん。あたしは、被害にあったことを恥ずかしいなんて思ってない。

 罪であり、恥であるのは、加害のヤツラでしょう。

 あたしは、これからも、胸を張って生きていけるよ。」洋子は言った。

美佐子は涙を流した。

「洋子。今の洋子は、洋子だけじゃないね。」母は言った。

「うん、そう。でも、洋子は全部ここにいるよ。」

と洋子は、胸を叩いた。

「わかったわ。洋子に不思議な力が備わったんだね。」

「うん。でも、一応解決したから、その力はなくなっちゃうかもしれない。

 でも、洋子は、起こったことを全部見た。

 だから、学校に行けなかった洋子は、もういないよ。

 明るくて、元気な洋子に戻る。」

洋子は言った。

「そうなの。きっと父さんが味方してくれたんだね。」

「うん。きっとそうだよ。だから、もしピンチになったら、

 いつでも、スーパー洋子にしてくれる。」

洋子は笑顔を見せた。

 

「ほら、夕日が綺麗だよ。」美佐子は言った。

「ほんとだ。」

二人は立ち止まり、夕日を見て、また歩きだした。

「そうだ母さん。あたし、彼ができたかもよ。」

「え、もう?早いわね。」

「あたしの命の恩人。」

「ええ?どういうこと?」

 

二人の明るい会話が、遠く空にこだましていた。

 

 

<おわり>

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       <洋子のイメージ>

 

 

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