今日は、幼馴染とあって、たくさん懐かしいお話をしました。その中で平悦子さんのお話が出ました。そのことを綴ります。
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平悦子さんの思い出


 

小学3年生から4年生になるとき、
クラス替えがあった。
クラスで、席が決まって、私は1班。
一番廊下側の列の前から2番目だった。
みんなもそうだったが、私も班のメンバーの品定めをした。
私の前は、平悦子という子で、着ている物のセンスがよくて、色が白くて、いちばん美人でステキだと私は思った。

ところが、昼休みになると、
平さんと同じクラスだった男子数名が、
「こいつ、前はみんなからいじめられてたんだぜ。」
「こいつの言うことみんなウソだからな。」
と平さんの悪口を言っていった。
平さんは、泣いてしまった。
でも、すぐ泣き止んで、明るくふるまっていた。

社会の時間、班での作業となった。
そのとき、みんな自己紹介のようなものを始めた。
A子さんは、お父さんが社長だという。
そして、ピアノを習っているという。
すると、平さんも同じことを言った。
お父さんが社長でピアノを習っている。

平さんはお金持ち。
そして、美人。

クラスのマドンナになる要素を2つも持っている平らさんが、どうしていじめられたりしたのか、私には分からなかった。

でも、やがてその原因の一つが分かった。
算数の時間、平さんは、すごく簡単な計算ができなかった。
国語の音読も、漢字がまるで読めなかった。

そうか。マドンナの要素、「勉強ができること」、
それを満たしていないんだなと思った。

そのうち、もう一つの原因が分かった。
平さんのお父さんが社長というのも、
ピアノを習っているというのも、
ウソだといううわさが流れた。
平さんは、そのときも泣いた。
でも、すぐ泣き止んで、明るくふるまっていた。



私は、班の中で、となりの女の子と仲よくなり、
二人でしょっちゅう盛り上がっていた。
すると、平さんが後ろを向いて、私たちの話に入ってくる。
授業中もしょっちゅう後ろを向いて、話しかけてくる。

担任の先生によく注意されていた。
先生は女の先生だった。

あるとき、平さんの後ろへの振り向きがあまりにも多いので、先生が、厳しく注意をした。
そのときある男子が、
「先生、平は、純のことが好きなんだよ。だから、後ろ向くんだ。」
と言った。
すると、クラス中の男子が、「そうだ、そうだ…。」とはやし立てた。

先生はそれを制して、
「平さん。これ以上授業中に後ろを向くと、席を替えますよ。」と言った。
「いえ~い。平、せーきがえ!」などの声が起こり、
平さんは、また泣いてしまった。



そんな日の放課後。
平さんは、私のところへ来て、
「加納くん。(←私。)今日私の家に来て、一緒に遊んでくれない?」と言った。
「いいよ。」と私は応えた。断る理由がない。
平さんは、「ほんと!」と驚いた顔をして、うれしそうだった。

ランドセルを家に置いて、平さんと約束したところへ行った。
平さんは、ランドセルをしょったまま待っていた。
平さんは、越境通学をしていて、家はすごく遠かった。
近くに誰もクラスの人がいないので、一人で遊ぶしかないとのことだった。

歩きながら、平さんは、
「どうして、『いいよ。』って言ってくれたの?」聞く。
「だって、さそってくれたじゃない。」私は言った。
「そうっか。さそったから、まっすぐに『いいよ。』って言ってくれたんだ…。」
平さんは、そんなことを言った。

やがて、平さんの家に着いた。中に案内された。
そこは、2DKのアパートだった。

「加納くん。ごめんね。お父さんが社長なんて、ウソ。
 私、お父さんいない。
 ピアノもウソ。家にピアノなんてない。
 お母さんは、美容師。ウソついてごめんなさい。」
平さんは、そう言った。

「そうだったんだ。」と私は言った。
「怒らないの?」と平さんが言う。
「腹が立たないもん。怒らない。」と私。
平さんは、私を見つめていた。
「加納くんは、他の男の子たちと違うね。」と平さん。
「わかんない。」と私は言った。



平さんは、一人っ子で、6畳の洋間をもらっていた。
はじめ私たちはトランプなんかで遊んでいたが、
やがて、平さんが言う。
「加納くん。女の子の格好したら、ぜったい似合うと思うんだけど。」
私はドキッとしてしまった。それは、私の念願だったから。
「これ着てみて。」
と、平さんは、自分の箪笥から、可愛いピンクの半袖のワンピースを出してきた。
私は胸がドキドキしてしまった。

上半身、ランニングシャツ1つになって、ワンピースを着た。

「ズボンを脱ぐの恥かしい。」私がそう言うと、
「じゃあ、ズボン脱いで、パンツの上からこれ履いて。」
と、平さんは、体育のブルマーをくれた。
(ああ、それ、もっとドキドキする。)
と思いながら、私はズボンをぬいで、ブルマーを履いた。

「加納くん。髪の毛から耳を出してみて?」
(私は知っていた。耳を出すと私は女の子に見えてしまうことを。)
でも、いう通りにした。

「わあ~。」と平さんは、すごく喜んだ。
「可愛い。加納くん。女の子にしか見えない。」
私も鏡を見た。目を塞ぎたくなるような女の子ぶりだった。

平さんは、ヘアピンで、私の耳の後ろを両側留めてくれた。

「わあ、可愛い。」そう言って、平さんは、私に抱きついて、何度も飛び上がった。

「加納くんのこと『純子』って呼んでいい?あたし、女の子の友達ほしかったから。」
「うん。いい。」
「私のことは、えつ子って呼んで?」
「いいよ。」



それから私たちは、外で「ゴム段」をした。
電信柱にゴムの端を巻いて、一人が持つ。
ゴム段のとき、女子はスカートが邪魔なので、ショーツの中に裾を巻きこむ。
平さんがそうするので、私もそうした。
なんか、すごく女の子になった気分でうれしかった。

それから、私たちは、「純子」「えつ子」と呼び合いながら、部屋の中で、チェーン・リングをしたり、折り紙をして遊んだ。

遊んでいるとき、心の中が、すっかり女の子になってしまい、うっかり女言葉が出そうになってしまった。
「やだぁ。」とか「や~ん、悲しい。」とか「あたし」とか。



夕方まであそび、服を着替えて、さよならをした。
「明日、また遊んでくれる?」と平さんは言う。
「いいよ。」と私は言って、
こうして、私たちは、毎日のように遊んでいた。



ある日の放課後、男子の数人が私のところへ来て、
「純。今日みんなで、駄菓子屋へ行こう。」と言った。
「ごめん。約束があるからダメ。」
「誰と?」
「平さんと昨日約束した。」
少し離れたところに、平さんがいた。
「平との約束なんて、どうでもいいだろう。」とB君は言う。
「よくない。先に約束した。」と私。
「けっ。信じらんねえ。女と遊んで楽しいのかよ。」
「そういうことじゃない。先に約束したから守るだけだよ。」と私は言った。

男子たちは、何か捨て台詞を残して、去っていった。



その日、平さんの部屋で、女の子2人(一人は私)、壁にもたれて、
膝を抱えて座っていた。

「純子。どうして私との約束を守ってくれたの?」
「だって、昨日からの約束じゃない。」
「男子から、嫌がらせされるかも知れないよ。」
「そのときは、えつ子を見習う。」
「どういうこと?」
「えつ子は、泣かされても、すぐ元気になって明るくして      た。ぼくは、いつも、えつ子のそういうところ、えらいな    って思ってた。だから、えつ子を見習う。」
私の言葉を聞いた平さんは、目にいっぱい涙を溜めていた。
やがて、私の胸に顔をうずめて泣きはじめた。

「あたし…、そんなふうに言われたことなかった。
 えらい…なんて言われたことなかった。
 そんなふうに思ってくれた人は、純がはじめて。
 いじめられっ子の私が誘ったら、人気者の純は『いい          よ。』ってすぐ言ってくれた。
 私のついたウソを、純は、全然おこらなかった。
 純は、いい人過ぎるよ。あたしのことなんてどうでもいい     のに…。」平さんはそう言った。

「えつ子は、スタイルがよくて、美人だから、そのうち絶対    人気出るよ。」
私は、そっとえつ子を抱いた。



その日、平さんは、明日の約束をしなかった。

次の日、私は男子の嫌がらせを覚悟していたけれど、それは、なかった。
私が、「今日は、行く。」と言ったら、「おお、そうか。」と言ってみんなが「よし!」と言っていて、私は、拍子抜けしてしまった。



平さんは、その後、女の子2人と仲よしになり、3人でいつも楽しく過ごすようになった。



2年後、卒業式の日。
式が終わって、私が、学校の裏門を出ようとすると、平さんが駆けつけて来た。

「純。ありがとう。私は、3年間、ずっと純が好きだっ          た。」
「それ、告白?」と私は聞いた。
「ずばり、告白。」と平さんはにっこりして、私の頬にキスをしてくれた。



それから、8年後。
平さんは、ファッション雑誌「anan」のファッションモデルになった。

昔の級友が、「anan」に出ているすばらしく綺麗になった平さんを見て、悔しがって言った。
「ちくしょー!こんなことなら、あいつのこと、いじめるんじゃなかった。」
その横で、私は、
「あはは。」と笑った。

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      <平さんは、こんな子でした>

 

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