私の超お気に入り作品なので、今まで、何度も再投稿しています。これ、実は、実話度60%なんです。彼女の返事を聞いた喫茶店が忘れられません。彼女は、白い服を着ていました。手をつないで喫茶店を出た帰りも、忘れられません。

(この1話で、随分長いです。お許しください。)

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多次元女装サロン「25年後の告白」2020年

 

 

その日の5時ごろ、多次元女装サロンに男性が訪れていた。

小柄で細身、50歳だったが、30歳にも見えるほど若く見える。

その男性、田代祐二は、何か決意を込めた表情で、事務室の郁美に語った。

 

「今日は、私の50歳の誕生日です。

 それで、決意をしてきました。

私は、高校1年のときから、好きだった女の子がいました。

 近藤芳江と言う人です。

 しかし、私は、アメリカに行ったりして、

芳江への気持ちが一時遠のいていました。

 でも、帰国して、芳江にあったとき、昔の想いが蘇りました。

 芳江は、そのとき働いていて、私は、無職でした。

 そんな引け目もあり、お付き合いをしたり、離れたりしてきました。

 

 やがて、私は、定職を得ました。

そのとき、芳江は、口には出しませんでしたが、

 私のプロポーズを待っていました。

 私は、それを百も承知で、プロポーズができませんでした。

 私には、他に女装趣味があります。

 若い頃は、女装に恵まれた容姿をしていて、

 女の子になって、方々遊んで歩きました。

 

 しかし、私は、芳江に会うと、自分の女装趣味が、

 やましいことに思えてなりませんでした。

 こんな趣味を抱えて、とても芳江にプロポーズは、

できないと思っていました。

 彼女は、そんな私をじれったく思ったのか、

 自分は、30歳になったら、北海道へ行くと言いました。

 

 30歳までに、返事を欲しいという意味でした。

 私は、迷いに迷い、彼女が30歳の誕生日を迎える日に間に合うように、

 彼女へのプロポーズの手紙を出しました。

 自分の女装趣味のことは、書けませんでした。

 

 1週間後、彼女から電話があり、私達は、喫茶店で会いました。

 そのとき、芳江は、見合いをして、もう相手との結婚を決めていました。

 結納もすべて済んでいました。

 しかし、私からのプロポーズの手紙が、うれしかったと涙を見せました。

 

 その後、私は、お見合いをして、

 今の妻、幸子と結婚しました。

 

 私は、芳江に対し、長い期間、なぜプロポーズが出来なかったかを、

 伝えることができませんでした。

 プロポーズをしない私に、傷ついていたことと思います。

 今の幸子にも、女装は内緒です。

 同じ内緒にするなら、もっと早く芳江にプロポーズができたのに。

 

 以上が、ことの次第です。

 私は、誕生日の今日、相手がクローンでも構わない。

 芳江にもう一度会いたいのです。

 そして、私に女装の趣味があり、そのためにプロポーズができなかったのだと、

 伝えたいのです。もう50歳になりました。もう、恥かしくはありません。」

 

祐二は、そこまで、一息に語った。

 

「わかりました。

 芳江さんの、写真か何か、ありますか。」

「それが、結婚のとき、すべて彼女のものは捨てました。」

「では、あなたの記憶の中から、

 芳江さんのイメージを探しますが、いいですか。」

「はい、かまいません。」

祐二が答えると、郁美は、祐二の額に2つの電極を貼った。

 

郁美のパソコンのスクリーンに、芳江のイメージが現れた。

「こんな方ですか。」と郁美は、スクリーンを祐二に見せた。

「ああ、そうです。高校3年のときの芳江です。」

「じゃあ、お二人、高校生に戻りましょう。

 クローンに、あなたの記憶をインストールしますか。」

「ある程度、してください。芳江の言葉が聞きたいです。」

「わかりました。109号室に、制服姿の芳江さんが、待っています。

 祐二さんは、女装した制服姿の女の子になっています。

 今の、祐二さんから、当時の祐二さんの女装姿を類推しました。」

 

祐二は、胸を高鳴らせながら、109のドアノブを触った。

すると、自分は、高校の女子の制服の姿になった。

胸にふっさりとしたリボンがある。

中に入ると、部屋の真ん中に、同じ制服の芳江がいた。

 

芳江は、祐二を見て、ニッコリした。

「あのう、芳江?」と祐二。

「そうよ。祐二くん、女子の制服よく似合うわ。可愛い。」芳江が言う。

「ぼくが、どうして長い間、君にプロポーズできなかったか、

 それを、言いに来たんだ。」

 

二人は、ソファーに並んで座った。

「言われなくても、今、わかったわ。

 女装趣味のあることが、あたしに対して、

やましいと思っていたのね。」

「プロポーズできなくて、当然だと思う?」

「人によると思う。心に秘密を持って結婚するって、

 祐二くんの場合、できなかったのね。」

「うん。そう。でも、結局今の妻には内緒にしてる。

 どうせ、内緒にするなら、芳江と結婚できたのに。」

「今の奥様、愛しているでしょう。」

「うん。20年いっしょに暮しているからね。

 子供も、2人いる。

 でも、ときどき、芳江の夢を見る。

 芳江は、今、幸せ?」

「うん、幸せよ。子供が2人いる。

あたしも、祐二くんの夢を今でもよく見るの。」

 

「今、二人で、こうしているのって浮気だと思う?」

「あたし達は、今、記憶だけ携えて、時空を超えて、25年前の二人でいるの。

 過去の好きな人と何をしても、罪にはならないわ。

それに、あたしは、クローンよ。あなたとセックスするためにいるの。

 クローンとすることなら、さらに、浮気じゃないわ。」

「芳江がクローンでも、セックスは、できない。

ぼくは、芳江にプロポーズできなかった訳を言いに来ただけ。

 ぼくがプロポーズしないことで、

長い間、芳江を傷つけていたと思う。」

 

「祐二くんは、相変わらずだな。

 じゃあ、1回だけ、あたしにキスをして。」

「う、うん。1度だけ。」

祐二は、そう言って、芳江の肩に手をかけ、

芳江にキスをした。

ずっと愛してきた芳江への思いが、一気に募り、

祐二は、そのまま、芳江を抱きしめた。

「祐二くんのことが、大好きだった。」

「ぼくも、芳江が、好きでたまらなかった。」

 

二人は、しばらく抱き合い、やがて、その腕を解いた。

 

「今日、来てよかった。」祐二は言った。

「あたしも。祐二くんにまた会えるなんて思いもしなかった。」

「じゃあ、もう行くね。お幸せに。」

「祐二くんもね。」

時間は、まだたっぷり残っていたが、祐二は、部屋を出た。

 

祐二は、元の姿に戻った。

 

受付に行き、3万円を払った。

そのとき、郁美が言った。

「さっき、電極を当てましたね。」

「はい。」祐二は応えた。

「そのとき、いろいろな記憶を流入してきたのですが、

 祐二さんの今日一日の記憶が、

ゆがんでいることが分かりました。」と郁美。

 

「どういうことですか。」

「祐二さんの結婚20年の生活を、別の物に塗り替えているのです。

 多分、女装の趣味を秘密にしていたころの罪悪感をふと思い出し、

 塗り替えた記憶で、今日一日、いらっしゃったのだと思います。」

「そんなことが、あるのですか。」

「はい。脳の力は、限りがありません。

 20年の記憶を、一瞬にして塗り替えることもします。」

 

「どんなふうに塗り替えているのですか。」

「一番大きなことですが。

 祐二さんは、芳江さんが30歳になる直前に、

 プローズの手紙を書かれましたね。

 そして、それは、芳江さんのお見合いに間に合わず、

芳江さんと結婚ができなかったと。」

「はい、その通りです。」

「プロポーズの手紙は、間に合ったのです。

 そして、祐二さんは、お手紙の中で、

 ご自分の女装の趣味を告白したのです。

そして、その罪悪感で、芳江さんが好きなのに、

 ずっとプロポーズができなかったのだと、お手紙に書かれました。

 芳江さんは、それを理解し受け入れ、祐二さんと芳江さんは、

 結ばれたのです。」

 

「まさか、では、私の妻・幸子は、どこにいるのです?」

「幸子さんは、今日一日、祐二さんが心の中で作りあげた架空の人です。」

「じゃあ、今、私が家に帰れば、芳江がいるのですか?」

「はい。そうです。今まで、お二人で女装外出を何度もなさっていますよ。」

祐二は、目を輝かせた。

「ほんとうですか!」

「はい!」

「ありがとうございます。急いで帰ります。」

そう言って、祐二は、外へ飛び出して行った。

 

祐二は、息を切らして、家に帰って来た。

「芳江!」

と名を呼び、靴を乱暴に脱いで、台所に行った。

そこに、芳江がいた。

30歳ほどに若く見える妻。

『ほんとだ、芳江だ!』と歓喜が込み上げて来た。

 

祐二は、芳江を抱きしめた。

「芳江、君が、ここにいることがうれしい。」

「祐二くん(そう呼んでいる)、どうしたの?何をそんなに感激してるの?」

 

高校生の娘と息子が、見に来た。

「お父さん、いい年して、みっともないよ。」

「そうだよ。」

2人が言う。

「あはは。」祐二はやっと腕をほどいた。

「お母さんは、ぼくの誕生日の最高のプレゼントなんだ。」

祐二の言葉に、芳江と2人の子は、首をかしげ、

「まあ、いいか。」とくすっと笑った。

 

<おわり>

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