44年前のハッピーエンド

 

 

二日前の事件で、こんなことがあったのは、40年ぶりと書きました。

自慢続きとなりますが、その40年前のことを綴りたいと思います。

正確には、44年前です。私は、塾で、女子教員として働くことを理事長に許されていました。女子職員は、他に誰もいなくて、女子トイレはがら空き、自由でした。私は、29歳。毎日可愛いワンピースを着ていました。

塾の終わりは遅くて、夜の10時には、ほとんどの教員がいました。

その夜、10時過ぎです、職員室の外からのドアが、突然開けられ、躯体のいい男性が、4年生くらいの女の子を職員室の中に、放り入れたのです。女の子は、その勢いで、ソファーの上に、体を打ち付けました。

男は、女の子のお父さんで、完全に興奮し、血が頭のてっぺん迄のぼっているようすでした。何人かの先生が、女の子をかばいに、ソファーに行きました。

危ないのは、おとうさんの方でした。女の子に対し、カンカンに怒っていて、何をなさるかわからない。私は、お父さんの背に飛んでいき、 脚を開いて、お父さんを背中から羽交い絞めにしました。身長があり、まるでプロレスラーのようなお父さんです。

 

女の子は美少女でしたが、塾の有名人で、お父さんがなぜ怒っているのか、職員は大体の察しがついていました。女の子は、飽きれるほどの嘘つきなのです。自分にちょっと都合の悪いことがあると、簡単に嘘をつきます。それに、堪忍袋の緒を切らしたお父さんは、

「お前の言っていることが本当かどうか、これから塾へ行って、先生たちに聞いてみる。

もし、嘘だったら、只じゃ置かない!」

女の子が投げ込まれて来たのは、こんないきさつです。

お父さんの剣幕に、女の子は、血の気を失って震えていました。

 

羽交い絞めというのは、背中側から、相手の両脇の下に腕を入れて、その腕を伸ばして、拳を上にあげ結び、相手の首を抑える絞め技です。普通プロレスの技です。でも、細っこい私にとって、相手は筋肉の塊のような人です。私は、頬をお父さんの背中に強く密着させ、死にもの狂いで固めました。

その内、理事長が来て、お父さんと女の子を理事長室に誘いました。

お父さんは、やや落ち着き、そのとき、私が、固めていることに気が付いたのか、

「なんだ、この手は。」と言って私の両腕を払いました。お父さんは、その時まで、私が固めていることも分からないほど、興奮されていたのでした。

私は、さっと両腕を引き「失礼しました。」と謝りました。

 

理事長とお父さん、女の子が、行ってしまうと、職員の皆さんが集まってくれました。

「ジュンちゃん、凄い勇気だな。怖くなかったの?」と言われ、

「死ぬほど怖かったですよ。」と、私は震えて見せました。

 

15分ほど経ったでしょうか。私は理事長室に呼ばれました。

保護者を羽交い絞めにしてしまったことのお叱りかも知れません。

でも、理事長室に入ると、空気がまるで違います。

女の子は、嘘を認め、これからは絶対嘘をつかないと約束したのでしょう。

お父さんは、娘の態度に一応の手ごたえを得たのでしょう。

理事長は、問題が解決するのが大好きです。

 

私が、部屋に入ると、ソファーにいた3人が、さっと立ちました。

お父さんが、好意的な眼差しでおっしゃいました。

「私を固めてくださったのが、あなたのような女性だったとは、夢にも思いませんでした。

 あなたが、私を止めてくださらなかったら、私は、娘に何をしてしまったか、わかりません。感謝いたします、ありがとうございました。」

お父さんと女の子は頭を下げました。

さらに、お父さん。

「ところで、あなたは私を羽交い絞めになさったと思うのですが、私のような、大きな男を羽交い絞めにするなんて、到底、無理と思います。何か、特別な技をお持ちですか。」

私は、にっこり笑いました。

「たった一つの技ですが、それは、『死に物狂い』という技です。」

理事長は、ちょっと笑いましたが、お父さんは、大真面目におっしゃいました。

「死に物狂いで、私や娘を救ってくださったなんて、なんてありがたい。

 死に物狂いの助けをいただいた私や娘は、きっと変われると思います。

 そんな先生方がいらっしゃるこの塾に感謝いたします。

 理事長先生、ありがとうございました。」

 

こうして出来事は大ハッピーエンドに終わりました。

女の子は、嘘をつかなくなりました。美少女なので、人気も出ました。

すべて、めでたしめでたしでした。

 

おわり

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

        <懐かしい写真・29歳>

励ましの一票を!