長々書いて来ました。やっと最終回です。
この近藤さんは、私が病気で休職しているとき、
「毎日、空を見るといいですよ。」とメールをくれました。
忘れられない人です。最終回、読んでくださるとうれしいです。

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<感謝の手紙>つづき

加納君は、私が男子を怖がっていることを
知っているんだと思いました。
だから、女の子の格好で来てくれたのです。
ふつう、そんなことをしてくれる男の子がいるでしょうか。
私は、感激しました。
だから、私は、女の子のジュンとリラックスして話せました。

そんなやさしいジュンの心に打たれて、
私は、ジュンに、つらかった前の学校のことを話せました。
一生黙っていようと思っていたことなのに、
ジュンには話せたのです。

それを、聞いてジュンは、泣いてくれました。
たくさん泣いてくれました。
そして、慰めの言葉をくれました。
無理しちゃだめだよ。
心の傷は、ゆっくり治さなければだめだよ。

その言葉は、私の胸の奥にとどきました。
男の子は怖いと思っていたのに、
ジュンのようなやさしい人がいることを知って、
感激しました。

(ご家族が、泣いていた。)

次の日、もっと驚くことがありました。
加納君は、セーラー服で学校へ来たのです。
加納君は、自分のために着て来たんだと言いましたが、
私は、私のためにそうしてくれたのだと思いました。

私がお話をしやすくなるように、そのためかなと思いましたが、
それだけでは、ありませんでした。
加納君は、手をつないで、いっしょに校庭に行こう、
女同士だから恥かしくないよって、
私を誘ってくれました。
毎日、毎日さそってくれました。
そして、いつの間にか、
私は、みんなのドッジボールの中で遊べるようになっていました。
ジュンがいると、心強くて、
私はいつのまにか、大きな声で話し、
友達への怖さを少しずつ忘れていきました。

やがて、男子達もドッジボールの中に来るようになり、
私は男子にも、気軽に話すことができるようになっていきました。
クラスの男の子たちは、みんないい人ばかりでした。

ジュンは言いました。
心の傷を治すには、
みんなから、たくさんたくさん優しくされないとだめだよ。
楽しい思いをたくさん重ねないとだめだよって。

私は、毎日加納君から、いっぱいやさしさをもらいました。
ドッジボールをして、楽しい思いもたくさんしました。

ある日、私は、心の傷が治ったと感じました。
男子も女子も怖くありませんでした。
そして、女子のとってもいい人達のグループに入れました。
このグループにいれば、絶対安心だと思えました。

その次の日、加納君は、男子の制服で学校に来ました。
加納君は、私がもう大丈夫だと思ったからです。
やっぱり加納君は、私のためにセーラー服を着て、学校へ来てくれたのだと確信しました。
感激しました。泣いてしまいそうでした。

加納君は、合気道をやっていて、
その稽古のために、家では勉強する時間が全くないことを知りました。
だから、学校で、5分でも時間があれば、勉強をしていたのです。
そんな大事な休みの時間を、
加納君は、私のためにどれだけ使ってくれたでしょうか。
思うとありがたくて、涙が出てしまいました。

(麻衣が泣き出してしまった。ご家族も。)

お父さん、お母さん、由紀。
私の心の傷は、多分だけど、治りました。
今まで、心配をかけて、ごめんなさい。
私は、もう大丈夫です。

加納君、ありがとう。
何回言っても、いい足りないくらい感謝しています。

最後に、加納君が私に何度も言ってくれた言葉をいいます。

私も加納君が好きです。
私が生まれて初めてする告白です。
         
             近藤麻衣

*   *   *

読み終えて、麻衣はその手紙を私にくれて、座った。
麻衣は涙の目をハンカチでぬぐった。
私と目が合った。
私は微笑んだ。
麻衣も微笑んだ。

お父さんも、お母さんも、由紀ちゃんも涙に暮れていた。

そのうち、お父さんが、言った。
「私たち家族は、麻衣の心の傷は、もう治らないと思っていました。
 最悪の場合、不登校になることも覚悟しました。
 ところが、この世に加納君のような人がいてくれたとは、
 麻衣にとって、語り尽くせないほどの幸せなことでした。

 麻衣のために、学校へセーラー服を着て行ってくれるなんて。
 その勇気と思いやりに、涙が出ました。
 そして、麻衣を実際みんなの中に入れるようにしてくれました。
 いくらお礼を言っても足りません。
 ありがとう。加納君。君によって、麻衣は助かりました。

お父さんは、そう言って、泣きながら深々と頭を下げた。

「麻衣よかったわね。加納君、ありがとう。」
とお母さんが涙を浮かべて、麻衣を抱いた。

由紀ちゃんも涙ながらに言った。
「あたし、お姉ちゃんが心配だったから、それとなく見ていたの。
 あるときから、おねえちゃんが、校庭に来なくなって、
 やっぱりだめかなあと思ってた。
 そしたら、家に来てくれた、ジュンさんが、お姉ちゃんのそばにいて、
 二人で外にいた。

 きっとジュンさんが、誘ってくれたんだと思った。
 お姉ちゃん、だんだんみんなの中でドッジボールやるようになった。
 お姉ちゃんのそばに、必ずジュンさんがいて、見守ってた。
 まさか、男の純さんが、セーラー服来て、そばにいてくれたなんて思わなかった。
 そんなことしてくれる人、この世にいないと思う。
 お姉ちゃんは、去年辛い思いをしたけど、
 今年、それよりもっとたくさんジュンさんのやさしさをもらったと思う。
 ジュンさん、ありがとう。お姉ちゃん、よかったね。」
由紀ちゃんは、目にハンカチを当てた。

私は言った。
「あのう、幸せなのは、ぼくでした。
 その麻衣さんが、ぼくが休み時間一人で勉強しているとき、
 いっしょに教室に残ってくれていました。
 とてもうれしかったです。

 席替えで隣になったときは、天にも昇る思いでした。
 ぼくがセーラー服を着て学校へ行ったのも、
 これなら、麻衣さんと手をつないで、外にいけると思ったからです。
 全部、ぼくが自分の幸せのためにしたことです。
 だから、お礼を言いたいのはぼくの方です。
 麻衣さん、いっしょに手をつないでくれて、ありがとう。
 ぼくは、幸せでした。」

麻衣は泣いていた。
ご家族が拍手をしてくれた。



さあ、ケーキを食べましょうとお母さんが言った。
みんなでわあーいと言った。

ケーキを食べながら、お父さんが言った。
「しかし、加納君ほど、女装が似合う男子もいないね。」
「そう、あたし、女の先輩だって、ぜんぜん疑わなかったもの。」と由紀ちゃん。
「あのとき、知っていたのは、麻衣だけなのよね。」とお母さん。
「うん、女の加納純さんなんていないもの。おもしろいからだまってた。」と麻衣。
「ぼくの、最大の特技なんですよ。困ることもありますけどね。」と私。
みんなが、
「どんな?」と聞く。
「えーと、外でぼくを見る人、男装をした女の子って見るみたいです。」
「見えなくもありませんね。」とお父さんが言って、みんなで笑った。

そんな風に、後は笑いながら、近藤家での一日が過ぎて行った。
私はみなさんが見送ってくれるなか、
大きく手を振って、さよならをした。
心が、ぽかぽかと温まっていた。

道を曲がるとき、麻衣が追いかけてきた。
「ジュン、待って。」と息を切らす麻衣。
「なあに。」と私。
「最後に、感謝の印。」と麻衣は言って、
私の頬に、キスをちょっとしてくれた。
ああ、天にも昇る気持ち。
「うれしい、ありがとう。」
私は、赤くなりながら言った。
麻衣もほんの少し赤くなっていた。
「じゃあ。」と言って、私は走った。

私の中学生活で、いちばんうれしい瞬間だった。

空に入道雲が、西日を受けて輝いていた。


<おわり>


■次回予告■

新作がなかなかできません。
そこで、自叙伝の中から、
アメリカでの「ジェイル体験」を5回に分けて再投稿します。
読んでくださるとうれしいです。

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