パソコンが、今なら動いています。そこで、今のうちに明日の分を投稿します。
まだ、④を読んでない方は、下にあります④を先に読んでくださるとうれしいです。
次回⑥は、最終回です。最後まで、お付き合いくださるとうれしいです。

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「次、第1位。これは、もうわかってるだろう。」と先生が言った。
「え、わからないっすよ。」と誰か。
「ガリ勉の純かな。」とまた誰かが言った。
先生。
「そう、加納純だ。」
「そうかあ…。」などとみんなは言っていた。
麻衣が驚いて私の顔を見た。
私は、麻衣に、「にー。」と笑って見せた。
麻衣はうれしそうな顔をした。
先生は。
「お、みんな、加納にも拍手してやれ。トップだぞ。」と言った。
「ガリガリ勉強してるんだから、当然かなって。」と誰かが言った。

「なんだ、お前たちは、知らなかったのか。」と先生は言って、
「加納は、お稽古事をやってるんだよ。
 その早朝稽古が2時間。学校が終わったら、4時から9時までお稽古をしているんだ。
 一日7時間もやっている。
 つまり、加納は家では一切勉強をしていない。
 宿題も予習復習も全部学校でやっとるんだよ。
 5分休みも、昼休みも勉強しているのは、そのためだ。
 それを、みんなは、えらいと思わんのか。」と言った。

「ええ!知らなかった…。それは、すげー!」と誰かが言った。
「めちゃすげーよ。」と誰か。
そして、やっとみんなが拍手をしてくれた。
私は、立って、にこにこと挨拶をした。
麻衣が、
「そうだったんだ。知らなかった。大切な休み時間を…。」と独り言のように言っていた。

ホームルームが終わったとき、何人かが、私のところへ来た。
「純、純のお稽古事って何?」
「お琴とか、日本舞踊とか?」と言われた。
「やっぱり、そのへんに見える?」と私は答えた。
「うん、お稽古だもん。純、女の子っぽいし。」とみんな。
「今度、見せてよ。」と誰か。
「あんまり、見せるもんじゃないから。」
私はそう言って逃げた。
私のイメージからして、合気道はなんとなく恥かしかった。

麻衣のところにも大勢来て、第2位を誉めていた。
「麻衣、すごーい!」と抱きしめる子もいた。
「このー、美形で才女なんだから。」そんなことを言っていた。
このクラスには、誰かのいい成績をやっかむ人はいなかった。
担任の岡田先生がいいからかな。



私が男子服になっても、麻衣は、いっしょに帰ることを嫌とは言わなかった。
麻衣の心は、そこまで回復していた。

その日、いっしょに帰りながら、麻衣は、
「ジュンが、そんなに成績いいなんて、知らなかった。
 ジュンが、ガリガリ学校で勉強してたわけを知って、感動した。」と言った。
「好きなことをたくさんやりたいから。」と私は言った。
「ジュンのお稽古事ってなあに。」
「ぼくのイメージじゃないから恥かしい。」
「笑ったりしないから。」
「合気道。」
「武道だったの?先生、『お稽古事』なんていうから、お琴とか三味線かと思った。」
「そうだよね。」と私は笑った。
「ジュン、強いの?」と麻衣が聞く。
「弱いよ。だから、がんばってる。」と私は答えた。


「ジュン。ジュンには、たくさん感謝してるから、お礼をしたいの。
 次の日曜日、私の家に来れる?」
「うん、日曜日は、休みだから行ける。」
「じゃあ、12時に昼食べないで来てくれる?」
「うん。OK。」
「男の子の純を紹介したいから、男子の制服で来て。」
「Yシャツとズボンでいいの?」
「うん。それでいい。」と麻衣は言った。



約束の日曜日、今度は男子の制服で、近藤さんの家に行った。
ちょっと男に見えるように、前髪を分けて、
少し太目の眉が見えるようにした。

近藤さんの家のインターフォンを押した。
出てきたお母さんは、今度は男の純だったので、驚かなかった。
「いらっしゃい。どうぞ。」とお母さんはにこにこしていた。
「失礼します。」と私。
中へ入って、居間へ案内されると、テーブルに豪華なお料理が並んでいた。
「わあ~。」と私は言った。
家族の人みんながそろっていた。
みんな、にこにこしている。
私は、(お父さんが言っていたように)興味津々に見られているようだ。
私は中央の椅子に座った。
由紀ちゃんと目が合った。
由紀ちゃんは、にこっと笑って、会釈をした。
私もにこっと笑顔を送った。
由紀ちゃんが、私は女のジュンと従姉なので似ていると言ったためか、
私がこの前の女のジュンだとは、思われていないようだった。

麻衣の学校での表情と家での表情が、やっと同じになった。
私は感慨を深くして、お料理をいただいた。
いただきながら、地が出てしまい、たくさんしゃべった。
「純君は、女ジュンさんと同じくらいおもしろいね。」とお父さんから言われた。



お料理が片付いたとき、お父さんが言った。
「今日は、麻衣が加納君に感謝の手紙を書いたというんですよ。
 聞いてやってください。」

麻衣がある紙をもって立ち上がった。
「これは、お父さんやお母さんや由紀が知らないこともあるので、
 みんなで聞いてね。」と言った。
麻衣は読み始めた。


<感謝の手紙 加納純くんへ>

私は前の学校で、辛い思いをして、
友達が怖くて、心を開けませんでした。
そんな心のまま、今の学校へ転校して来ました。
クラスのいろんな人たちが、私に声をかけて、
友達になろうとしてくれたのに、
私は、やっぱり人が怖くて、話すことができませんでした。
みんな私をあきらめて、
休み時間、私はまた一人ぼっちになり、
教室に残っていました。
そのとき、もう一人、加納君が教室にいました。

ああ、私一人じゃないと思って、
心が救われました。
加納君は、いつも勉強していました。
そんな加納君を見ているのが好きでした。
そのうち席替えになり、加納君ととなり同士に
なることができました。
男子の中で、一番となりに来て欲しいと思っていた人でした。
休み時間になると、並んだ二人だけ教室にいて、
お話もしなかったけれど、
一人ぼっちじゃなかったことが、
とてもうれしかったのです。

その加納君が、あるとき、
びっくりするほど自然に、
私の家に遊びに行きたい、
なぜなら、君が好きだからだと
言ってくれました。

加納君は回りのことなんか見ていない人だと思っていました。
まして、私のことなんか。
だから、とてもびっくりしました。

でも、もっと驚くことに、
約束の日曜日に来てくれた加納君は、
セーラー服を着ていました。

(このとき、お父さん、お母さん、由紀ちゃんは、
驚きの表情で、私を見ました。
 私は微笑み返しました。)


つづく

■次回予告■

次回最終回です。
麻衣の「感謝の手紙」の後半です。
麻衣の家族が感謝の言葉を述べます。

新作ができないでいます。またPCの調子が悪くて、
思い切って書くことが出来ません。
再投稿になると思います。明日午前中に投稿します。

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