1日にあんまり長いのはと思って、1日1作再投稿して行きます。
その間に、新作ができるかも知れません。
出来事は全部覚えています。若いときって、エネルギーがあったんだなあと思います。
読んでくださると、うれしいです。

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近藤さんの家は、2階立ての新築の家だった。
近藤さんが驚く顔を期待しながら、チャイムを鳴らした。
近藤さんのお母さんらしい人の声がした。
「加納純です。」と言った。
やがて、ドアが開いて、お母さんが顔を見せた。
近藤さんに似て、お母さんも美人だった。
お母さんは、私を見て、あれっと驚いた顔を一瞬した。
(男の子が来るはずだったからかな。)
「どうぞ。」と言われ、玄関に入った。
「こんにちは。」と言った。

「こんにちは。」とお母さんは言って、あわてて奥に引っ込んだ。
奥で話している声が聞こえる。
「麻衣、男の子じゃなくて、女の子よ。」とお母さん。
「そんなはずないわ。加納君でしょ。」と近藤さんの声。
やがて、暖簾を上げて、近藤さんが顔を見せた。
私を見て、「あっ。」と声を上げた。
私は、にーっと笑って見せた。
近藤さんにみるみるうれしそうな表情が浮かんで、
「お母さん。あたしの間違え。女の子の方の加納さんだった。」と奥の家族の人たちに言った。
「加納さん、上がって。」と近藤さんは言った。目が笑ってる。
「お邪魔します。」と私は言って、女の子らしく靴をそろえた。

近藤さんに部屋まで案内してもらった。
私が部屋に入って、近藤さんはドアを閉めるなり、
「あはははは…。」と男の子のように笑った。私を見て、
「加納君ったら、あはははは…。」とまた笑った。
「ね、受けた?」って聞いた。
近藤さんは、笑いながら、お腹を押さえて、何度もうなずいた。
その様子は、学校での近藤さんとは、まるで違っていた。
のびのびしていて、明るかった。

「加納君がセーラー服で着てくれるなんて、夢にも思わなかった。」
「女装は、ぼくの特技だから、近藤さんに見てもらいたくて。」と私。
「うん。特技だけのことあるわ。完全に女の子に見える。
 加納君は、声も可愛いから絶対わからない。」
「ほんと。うれしい。」と私は言った。

「近藤さん。ぼく今日女だから、近藤さんのこと『麻衣』って呼んでいい?
 ぼくのことは、ジュンって呼んで。」と言った。
「うん。そうする。麻衣って呼んで。加納君のことジュンって呼ぶ。」と麻衣は言った。



麻衣の部屋は、とってもステキだった。
新築の部屋の香りがして、ベッドやカーテン、何もかも明るくて、憧れてしまった。
「いい部屋だね。」と言った。
「うん。部屋にいるときが、一番幸せ。次は、リビングかな。」
そうやって考えたり、笑ったりしたときの麻衣は、惚れ惚れするくらい可愛くて、知的で、
私はため息が出そうだった。

部屋にあるものをいろいろ見せてもらっているうち、
階下から声がかかった。
ケーキがあるから、降りてくるようにとのことだった。

麻衣と降りて行くと、ご家族がテーブルに揃っていた。
お父さん、お母さん、妹さん。
お父さんは、若くて、背が高く、長髪で、とってもステキだった。
妹の由紀さんは、お姉さんに負けないほどの美人だった。
仲のいい温かいご家庭だなと思った。

「加納純です。どうぞよろしく。麻衣さんのファンクラブ会員ナンバー1です。」と言ったら、
ご家族が笑った。
お父さんが、
「いやあ、昨日麻衣が男の子から告白されたって言うんですよ。
 そして、その男の子が、今日見えるということで、
 もう家族中で、興味津津でいたんです。
 そしたら、女の子のお友達で、みんなで、ずっこけちゃって、
 いやあ、そんな音が聞こえたかも知れません。失礼しました。」
と言った。お父さんは、青年っぽいところがあって、すごくいい感じだった。
麻衣が言った。
「いえ、告白されたのは本当なの。
 でも、今日着てくれたのは、女の子の加納純さんなの。
 加納君って子と、同性同名。クラスに2人いるから。ね、ジュン。」
と聞かれた。
私は、
「もう、間違えられて困ってます。いい迷惑なんですよ。
 男の加納純は、麻衣と席が隣で、もう麻衣にメロメロです。
 変なヤツなんですよぉ。誰かを好きだと思ったら、すぐ口に出しちゃうんです。
 まあ、ある意味、素直なんでしょうね。」と言ったら、みなさんが、笑った。
お父さん。
「じゃあ、麻衣が告白されたってのも、ありえるのですね。」
私。
「ありえます、ありえます。男加納純は、自分の気持ちをしまっておくヤツじゃありません。
 思ったら人の迷惑もかえりみずに、ぺろっと言うヤツです。」
麻衣がくすくす笑っていた。
お母さん。
「それは、もう一人の純君にもお会いしたいわね。
 女の子のジュンさんは、今日来てくださってるし。」
妹さん。
「ジュンさん、すごく可愛い。おもしろいし絶対モテてると思う。」
麻衣。
「モテてる、モテてる。男の子の一番人気。
 女の子からもすごくモテてるの。あたし、うらやましい。」
私。
「いえ、それほどでもないんです。
 麻衣ちゃんは、とにかく美形です。そして、知性的。
 あたし、麻衣ちゃんを初めて見たとき、0.1秒でコロリと来ましたもの。」
みなさんが笑った。
麻衣も楽しそうだった。



紅茶とケーキをいただいて、麻衣の部屋にもどった。

麻衣がベッドを背に、膝を抱えてジュウタンに座った。
「ジュン、となりに来て。」と麻衣が言った。
私は、麻衣のとなりに同じようにして座った。
少し、胸がどきどきした。
麻衣は、私が女の子だと錯覚してるなっと思った。

麻衣が言う。
「ジュン、ありがとう。あたしが学校で楽しくやっているみたいに言ってくれて。」
「ほんとのことしか言わないよ。男の純も麻衣が好きだし。」
「ジュンが楽しくお話してくれて、父も母も安心したと思う。」と麻衣。
「心配をかけたことあるの?」
「うん。あたし前の学校で、いじめられてたから。」麻衣はうつむいて話し始めた。

「あたし、色が黒いでしょう。それで、クロンボ、クロンボって男子に呼ばれた。
 そのくらいならいいの。でも、
 理由がぜんぜん分からないのに、たくさん嫌がらせされて、ひどいことされた。
 女子は初め、あたしをかばってくれていたけど、そのうち男子側について、
 もう、あたしをかばってくれなくなった。
 で、クラス中から、嫌がらせされた。」

「どのくらい続いたの?」と聞いた。
「1年つづいた。」と麻衣は言った。

なんてことだろう。
1年も、クラス中からいじめられるなんて。
なんで、麻衣みたいないい子がいじめられなければならないのだろう。
麻衣が心にうけた傷はどれほど大きいものだろう。
麻衣は、だから、人と接するのが怖くなっている。
当然だ。

私の目から涙が出てきた。

そのうち、涙が止まらなくなって、抱えた膝に顔をうずめて泣いた。

「泣いてくれてるの?」と涙声で麻衣が言った。
「ひどずぎる。麻衣がかわいそう過ぎる。」私は顔をうずめたまま言った。
麻衣も泣いているのがわかった。
「思い切り泣かなきゃだめだよ。
 泣くしかほかにないもの。」私は涙声で、やっとの思いで言った。
「うん。」そう言って麻衣は、私の肩に両手をかけ、
声を忍ばせて泣いた。


つづく

■次回予告■

純は、一大決心をします。
セーラー服を着て学校へいきます。

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