いままで、2話ずつ投稿して来ましたが、
今日は、最終の回の1話だけです。
長いお話を、今までお付き合いくださり、ありがとうございました。
さて、最終回、優勝はどうなりますか。読んでくださるとうれしいです。

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<第5話> 「優勝はいかに?」最終回


みんなは、拍子抜けした。最終を飾る5点問題としては、
あまりにも簡単に思えたからだった。

これは、中学入試の問題だ。何べんもやらされた問題だった。
天才君は、問題を見て、バカにするなと、1秒で線を描き、
パネルの裏に説明図を描いて、腕を組んでいた。
相棒に「優勝もらったぜ。」とほくそ笑んでいた。
他の学校も、5秒もかからず終えてしまっていた。
「これが、最後の問題?」という声もしていた。

ミユは、自分の頭に答えを出し、
「これで終わりね。天才君が間違えるわけない。」とリリに言って、はっとした。
そのとき、リリはだまって深く集中していて、いろんな情報を懸命に処理しているようだった。
リリに近寄り難いオーラを感じ、ミユは、そんなリリに惚れ惚れと見とれていた。
『リリ、ステキよ。』とミユは心から思った。

時間ギリギリに、「あたしが描いていい?」とリリはミユに聞き、
制限時間ギリギリに描きあげ、パネルを裏にした。
「全力でやったから、天才君と同じでもあきらめて。」とリリ。
「うん。もちろんよ。」とミユ。

司会
「はい、時間です。みなさんペンを置いてください。
 といっても、開明のA子さん以外、みなさんとっくに置いてましたね。

 実は、この問題は、30年ほど前、驚くことに中学2年生の男子が考えた問題です。
 当時、数学マニアの季刊誌「数学セミナー」に載り、大学教授から小学生まで、
 8000名の回答がよせられました。
 しかし、正解者がその中のたった50名しかなかったという、
 誤答率ナンバー1を記録した問題です。
 これは、数学マニア160人中1人、正解率わずか約0.6%の問題です。
 そこで、全国高校生クイズ大会の最終にふさわしい問題として、出題しました。
 この中に正解者がいれば、それは、大変なことであるといえると思います。

 では、これは、端から順に見せていただきます。
 となりの学校のを見ないでくださいね。

 では、ラメール高。」
ラメールは、自信満々にパネルを見せた。

司会「はい。×です。」
「えー?」とラメールの二人は叫んだ。
「どうして?」とパネルにかがみこむ。
司会
「次、神戸女子。」
神戸女子が見せる。
司会
「はい、×です。」
神戸女子も同じ反応、同じ答。。
司会
「では、1秒で答えていた灘川高。」
天才君が堂々と見せた。
「えー、面を展開図にして、AからBへ、直線で結んだ線です。」
天才君は、そう付け加えた。

女装  遥かなる想い


女装  遥かなる想い


司会「ううううううんん、灘川高×です。」
「えーー??まさかあ、これ、トンチ問題やありませんよね。」
と天才君は思わず立って叫んだ。

司会「違います。正規の数学の問題です。」
天才君は、パネルを見ていて、
「あ、しもた!どうして気づかへんかったんや。」
と言って、頭をかかえ、パネルに顔を伏せてしまった。
「開明もまちがえるかも知れへんがな。まだやで。」と相棒が言った。
「そ、そやな。俺がまちごおたんや。開明の女にできるとは思えん。
 できたら、あいつらこそ天才や。」天才君は言った。

「天才君まちがえたよ。」とミユが言った。
「うん、そうだね。」とリリは言った。
「リリのあってるの。」
「あたしの中では、これが最短なの。」とリリは言った。

緑陰も天才君と同じ答えで×。
女子学園も同じく×。
開明に来たところで、司会者は止まった。

会場は、しーんとして、物音一つなかった。
開明の応援団は、固唾を呑んで見ている者、
手を合わせて祈っている者、いろいろだった。

司会が来た。
「他の学校は、数秒で答えていましたが、開明さんは、ぎりぎりまでねばっていましたね。」
リリ。
「はい。道筋は分かったんですが、正しいかどうか、いろんな展開図を描いて、
 確かめていましたから。」
司会。
「全部頭の中で?」
リリ。
「はい。」

司会は前を向いた。
「さて、時間一杯考えたこの開明学園の答えで、優勝が決まります。
 さあ、灘川に初優勝なるか。
 代理とはいえ、驚くべき知識を披露してくれた、開明の連覇は続くのか。
 数学マニア0.6%の正解率に食い込めるのか、開明。
 運命の一瞬であります。
 では、オープン。」

リリは、パネルを出した。
 
司会は、しばらく黙って、目を見張っていた。やがて、 
「正解!!!
 開明学園 優勝!!」と叫んだ。

大スクリーンの裏表に、開明の答えが映し出された。

女装  遥かなる想い


みんなが、「ああ、そうかあ…。」と唸った。

二人の上に、紙ふぶきが散り、全員が立って拍手をした。

「校長、やりましたよ。あの二人。」と副校長が涙ながらに校長の手を握った。
「ああ、やってくれた。ハンデがありながら、堂々の優勝だ。」
校長も、涙を浮かべていた。

司会が、一端皆を沈め、問題の解説をした。

女装  遥かなる想い


「えー、開明学園以外の学校は、この図にあるここ、どの学校も同じ答えです。
 しかし、開明学園は、裏の面を通ってBに達し、展開図でごらんのように、
 わずかに近いのです。
 みんなのコースは、√45、開明のコースは、√41となり、最短です。

 それほどの、問題に正解した開明学園は、名実ともに、日本ナンバー1と言えると思います。
 優勝おめでとうございます!」

ミユは、リリを抱きしめた。
「ああ、リリ、あなたって人は。
 あたしの答えじゃ×だったわ。
 すてき、かっこいい。ワンダフル。」
とそう言った。

出場者は、みんな床に降りてきて、
まず、女子同士集まり、手をつないで喜び合った。
それから、互い握手を交わした。
天才君と握手をしたリリ。
天才君「考えたの、君か。」
リリ「ええ。」
天才君
「すごい。1回間違えてからなら大勢がわかる。1回であの道を見つけるのは、ものすごい。
 君に完全に負けた。おめでとう。」リリにそう言った。
リリ
「ありがとう。」
みんな、それぞれ言葉を交わし、健闘を讃えた。
   
そして、2人は、応援団の所へ行って、
「みんな、ありがとう!おかげで勝てたよー!」
と挨拶をして、絶賛の声と拍手をもらった。
応援団の喜び方は、尋常ではなかった。
泣いている生徒もいた。

視聴率最高値72%。
番組としては、歴史的記録だった。
それだけの、人々が、二人の優勝に興奮し感動した。
ディレクターと助手の二人は、感動しすぎて、放心状態だった。

逃げる時が来た。このタイミングだった。
優勝のインタビューに答えたかった。
しかし、止むをえない。
ミユとリリは、みんなが乱れ動く中、
うまくまぎれて、控え室に行き、着替えの袋をもった。
裏口で待っている、2台のバイクのドライバーの後ろに乗り、
ヘルメットをかぶり、「お願いします。」と言った。
雑誌や新聞記者が、待っている玄関付近を横目に、
裏道を突っ走り、新宿のゴールデン街へ連れて行ってもらった。

番組では、やっと授与式の準備ができた。
だが、ミユとリリの代わりに校長が立っている。

スタジオのドアに詰めかけていた報道人たちは、
「しまった!逃げられた。」
とそれぞれに言い、バイクや車に戻って、周辺を回ったが、後の祭りだった。



ゴールデン街の入り口には、なんの追っ手も来ていなかった。
「ありがとうございました。」
二人はお礼をいって、ゴールデン街の「ラーメン酒場」典子の店に駆け込んだ。

典子ママは、小さいテレビで加奈といっしょに見ていた。
「典子ママ、先輩お願いします。」
「きゃー、おめでとう、二人。」と加奈が言った。
「じゃあ、早く奥で、メイク落として。」とママが言った。
「加奈ちゃん、あの子達の先輩なの?」
ママはテレビを見ながら言った。
テレビでは、今、校長が代わりに症状や記念品をもらっているところだった。
「はい。」と加奈もテレビを見ていた。
「じゃあ、開明学園出てるの。」と典子ママ。
「はい。」と加奈。

素顔になったミユとリリは、木綿の地味なワンピースに着替えていた。
さっきとは一変して、かわいい普通の女の子になった。
「まあ、まあ、普通の可愛い女の子だこと。」ママはそう言って、
「今、オレンジジュース出してあげるね。」と言った。
「おめでとう。すごかったね。」と加奈が言った。
「それに、何?病膏肓。膏肓のこと、ミユは、なんであんなに詳しく言えたの。」ママが聞く。
「あたし、人体大好きで、もうマニアックなんです。」とミユ。
「でも、有名校のトップって、あそこまで知ってるのね。たいしたもんだわ。」とママ。

「アリの問題で、リリは、頭の中で、全ての展開図を検証していたでしょう。」と加奈。
「はい。わかりましたか。」とリリ。
「あのときのリリの表情、ステキだったな。」と加奈。
「そうだったんだ。だから、あんなに時間がかかったんだ。」とミユ。
「うん。まあ、そうなの。答えはすぐ出たのよ。でも間違いがあってはならないから。」とリリ。
「ま、二人とも、ばりばりの秀才ね。さすがの加奈も顔負け。」とママ。
「何言ってるんです、ママ。加奈先輩は、一昨年の第1回目の優勝者ですよ。」とリリ。
「ウソ!あたしそんなすごい子を雇っているの?」とママ。

「でも、一つ、あなた達の方が上よ。」とママが言う。
「どうしてですか?」とミユとリリ。
「女装で出たこと。」とママは笑った。
「そうよ、うらやましくてたまらなかった。あたしもあんな格好したかった。」と加奈。
「そうですね。」とミユ、リリ。
と笑い声が店にこだました。

店は閉店にし、みんなでラーメンを食べながら、
夜更けまでわいわいと話し合った。



学校は、夏休みで、部活の生徒しかいなかった。
スクープ記者が、学校を張っても、暑い8月の毎日はきつい。
日が経つにつれ、話題性も薄くなる。
やがて、記者の姿はなくなった。

開明の代理として出た2人の女生徒は、
開明の生徒以外、永遠の謎となった。


<おわり>

■次回予告■

新作をがんばって考えているのですが、
なかなかできません。
自叙伝から「純の中学生のときの恋」の再投稿を考えています。

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