この第3話で、最終回です。読んでくださるとうれしいです。
(今日は、出掛けますので、早い時間に投稿します。)

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ちょうど次の日にクリニックの予約がとれ、
剛と遥は、学校を休んだ。
親子4人でクリニックに行った。

初めに通された部屋にいたのは、大柄で、無精ひげをはやした、
40歳くらいの高井という先生だった。
精神科の先生ということだったが、少しとぼけたところがあって、
信用していいのか、悪いのか、謎のような先生だった。
ただ、瞳がとてもやさしそうだった。
剛と遥は、先生が気に入った。

父の高志は、2歳くらいの様子から、4歳で二人が入れ替わり、
4年生のいままでずっと気がつかなかった経緯を話した。

「なるほど。」と高井は、言って二人に、
「君達は、4歳から10歳まで、6年間、うまくやったな、このやろ。」
と二人の脇の下をつつく真似をした。
剛と遥は、逃げるマネをしながら笑った。
高志と芳江は、苦笑した。

「じゃあ、これから、外科的な診察と、心理的な各種のテストをしますので、
 2時間ほどかかります。外で、ぶらぶらなさっていてください。」
と高井は、高志と芳江に言った。

「あなた、どう思います、あの先生。」
と、クリニックを出るなり、芳江が言った。
「なんだ、気に入らないの。」と高志。
「そうじゃないけど、どこか、ふざけているみたいで。」
「俺はそうは思わなかったけど。深刻な診察を受けに来たんだ。
 そんな子供たちにリラックスさせてくれたんだと思うよ。」と高志は言った。

2時間がたった。
診察室に入ると、剛と遥は、もう来ていた。
高井は、おもむろに言った。
「こう言った障害を受け止めるとき、
 ポジティブに受け止めるか、
 ネガティブに受け止めるかには、
 大きな違いがあります。
 お見受けしたところ、お母様は、やや心配性で、
 ネガティブでいらっしゃる。」
高井は、そう言って、少しいたずら気な瞳を、芳江に向けた。
「それは、いたしかたないことです。
 母親は、守る立場にいますから。
 少し用心深くなって当然です。
 だが、それを乗り越え、前向きにお考えいただきたいのです。
 親の姿勢は、子供に影響します。」
「はい。」と芳江は言った。

「では、診断を申し上げます。
 お二人は、外科的にも、内科的にも、極めて健康です。
 しかし、精神的には、剛さんは、女の子であり、遥さんは、男の子です。
 つまり、お二人は、99%の確率で、性同一性障害と診断します。
 99%というのは、世の中何がおこるか分からないからです。
 絶対ということは言いきれない。ま、医者の逃げですね。」
高井は、剛と遥に言った。
「剛君の心は、男の子、遥さんの心は女の子だと、今、ご両親に言ったんだよ。」

家族は、その後、ホルモン投与や、生涯に渡るケアについて、話を聞いた。

芳江は、
「あの、学校にはどうすればいいでしょうか。」
「なるほど。」と高井は、お茶目な顔をして、手を打った。
「何もしなくても、いいわけですね、ははは。」と笑った。
「いや、そうでもない。えー、学校には言っておいた方がいいですね。
 私立中学に行く場合、本人でないとまずいですから、そうしてください。
 しかし、私の出す性同一性障害の診断書があれば、
 扱いは、そこに記されている性別になりますから、
 学校生活は、なんの変わりもありませんよ。」

最後に、遥が、手を挙げて言った。
「あの、あたしは、将来子供を産めないんですよね。」

遥の言葉を聞いて、みんなは、しーんとなって、遥を見つめた。
芳江が目を潤ませていた。

高井は、優しげな眼差しを遥に送った。
「残念だけど、産めないね。
 あなたが、自分は女の子という心を捨てて、
 男として生きることにして、将来女性と結婚すれば、
 その奥さんはあなたと奥さんの子供を産めるでしょう。
 それ以外は、できないね。残念ながら、あなたは男性の体をしている。
 ホルモンを打っても打たなくても、無理なんだよ。」

それを聞いた遥は、うつむいて、
持っていたハンカチを目に当てて、泣き出した。
母の芳江は、そんな遥を見て、ハンカチを目に当てて泣き出した。

そのとき、剛が言った。
「遥、泣くな。悲しいのはわかるけどさ。
 障害がある人は、みんななにか我慢するんだからさ。
 俺達は、大変な障害だってお父さん言ってたろ。なんかあってあたり前だろ。」

高井が、カーテンの後ろの看護婦さんに、
「吉井さん、呼んで。」と言った。

やがて、一人の看護婦が来た。
「ちょっと励ましてあげて。」と高井は吉井という看護婦にいった。
とても綺麗な人だった。
吉井は、遥の前にしゃがんだ。
「遥ちゃん、私は、吉井邦子といいます。
 私も遥ちゃんと同じ。男の子として生まれたの。」

遥は、え?という顔をして、邦子を見た。
「私もあなたと同じ、性同一性障害。
 でも、今は、男の人と結婚して、幸せに暮らしているよ。
 子供は産めないけど、幸せにはなれる。
 だから、遥ちゃんもきっと幸せになれると思うよ。」
「お姉さん、今、幸せ?」と遥は聞いた。
「うん、とても幸せだよ。」
遥は、かすかに笑った。
邦子は、にっこり笑って、遥の両腕をぽんとたたき、
先生に会釈をして、中に入っていった。

遥は、泣き止んだ。
芳江は、看護婦の邦子を見たことも安心だったが、
剛が言った言葉が、胸に響いていた。
『障害のある人は、みんな何か我慢するんだからさ。』
その通りだと思った。
そして、自分には、そんな立派なことが言える息子と、
可愛い娘がいるのではないかと思った。
二人の男女が入れ替わっただけで、二人いることには変わりはない。
そう思うと、胸の中の霧が晴れてくるのだった。

診察は終わった。

外に出たとき、芳江は、バッグをもったまま背伸びをした。
そして、言った。
「さあ、新しい剛と遥の誕生だわ。みんなで、パフェでも食べにいきましょう。」
「わあーい。」と二人は飛び上がった。
『曇りのち晴れ。』
高志はそう心で言って、
「おれは、山盛りのイチゴ・パフェがいいな。」
「俺、チョコレート・パフェ。」
「あたしも、イチゴ・パフェ。」
「わたしは、剛と同じ、チョコレート。」

明るい声が、病院前にこだましていた。


<おわり>

■次回予告■

今日は出掛けるため、次回のことが決まりません。
また、再投稿するかもしれません。

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