新学期が始まって、
その日は、学生証を作る日だった。
私は、ウォンといっしょに行きたかったが、
ウォンはあいにく留守だった。
ウォンは、そのころベトナム難民が共同生活しているハウスにいた。

しかたなく、私は学生会館へ一人でいった。
私は髪が少し伸びて、肩のあたりまであった。
毛の先を少し外巻きにして、前髪はゆるく7・3に分けていた。

学生証を作る日だから、メイクなんかだめだろうなと思い、
素顔で行った。
もちろんワンピースは着ずに、サマーセーターにパンタロンを履いて行った。
ブラなんか当然ダメ。

学生会館は、学生が大勢集まっていた。
はじめに用紙をくれて、
フルネイム、生年月日、性別を書き込む。
性別は、もちろんM(male=男性)に丸をつけた。

それをもって、机に座っている係の学生に次々見せて行く。
初めの学生は、学生証カードに名前をタイプする。
次の学生は生年月日を。
そして、最後の学生は、性別を。
そこまで、タイプしてもらって、
写真のブースへ行く。
私は、真面目な顔でカメラの前に立った。
見ると、けっこうポーズを取っている女子学生もいて、
私も、ポーズを取ればよかったと、少し残念に思った。

最後は、できた写真を学生証に貼って、
それを、パウチしてできあがり。

考えてみるとこれはすごくアバウトだった。
本人証明に免許証やパスポートを求められるわけでもなく、
初めに記入する用紙の内容が全てだ。

でも、私は内容を偽る気持ちはさらさらなかった。
学生証は出来上がって、渡された。
その学生証を見て、私は、あっと驚いた。
性別が、F(female=女性)になっている。
これは、性別の係の学生が、ろくに用紙を見ないで
私を見て女だと思い、”F”とタイプしたのだ。
まいったなあと思った。
写っている写真も、女に見える。
だが、いいや、私はちゃんと用紙にMと記入したんだから。
正直、なんとなくおもしろかった。
女子学生の学生証をもらったことを、笑い話として、
ウォンやアシフに見せたかった。

学生証は、ほとんど使われないものだった。
例えば、学外で映画館に入るとき、学割になる。
私が知っている用途はそれだけだ。
うふふと思った。
女子トイレに入って、もし疑われたら、
この学生証を見せよう。
「ね、私は女でしょう。」って。
もちろん、そんな事態はごめんだけど。