この度の地震で、被災地付近の方々のご無事と、

被害に遭われた方々の一日も早い復興をお祈りいたします。

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洋装店を出た私は、スーパーによって、

女としての生活に必要な最低限のものを買った。

下着、洋服の替え、靴、バッグ、簡単は化粧品、カミソリなどなど。

私はそれまで、日本の女装クラブで5年くらいの経験があったので、

迷うことはあまりなかった。

車の中で上から下まで全て女物に着替えた。

足元を見ると、ワンピースの裾とパンプスが見えた。

「本気で、女で行くつもりなのかなあ。」

と自分の決意が揺らいだりもした。

不思議なことが一つあった。

日本で女装をしたとき、私はいつも性的な興奮を伴った。

でも今、こうして必要としての女装をしてみると、

その興奮がなかった。

それよりも、オール・デイ・ロングの女装でいることに、

大きなプレッシャーを感じてならなかった。



私は勇気をだして、寮に帰った。

寮の玄関ホールには、男子用のエレベーターと女子用のそれが、並んでいる。

男女の行き来にはうるさくないところだった。

私は男子用のエレベーターに乗り、ルームメイトのいる我が部屋へ入った。

ルームメイトはパキスタン人でアシフという名前だった。

ワンピース姿の私を見て、アシフは、しばらくきょとんとしていた。

「ユー、ジュン?」

と私の名を呼んだ。

「うん。どう?」

と私は言って、スカートの裾をつまんで見せた。

「うお~。完璧に女の子じゃないか。」

「見える?」

「見えるどころか、かわいいよ。」

アシフは何度も私の全身を眺めてそう言った。

私はそこで、女の格好をしているいきさつをアシフに話した。

これからも、一年中女でいるつもりであることも。

「そうかあ。君は女の子に見えるからなあ。
 
 いっそ、その方がいいよ。」

とアシフは言った。

「でもなあ。」とアシフは言葉を続けて、

「なんか女の子と同棲してるみたいで、俺、変な気分になるぜ。」

「変な気分になったって、いいよ。」と私は笑ってみせた。



その日から、アシフは外から帰って来て、私が着替えなんかしていると、

「エクスキューズ・ミー。」

と言って、あわててドアを閉めることもあった。

男子寮の中でも、私は平気で女の格好でいた。

私が女装をしていると見る寮メイトは少なくて、むしろ、

「どうして今まで男装していたんだ。」と聞かれた。

助かったことに、男子寮に女子がいることを訴えるものいなかった。

おもしろいから、ジュンのことは、内緒にしておこうとみんなは言ってくれた。

こうして、寮の問題はクリアした。