「スーパー洋子VS暴走族」第3部・後編

 

 

 洋子のアクセル・グリップは、どんどん内側にしぼられる。

やがて、スピードは、270kmを越えた。

 

頭は、思わず、洋子の内側のアクセル部分にしがみついた。

そして、タンクを挟む膝に力を入れた。

『バカな、俺がスピードにびびるのか…。』頭は思っていた。

 

「頭、このくらいが、快適なんじゃない?」洋子が言う。

「あ、ああ。」言いながら、頭はすでに恐怖の中にいた。

 

洋子は、そのスピードのまま、再び強烈なUターンをした。

全体重を勢いをつけて内側に傾け、ヒザが地面につくほどだ。

足乗せの金属が、地面を擦る。激しい火花が弧を描いた。

 

頭は生きた心地がしなかった。

 

再び、直線コースに来たとき、洋子は、何を思ってか、

ライトを消したのである。

「何をする!前が見えねえ。」頭は、慌てた。

「月明りで十分じゃん。ライト点けてるとさ、

眩しくて、みんなに見せられないのよ。

 頭とのアベック・ライド、

見せつけたいじゃない。」と洋子が言う。

 

エンジンの音がしているのに、バイクが見えない。

だが、エンジン音が、近づいて来るのが、はっきり分かる。

「来るぜ。」

「まさか、ライト消しているのか?」

「そうとしか思えねえ。」

音のする方を見つめていたみんなは、

突然、視野に入ったバイクを見た。

爆音とともに、目の前を通り過ぎ、

あっという間に、遠くへ行った。

 

「ひいーーー!」

と皆は、引きつりながらバイクを見つめた。

未だかつて見たことのないようなスピードだった。

 

一人が言った。

「女が頭に抱き付いているんじゃねえ。

 運転しているのは女の方だ。」

「うそだろ。」

「ほんとだ。頭はうつむいていた。前を見ていたのは、女だ。」

「そうだ。頭だって、あのスピードは無理だ。」

「ものすごい女だな。」

皆は、やっと洋子を認めた。

 

バイクは、300kmに達していた。

 

祐介と透と朱実は、もう手をとり合って、

洋子の無事を祈っていた。

 

「頭、これ350kmは、出んだよね。」

「ああ、だが、2km先は、崖だぞ。いいのか。」

「へっちゃらよ。」

 

バイクのスピードは350kmになった。

世界記録並みの速さだ。

350kmの速さでは、道路の向こうが点に見える。

動体視野が限りなく狭くなり、景色が線状に見える。

言わば、両側壁に迫られたせまい道を、

猛スビードで走るようなものだ。

ちょっとハンドルミスをすると、

壁にぶつかって宙に飛ばされる。

その恐怖は半端ではない。

 

さすがの頭にも、未知の速さだった。

体はすでに、硬直していた。

恐怖で内臓が震えているのがわかる。

『お願いだ。もうやめてくれ。』

そう心でいいながら、

頭としてのブライドだけで、乗っていた。

 

「よし、400まで、行きそうだ。

いいバイクだね。いくよ。頭。」

洋子が、ギューンとアクセルを絞ると、

一気に400までいった。

「すごい、このバイク、気持ちいいーー!」

頭はすでに、恐怖で目を閉じ、うずくまっていた。

 

「お、おい、この先は崖だ。

このスピードでは、止められないぞ。」

頭は、やっとの思いで言った。

「平気、平気、崖があるなら、落ちればいいのよ。」

と、洋子が言う。

『俺は、気の狂った女を相手にしたのか…。』頭は思った。

 

洋子は、さらにアクセルをしぼり、450kmに達した。

このスピードに乗れるのは、もはや人ではない。

そして、500kmの速さで、崖に突っ込んだ。

「死ぬ。」頭は思った。

このとき、頭は失禁した。

 

「あ、止まらないで、突っ込んだ!」

みんなが叫んだ。

かすかに見えていたテールランプが消えた。

「正気かよ。二人とも、あの世行きだぜ。」

 

崖はあんがい緩やかで、バイクは、その中腹に着陸した。

頭は気を失っていた。

洋子は、頭を落とさないように、両腕でしっかり挟み、

岩や木、背の高い草の間を、

神業ともいえるハンドルさばきで下まで降りた。

今度は、アクセルをふかして、崖を上って行った。

トライアルのバイクではない。ロードバイクだ。

だが、エンジンがいいだけに、

たいていの岩を越えていける。

こうして、崖の縁に来た。

アクセルを、一ふかしして、崖を上りきった。

 

洋子は、ライトを点けた。

バイクの姿を見たとき、みんなは大歓声をあげた。

バイクは、200kmの速さで近づき、

横倒しのブレーキで30メートルは滑って止まった。

 

「みんな、頭たのむよ。」洋子はそう言って、バイクを降りた。

祐介や朱実、透が飛んできた。

「洋子、よかった。もう死んだかと思った。」

と、祐介が抱きついてきた。

「洋子はほんとにすごい。もう言葉がねえよ。」透は言った。

「もう、人間業じゃない。一時は死んだかと思った。」

と朱実は目に涙をためていた。

 

 

頭は意識がもどり、洋子の前に手をついた。

「完全に俺の負けだ。

元レーサーで粋がっていた自分がはずかしい。

 族は、解散する。関連した不良グループとも縁を切る。

 俺達は、レーサーを目指すなり、

白バイを目指すなり、まっとうにやっていく。

 おーい、みんな、これは、約束だ。

約束だけは守らねーと、それこそくずになる。

 みんな、わかってくれ。」

「いいよ。頭のいうことなら聞くぜ。」

「俺は、お前が好きで、いっしょにいたんだ。

 みんなも、そうだろ!!」

「おーーーー!!解散だ!承知だ!」

皆は、拳を上げた。

 

洋子は言った。

「暴〇団とつながってるそうだけど、

そっちの方は、あたしにまかせてね。」

「いいのか。指の1本や2本、おれは覚悟してる。」頭はいった。

「まかせて。あたしは、1本も切られず帰ってくるよ。」

「いや、俺も行く。頭として、最後の仕事だ。」

「ありがとう。頼もしいよ。」洋子は言った。

 

 

それぞれのバイクが消えていく中、頭と4人は残った。

「洋子、ほんとにヤ〇ザ平気なの?」祐介が聞いた。

「恐くないの?」朱実が聞いた。

「おれなら、オシッコちびる。」と透。

「うん。あたし、切り札があるから。」

と、洋子は言った。

「何それ。」

「内緒。」

 

その内、この5人は、

大の仲良しになっていくのだった。

 

 

<対暴走族編 おわり>

 

 

■次回予告■

<洋子・親分と対面>1話完結です。

長いのですが、よい切れ目がなく、一気に掲載します。

派手なアクションはありませんが、

私の好きなところです。

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