このお話はビートルズの「ノルウェーの森」の解釈について書かれています。ここにあるのが、正しいのではなく、歌詞の解釈は、人によって自由だと思っています。

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ロナルドさんとドライブ③「ノルウェーの森」最終回

 

ネガティブな男ロナルドさんとマンハッタンの本の問屋まで、2度目のドライブをすることになりました。

私は、その日パラシュート型のワンピースを着て、髪をポニーテール、前髪あり、リップをちょっと。

 

私を見たベティさんは、びっくりです。

「アリス!まさか、ロナルドに見せるためのオシャレじゃな     いわよね。」

「違いますよ。マッハッタンにいくんですよ。その自覚がで    きたんです。」

私の中の50分の1くらいは、ロナルドさんに見せたかったのかも知れません。

 

ベティさんも、トムさんも心配しました。

「アリス(私)1度目がうまくいったとしても、

 2度目もいい顔をする奴じゃないからね。」と、ベティさん。

「そうだ。気分のコロコロ変わる奴だから、

 今度こそ、だまって、何も聞かないことだ。」と、トムさん。

「はい、そうします。」と、私はきっぱり言いました。

 

トムさんにロナルドさんの家に連れて行ってもらうと、

出て来たロナルドさんは、私を初めて見るように、

愛想笑いの1つも、しませんでした。

痩せて、色の悪い顔色は、変わりません。

 

私は、ロナルドさんのジープに乗り、

ベティさんの忠告の通り、高速までの初めの20分ほど、

何も、聞かずに黙っていました。

しかし、高速に入ったとたん、

「あの、分からないことがあるんですけど。」と話しかけました。ベティさんの忠告を軽く突破です。

「なんだよ、おとなしく黙っているのかと思ったら、聞くの    かよ。」

「はい。ビートルズの歌のことです。」

「なんだよ。むずかしいのは、無しだぜ。」

「ビートルズの『ノルウェーの森』って歌ありますよね。

 意味の分からないところがあるんです。」

「どこだ。」

「あれ、男が、昔の女に会いますよね。女は多分娼婦。

  で、女は男に、自分の部屋に男を誘います。

  で、男は女の部屋に行きます。すると、ステキじゃない        か。そこは、『ノルウェーの森』だった、って言うんで        す。これ、意味不明じゃありませんか?女の部屋が、ノル    ウェーの森だったなんて。」

 

「その通りに、歌ってりゃ、いいんじゃねーの。」

「そうはいきませんよ。幻想の世界じゃあるまいに。

 女の部屋が、ノルウェーの森だったなんて。納得できませ     ん。」

「ネイティブの奴らだって、今、アリスが歌った意味のつも     りで、歌ってるぜ。」

「そうなんですか!」

「多分な。ま、俺は、ノーコメントだけどな。」

「あ、何かありますね。教えてください。」

 

「俺は、昔大工だったからな、偶然知っていただけで、自慢    はできない。題名のNorwegian Wood は、森じゃない。      ノルウェー産の木材のことだ。松の中で、一番安くて、軽     い。簡単に燃える。つまり、女の部屋は、一番安い木材で     できた低級な部屋ってことだ。

 Isn’it good Norwegian Wood?

 これは、女のセリフだ。現在形だろ。

『ステキでしょ?ノルウェー材なのよ。』

  な、「森」の出る幕ねえだろ?」

  女は、木のランクも知らねーで「ね、ノルウェー材よ。」   と自慢してる。

  歌は、女の無教養を内心嘲笑っているわけよ。実に嫌味だ    ぜ。

 (ロナルドさんは、小さな声で、吐き捨てるようにそういいました。)

 

「そうだったのですか。わあ~ロナルドさん、すご~い!」と拍手しました。

「だからよ、男は風呂場で寝かされて、朝になると女は、い    ねえ。

  男はすっぽかされて、かんかんに頭来てるわけだ。

  腹いせに、So I lit a fire女の部屋に火をつけた。

  軽い松の木だから、よく燃える。そこで、男は言う。

 Isn’it good Norwegian Wood? (オオオ、すげー、ノルウ     ェー材は、よく燃えらあ。)

 そういう訳だ。

 

「ね、ね、それって放火ですよね?犯罪じゃないですか。」と、私。

「この歌を綺麗に歌いたい奴は、火をつけたのは、暖炉だの    煙草だのと言うけどな、

 かんかんに頭来てる奴が、暖炉に火をくべるかよ。煙草吸     えば、腹いせになるのかよ。

   第一、最後の Isn’ it good Norwegian Wood? はどう       なるのよ。完全に中ぶらりんのままだぜ。」

「わあああ、ロナルドさん、わかりました。低級なアパートに暖炉なんてありませんよね。壁が薄いんだから。火を点けたら、大火事です。」

「かといって、煙草じゃ、気分、収まらねーだろ。」

 

「ポールとレオンは、もちろん冗談で書いた。

  それを、後から、レノンが「鳥は逃げて行った」なんて副     題をつけたからさ、このトンマな男が振られた話が、ヒッ     トしてしまった。」

「最後に一つ。壁、暖炉、マッチのどれに火を付けたが、証     拠がありませんよ。」

ロナルドさんは、ニヤリと笑った。

「アリス、鋭いじゃないか。どれだと思う?」

「全部変です。」

「So I lit fire。だから、火を点けたことは確かだ。」

「ロナルドさん、じらさないで教えてください。」

「わかったよ。レコード会社の連中は、頭抱えて、数日後、     とうとうバンザイした。

 つまり何に火を点けたか、ノーコメントにした。」

「えええ。そんなのズルじゃないですか。」

「ああ、卑怯だよな。だがな、不思議なことに、誰も、この     歌の誤魔化しを、指摘するファンはいないんだ。みんな、     腫れ物に触るように、ノーコメントなんだ。」

 

「なんだか、不思議ですね。でも、ロナルドさんは、物知り    ですね。」

「偶然知ってただけだと言ったろう。」

私は、そのとき、ロナルドさんには、教養があり、知性的な人なのだと思いました。

 

その日も、昼にマクドナルドのハンバーガーとコークをご馳走になりました。

 

出版社に帰り、その日もロナルドさんと楽しく行って来ましたと言ったら、晩は、ベティさんの手料理となった。

ワイングラスを片手に、

私は、「ノルウェーの森」のロナルドさんの解釈を話しました。

「へえ、知らなかったわ。そういう歌なの。

 それを、あのロナルドが教えてくれたって、それも負けず     に驚きだわ。」

と、ベティさん。

「アリスと2度も気が合ったってことは、相性がいいのかな。」と、トムさん。

「ロナルドさんのような教養の高い方とは、何度でもご一緒     したいと思いましたよ。」

と、私。

「今のアリスの言葉を聞いたら、ロナルドの性格変わるかし     ら。」と、ベティさん。

「いや、変わらんだろう。」と、トムさんが即答したので、みんなで笑いました。

 

<おわり>

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