日本の悪しき商習慣 | そそっぱい おじんつぁん

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多くの分野について、「あまり聞いたことがない考え方だが、なるほど 」と思われるような記事を少しづつ書いて行きたい。

またぞろメーカー検査の問題が露呈した。

自動車メーカー5社の性能試験の不正だ。

そして、そのことによる実際の事故やトラブルは発生し ていない。

 

昨年、この種の問題について私のブログでも考えてみたので再アップして振り返ってみたい。

意味のない検査か 意味のない性能試験か(?)の違いはあるかも知れないが、本質は同根だと思う。

だから このような問題は今後も繰り返すであろう。

 

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ときどきマスコミで、「○○メーカーが何年も前から製品の検査の手を抜いたり検査データを偽造したりしていた」という不祥事が報道される。

その都度マスコミが大騒ぎしてメーカーを叩き 経営陣がテレビの前で陳謝して 責任者が処分される。

 

しかし不思議に思わないか?

何年も前からそうしていたのに、なぜ その製品でトラブルが起ったという話を聞かないのだろう?

 

私にはその原因が想像つく。

日本の悪しき商習慣だ。

 

説明しよう。

まず、メーカーの技術陣は、その検査が本来は必要ないと思っているはずだ。

だから、検査を省略しても検査値を偽造しても実際のトラブルは起こらないという自信がある。

 

ではなぜ、そんな検査をするように決まっているのか?

 

たとえばの極端な話としてミネラルウォーターを例にとってみよう。

 

検査すべき項目の中に「ミネラルウォーターが水であることを検査で証明せよ」という項目が入っているようなものだ。

 

「ミネラルウォーター中の不純物の検査ならともかく、ミネラルウォーターが水であることを証明する検査なんて必要ない」と誰しも思うであろう?

 

そして、ミネラルウォーターが水であることを証明するのは意外に面倒だ。

沸点を調べるか,氷点を測るか,屈折率を測るか,塩化コバルト紙を使うかなど 方法はいろいろあろうが、いずれにしても測定機器や資材そして検査要員と記録の手間が必要だ。

 

こんなバカバカしい検査は省略してしまいたいと思わないか?

 

問題は、なぜそんな検査の項目が決まったかだ。

そこに日本の悪しき商習慣がある。

 

通常、メーカーはお客と製品の品質についての契約を結ぶ。

その中に検査する項目が入る。

この項目が競合他社の製品との競争力につながる。

 

よって、「わが社のミネラルウォーターの検査には 水であることを証明する項目まで入れてあります」といった競合他社にはないセールスポイントを加えて売り込みたくなるのだ。

もちろんこれは技術陣の発想ではなく、仕事熱心(?)な営業マンの売ろうかな精神による先走りだろう。

お客も検査の項目の意味を知らずに何となく項目が多いと安心する。

 

こうして お客の了解が得られると、営業は技術陣に「検査にミネラルウォーターが水であることを証明する項目を入れてくれ」という話になる。

 

ここは企業によって差があろうが、お客に近い営業の声に技術陣が負かされてしまうことが多い。

技術陣が 「検査はしなくてもミネラルウォーターが水であることは保証するから検査を省略させてくれ」といっても、日本のお客は検査が異常に好き(?)で聞いてくれない。

 

品質管理の神髄は「検査をしなくても品質が保証できる」ことだ。

つまり、製造の過程で品質を作り込む。

しかし、検査をしないと品質が不安というか信用ができないという日本人が多い。

 

こうして最終的に お客との契約になり 検査が必要になってしまう。

 

さらに悪しき商習慣は続く。

これを知った競合他社も販売競争のために負けじと同じかそれ以上の項目を検査に加える。

 

下手をすると業界の統一規格としてこの検査項目が入ってしまう場合すらある。

 

上記のミネラルウォーターの例は極端な話だが、同類の商行為は横行している。

そして、どんなに腐った検査の項目でもお客との契約に入れば、守らなければ契約違反であり バレれば冒頭の状態に陥る。

 

こうした状況は欧米では起らないという。

社内の技術陣の意見を尊重する合理性と、検査項目を追加するなら検査コストの製品価格への上乗せをお客が了解してくれるという商習慣と、仮に腐った項目でも契約したらそれを絶対に守るという契約社会の伝統があるせいだろう。