『明治維新の教え』 馬 国川 著 CCCメディアハウス
歴史は出来事よりも人物から入ると理解が進むといいます。幕末や戦国時代に明るい人が多いのも、その激動の時代に活躍した人物にスポットを当てた小説やドラマ、ゲームで馴染み深いからでしょう。
著者は中国の経済誌の主筆であるジャーナリスト。本書は、世界から中国を見る機会を求めていた著者が、慶應義塾大学の福沢諭吉像の前に立ったところから始まります。折々に日本滞在時の情景も取り入れながら、幕末から明治維新を彩った人物を通して、この時代の日本の理解を深めようとする本です。
反日や過度な親日といったイデオロギー色はなく、人物毎に淡々と近代日本の発展を紐解いていきます。称賛だけではなく、田中正造が訴えた足尾銅山の公害問題や、元老に依存し過ぎた体制が明治より後の日本の暗転をもたらしたことにも言及しています。管見の限りでは誤りや偏見もなく、むしろ細部までよく調べ上げている印象です。大脇氏の翻訳も読みやすく、史料の引用もきちんとなされていると感じます。
時代を語るに欠かせない人物はもちろん登場しますし、岩倉使節団や米百俵についても一項が充てられています。また、三島通庸、田口卯吉、千葉卓三郎、久米邦武といった面々について、日本人でも詳しく知る人は少ないのではないでしょうか。明治維新への理解が不足していると感じている方も、一通り知っているつもりの方にもおすすめできる人物事典、ともいえる本です。
本国、清では見向きもされなかった魏源の「海国図志」、これを理解し危機感を持った佐久間象山や吉田松陰が日本の開国に大きな影響を与えたこと、さらに井伊直弼を暗殺した日本の愛国主義者を例に挙げて、現代の中国に蔓延し始めた自国本位の愛国主義や大国主義による驕りに警鐘を鳴らすのが、本書の本来の目的です。サブタイトル「中国はなぜ近代日本に学ぶのか」に込められた意味もそこにあります。
明治維新で育まれた思想が第二次世界大戦後の日本再建の大きな力になった、と評価する伍 暁鷹氏(北京大学教授、元一橋大学経済研究所教授)の本書推薦のことばも印象に残りました。