『陰謀の日本近現代史』 保阪正康 著 朝日新書
昭和史に関する著書が豊富な著者については、先ごろ亡くなられた半藤一利さんとも親交があり、よくご存じの方も多いと思います。
本書は「日刊ゲンダイ」の連載が元になっていますから、万人向けの読みやすい文章です。ただ、強調しておきたいのは、本書は一方的な陰謀史観に基づく本ではありません。むしろ、一面的な理解の危うさを避けて、歴史の裏側を読むことの大切さに気づかせてくれる本です。
第1部は「陰謀の近現代史」としてまず、本書の趣旨である、知恵と知恵の戦いを「陰謀」とする見方について述べられています。続いて二章が充てられており、
第1章 仕組まれた日米開戦では、日米の化かし合いや駆け引きの中で、主観的な立場でしか行動できなかった日本の選択を紐解いていきます。終盤の日露戦争との対比にも注目です。
第2章 人物の伏線、人物の命運では、明治大正も含めた歴史の裏側を追っていきますが、特に山県有朋の軍事観と昭和の軍事観、中野正剛自決の理由、日本人による幻の東京裁判についての項が印象的でした。
第2部からは「歴史から問われる大局観」としてさらに二章。はじめに大局観の例示として東條英機、山本五十六、石橋湛山の比較が取り上げられており、興味深いものがありました。
第3章 戦争に凝縮された日本的特質では、敵を知らず己も知らずに行った太平洋戦争の主な経過を述べつつ、悲劇をもたらした特質を探っていきます。
第4章 歴史の闇を照射する記録と証言では、保阪氏が取材してきた人物や記録からの記述が一層多くなります。学徒出陣の答辞を読んだ江橋氏や特攻隊についての美濃部氏の証言は、もし、その時その場に我が身を置いたら、と切ない思いになりました。
「日本の近代、現代にはその国民性が如実に反映している。これを正直に語っていくことによって、この国の自画像を描きたかったのである」という著者のあとがきが重く心に残りました。
昨今のコロナ禍において、ひたすら自粛を訴えて中身のない緊急事態宣言に依存する日本の政策当局の姿が、ドイツの優勢を当てにして国のかじ取りを誤った日米戦争当時の軍部と重なって見えるのは、私だけでしょうか。