長男はいつも夜になってから大切なことを言う。 

 

体調が悪い時も、学校で突き指をした時も、

いつも夜7時ごろに

「お母さん…」

と言い始める。

 

あれは確か長男が小学校4年生位の時のことである。

 

長男はよく外で遊ぶ子だ。

 

ある日、長男がまたまた夜7時ごろ私に言いにくそうに話し始めた。

 

 

「お母さん…

こないだ〇〇君の家の近くの子の眼鏡割ってしまった」

 

 

「えーっ??いつや?いつやねん??」

 

「1ヶ月くらい前…」

 

「1ヶ月前ってお前…何して割ってん?」

 

「ボール遊びしてて、その子の顔にボールが当たって眼鏡が割れた」

 

「お前、何でそんな大事な事はよ言わんねん!!

えらいことやないか!!その子怪我はしてないんか?」

 

「してない」

 

「ほんまか?とにかく謝りにいかなあかん!」

 

こういう時、

おとんがおる家庭では

おとんにまずは報告しておとんの指示を待つのか、

両親揃って謝りにいくのか、おとんが行くのか、

おかんが行くのか

わからんけど、うちは私しかおらん。

 

すぐさま菓子折りを買いに走った。

そして菓子折りを持って、そのお宅へ長男を連れて謝りに行ったのである。

 

そのお宅まで、長男と自転車で向かう道中

 

「ほんまお前何でもっとはよ言わんねん?

眼鏡割るってほんまえらいことやで。

その子、眼鏡なくてこの1ヶ月どうやって過ごしたんや

ほんまお前マジでええかげんにせぇよ…」

 

ことごとく説教しながら、そのお宅まで向かった。

 

で、インターホンを押した。

 

低い声で

 

「はい」

 

と男の人が出る。

 

「夜分に申し訳ありません。

〇〇と申しまして、1ヶ月程前に息子がこの辺りで遊んでいた時に

ボールをお宅の息子さんに当ててしまったらしく、眼鏡を割ってしまったと、

つい先程言い出しまして、1ヶ月も経って申し訳ないんですが

お詫びをさせて頂きたくて参りました」

 

プツッとインターホンが切れて、少ししてドアが開いた。

 

出てきたのは、まぁまぁガッチリめのイカついお父さんである。

 

「うわ~ マジか…」←心の声

 

「夜分に申し訳ありません。

〇〇と申します。この度は本当にすみません。

お子さんお怪我はなかったですか?」 

 

と言うと

 

少しの間沈黙…

 

よくよく見ると、腕に入れ墨かタトゥーが入っとるやないか。

 

私の頭の中は、うるさいくらいに

「ジャジャジャジャーン」と

ベートーベンの「運命」が鳴りまくってる。

 

 

「ヤバい。マジでヤバい…ヤバすぎる…」

 


「でんついて帰ってええか?」

心の声

(大阪弁で、壁にタッチして帰るとかとんぼ返りするとかの意味) 

 

 

頭の中は大騒ぎである。

 


「ジャジャジャジャーン」のバックミュージックに乗せて、

「でんついて帰ってええか?」と

自分に何度も問うている。

 

 

すると、


「いやいや 怪我もないし

割れたのは花粉症用の眼鏡であんなんたいしたもんちがうし

全然いいですよ」

 

見た目とは違う対応…

 

助かった…

 

でもまだ言う。

ここはしっかり誠意伝えなあかん。

 

「いえいえ、でも花粉症用の眼鏡のお代払わせてください」

 

「そんなん、いいいい」

 

「えっ、でも…」

 

「ほんまええねん」

 

「そうですか…

でもじゃあこのお菓子だけでも受け取ってもらえないでしょうか?

本当に申し訳ありませんでした。」

 

「いやいや、お母さん。ほんまいらんから。

お母さん、そのお菓子子供さんと食べて」

 

と受け取ってくれなかった。

マジでいい人や。

 

 

帰り道

「ほんまいい人でよかったけど、

お前〜、あのおっちゃんの腕見たか?

あれはほんまマジでヤバい。

おかんほんまちびりそうになったがな」

 

「えっ、ちびりそうになったん?」

 

「そうや 

まさかよりによってあんなイカついおとん出てくると思うか?

せやかてあのおとんいい人やったな。

よかったわ。

ほんまお前これからは頼むで!

これからは何事もはよ言わなあかんぞ!」

 

 

そんな会話をしながら帰宅。

ホッとして、持ち帰った菓子折りをムシャムシャと子供らと食べた。

 

 

その日の夜私は相当気疲れしたのか、子供らと一緒に寝てしまった。

あまりにビビったせいで、

その日はあのイカついお父さんが夢に出てきたのを覚えている。

 

 

しかし、人は見かけによらないものである。

 


私も一見おしとやかに見えるらしいが…

実はおっさん口調で、こんなブログを書いている。