1459話:鍼灸は医療か「医業類似行為」か? | 院長の徒然なるままに。

1459話:鍼灸は医療か「医業類似行為」か?

このところ自分の執筆(英語版新作)の進行をストップして
「病鍼連携神奈川」の仕事を臨床の合間に行っているのですが、

札幌からの会員でとても熱心にコミットメントしていらっしゃる
渡邊一哉先生からFacebook上のグループ内で問いかけがあり、
それに応える作業なども行っておりました。

問いかけは以下の様なもの。

鍼灸マッサージは医療でしょうか?それとも、医療類似行為?でしょうか?医業類似行為という捉え方もありますし、鍼灸師は医療類似行為者?ですか?医療従事者ですか?医業者ですか?医業類似行為者ですか?法的にこの問題を整備して考えないと、医師法によりますと、医療は医師のみしか行えない規程があります。とすると、医療と規程していいのか、どうか。

で、それに対し考えて書いてみたのが以下。


渡邉先生からのお問いかけに応えねばと思いつつ、
妻の感冒などでバタバタしており、時間がとれませんでした。
やっと今晩時間ができました。

さて、渡邉先生のお問いかけにはいくつかの要素があると考えました。

鍼灸マッサージ自体の定義論
医療行為と医業類似行為という法律用語におけるカテゴライズならば
どちらに属するか。

最初の部分から考えて意見させて頂きます。

1)鍼灸マッサージは医療か医業類似行為か?
 ア)鍼灸按きょうという東洋医学的側面
 まず本当に大切なのは、
世界の趨勢からいって、我々の国だけが訳のわからないところでスタックしている、
という事だと考えます。

それは法律の成立過程で鍼・灸・あん摩マッサージ指圧という
出自の異なる手法も包括してしまっていることが原因だと考えます。

鍼、灸、按きょうは中国から。あん摩は日本で発展。マッサージは欧州、米国から。
指圧は法的にはあん摩、マッサージ以外の徒手技術全てを包括したものの区分
(つまるところ徒手で行うもの療術行為を「指圧」としてまとめたので、
ここにはカイロプラクティックも含まれています)から成立しているのですね。

単純に考えると、はり、きゅうは道具を使う時点でその行為も特定できます。
しかし、徒手のそれはいわゆる世界的視点でみた場合、
発生した国々での「医療」の中に属していたのか、
いや、そうではないのか?という点を見直す必要があると思います。

 中国におけるはり、きゅう、按きょうは勿論本草と同様
「中国医学≒東洋医学」に端を発していますから、
それは中国ではれっきとした医療。
あん摩も藤林良伯の「按摩手引」においても
「医家」としてのプライドについてふれる点もあったりするので
「医学」の中にありそう、と思っております。

ところが私の昔の研究(「江戸風俗に按摩師の技を描いた葛飾北斎
~北斎の描写による江戸期のあん摩~」第795号. 2009.医道の日本(医道の日本社刊)
で見てきた印象からすると、いわゆる座頭でも免状を得てから医家に至らず、
慰安を生業にする視覚障害者も多かったのだろうなと想像出来ます。

江戸中期以降、晴眼者のあん摩(吉田流を代表とします)が増えてきた際、
彼らの感覚としては「慰安」をメインに仕事をしていたのではないかと考えるのですね。
それは江戸期のアドバタイジング、「そく力」の幟(のぼり)の存在を見るとわかりやすい。

つまり、ヘルスケアの部分に降りてきているから、
広告宣伝が必要となってきているのです。
医療なら「積極的広告はせず、患者の愁訴がありきで門を叩くもの」なのだと思います。

ですからこのあたりがボーダーラインかなと。
ここでの混在は後に尾を引くことになりますが。


そして明治期に至り日本は「医制発布」しました。
これにより日本の医療は「西洋医学」,ということになった。
この時、明治7年に鍼灸はいったん「医制」の中に属することになる。
鍼灸は内科医の指示を受けて施術をしないといけない」と。

でもね、日本の医療が全うに機能するまでには
明治30年代以降まで待たねばならなかったのです。
西洋医の不足、御用医師(海外から招へいされた医学教育者)の絶対数の不足と
日清、日露戦争による従軍、そして医師達の戦死などの要因。

その時国民のヘルスケア、プライマリーケアを見ていたのは
他ならぬ「鍼医」たちでした。
 彼らの活躍なく、国民の健康は守られなかったのです。

これはアメリカにおけるカイロドクター、
ドイツにおけるハイルプラクティカーににている。
西洋医が従軍すると国民の健康管理は彼ら、
「かわりの医療家」の力を借りなければならなくなったのですね。

 そんなわけで明治期も40年代までの間には、
とんでもない数の「療術家」が現れてきます。
そして、西洋医の職域を脅かすようになったんですね。
そこで、明治44年に法律ができた。

この時、まだ「医業類似行為」という言葉も生まれていないから、
内科医療の中にあった「鍼灸」は各県での取締から、
国の取締の既定としての法制下に置かれることになったということですね。

 私の見解としては医制でも「医療の中に含まれるように国は苦心してきた」というあたりを考えても「医療」であると思っています。

2)医療類似行為、医業類似行為、医療行為、医業?

 次にこちらです。

そこで、「医行為」を行う事ができる者を考えなければならない。
実は「はり師・きゅう師・あん摩マッサージ指圧師」は医業の一部と
見做す(昭和25年厚生省医務局長回答)という言葉がある、
というのを後ろ盾に「医業」であるといっている我々と、

「医業は医師の独占」なので、あはきは医業ではないもの=医業類似行為、
と言い張る医師達の話はいつも平行線。

医師法17条の部部的解除であはき法ができたのだから、
「医業の一部なのだ」という昭和25年回答以降、
我が国の厚生省、厚労省は鍼灸マッサージを
「医業類似行為のうち免許制度になっているもの」
という言い方に変えています。

だから、我々は「医業類似行為者」だというのはだめなのだと考えます。
なぜなら、あはき法12条問題があるから。

あはき法第十二条「何人も、第一条にあげるものを除く外、
医業類似行為をしてはならない。
ただし、柔道整復を業とする場合においては、
柔道整復師法のさだめるところによる。」

となっていて、

あはき法第一条「医師以外の者で、あん摩、マッサージ若しくは指圧、
はり又はきゅうを業としようとする者は、
それぞれ、あん摩マッサージ指圧免許、はり師免許又は
きゅう師免許(以下免許という)を受けなければならない。」
となっています。

私は、あはきは「医業類似行為ではない」というスタンスをとっています。
法第一条にあげるもの=「あん摩マッサージ指圧はりきゅう」を除くほか
は医業類似行為の禁止となっているから。

それら以外は、「医業類似行為」であると解せるのですね。
つまり、医業類似行為は「法制のないもの」と明確化されています。
なのに厚生省は25年以降、
「医業類似行為のうち免許が必要なもの」という姿勢をとってきた。
これは医師のご意向が強くかかわっているに違いない、と思うのですよ。
でも法律の文言がやはり重要。

そして、法第十二条では柔道整復業は医業類似行為の中に属するもので
「免許が必要なもの」となっている様には捉えられませんか?ここはご意見待ちます。


渡邉先生のコメント
『医師法によりますと、医療は医師のみしか行えない規程があります。』、
この部分が医師法第十七条「医師でなければ医業をしてはならない」
という規程ですが、芦野純夫先生によれば十七条の部分解除は
本当に特別な意味を持っていて、

あはき法第一条「医師以外の者で、あん摩、マッサージ若しくは指圧、
はり又はきゅうを業としようとする者は、
それぞれ、あん摩マッサージ指圧免許、はり師免許又は
きゅう師免許(以下免許という)を受けなければならない。」

という言葉の中に、医師の行う医業(十七条)以外に
あはき免許を持っている人には「あはき」を認めますよ、
といっているのですから、これはどう考えても「医業の一部」なのだ
(昭和25年局長回答は正しい)と考えています。


というようなお話。

こちらの読者様にもシェアしますね。

Facebookのグループではこんなやりとりもしているのです。
まじめだなあ・・(苦笑)。

今日も頑張って行きましょう。


ところで、その前に

ちょっと別の会の情報を告知させて頂きます。

すぐなのですが、1/19日に
千葉鍼灸学会(会長 酒井 茂一先生)の講習会で
不肖、私が90分ほどの講演を行います。

1.日時   平成26年1月19日(日)
       15:15 ~16:45(90分・含む質疑応答)
2.場所   千葉市文化センター9階会議室
       (千葉市中央区中央2—5—1 JR千葉駅下車徒歩約10分)
       http://www.f-cp.jp/bunka/map.html
3. 対象   千葉鍼灸学会会員、全日本鍼灸学会会員、学生、その他鍼灸師
4. テーマ  「病鍼連携」

当日お申し込み時に「千葉鍼灸学会」への入会申込(会費年会費無料)を
して下されば、講義参加費は¥2000円となるそうです。

これも引き受けとります。頑張ってきますね。



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