小説「海と陸の彼方へ」
第十章ヘクターとルイスの対イギリス共同作戦
第16話岳明軒(ユエ・ミンシュエン)と交易の旅⑧
前書き
このエピソードでは、岳明軒と彼の側女たちが漢口の市場で行う壮大な交易の物語を描きます。この物語は、中国の複雑な歴史と文化、そして個人の運命が交錯する場所で繰り広げられます。海賊:張銘の元側室たちと共に、彼らは漢口の市場で価値ある交易品を売却しようと試みますが、その過程で各人の知識、勇気、そして交渉術が試されることになります。特に、オランダ人のエリザベート・ファン・ハウテンの抜群の交渉技術が、彼らの成功の鍵を握っています。本エピソードは、個々の運命と中国の大きな歴史が絡み合いながら展開する、壮大な交易の旅の物語です。
本文
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登場人物「年齢は1936年1月1日時点」
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主人公ルイス(19歳)、中国の運命を操る覇王。巴蜀・雲南・陜西・河南・湖北及び長江沿岸諸都市、上海、杭州を領土とし、反西欧、反日、反共を掲げ、中国民族自決のための戦いを始める。
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側室
ナディア・アミール・アル・サン(43歳)。アレッサンドロ・ディアンジェロ男0歳の生母。
サリマ・ファイサル・アル・ハウ(26歳)。エミリア・ディアンジェロ女0歳の生母。
王光美(15歳)。マルコ・ディアンジェロ男0歳の生母。
側女、愛人は多数居る。いちいち書かない。
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ヘクターの部下
岳明軒(16歳)。彼は南宋の英雄・岳飛の血を引く末裔として、洪水のため両親を失いながらも、自身の運命を探求し続ける。棍棒の使い手。俊敏かつ頭脳明晰。文武両道の逞しき若者。
岳蓮華(20歳)。岳明軒の姉。抜群の美貌を誇るが、実は中国漢方薬の大家。
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岳明軒(16歳)の側女たち
ドイツ商人の妻ヘルガ・バウアーマン39歳、オランダ商人の妻エリザベト・ヴァン・デル・メール26歳、中国商人の妻:李明珠32歳。元ヘクターの側女であったが、自ら望んで若い岳明軒(16歳)の側女となった。
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古武道:霧隠流の創始者
趙雲龍(65歳)。彼は長年にわたる修行と実戦の経験から、この独自の武術を生み出した。
趙紫蘭(34歳)。雲龍の娘であり、彼女自身も古武道の技術に長けている。岳明軒の側女。
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エリザベス・ウィンザム(41歳)。イングランド人。銀行家の元妻。社交界で名高い名士。優れた美的センスを持ち、古典音楽と美術をこよなく愛する。慈善活動にも熱心に取り組んでいる。岳明軒の側女。
司祭補:エミリー・ウェルビー(32歳)。イギリス正教会九江支部司教ジョン・ウェルビー(58歳)の元妻。岳明軒の側女。 メアリー・ウェルビー(21歳)。エミリー・ウェルビーの義理の息子:アーサー・ウェルビー(24歳)の元妻。岳明軒の側女。各都市の交易品に詳しく、岳明軒のお気に入り。
周麗(29歳)。富順県貢井の出身。地質学者。同じく地質学者の李鴻(31歳)の元妻。岳明軒の側女。
エリザベート・ファン・ハウテン(25歳)。オランダ人。海賊:張銘の元側室。岳明軒の側女。
アナスタシア・ロマノフ(28歳)。ロシア人。海賊:張銘の元側室。岳明軒の側女。
ジュリエット・ドュボワ(21歳)。フランス人。海賊:張銘の元側室。岳明軒の側女。
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側女を兼ねた侍女。
アンナ・モーリー(32歳)。イギリス人。
マリア・ヴェーバー(28歳)。ドイツ人。
劉芳(25歳)。中国人。
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紅軍の長征
中国地図 出典 建築資料研究社「住まいの民族建築学」浅川滋男著 P8
中国侵略
東京書籍「世界史B」P329
辛亥革命以降
東京書籍「世界史B」P332
国民党の北伐と共産党の長征
東京書籍「世界史B」P364
☆8月22日土曜日午後1時。漢口;旧清朝王族の屋敷母屋
昼食後は、また海賊商船20隻の積み荷の整理である。今回は海賊:張銘の元側室3名と、家内奴隷男女10名ずつを引き連れて、港へ向かった。 全員で手分けして積荷を確認し、目録を作成した。
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張銘が荒らし回って没収した各種の交易品は、以下の通りである。
1. 絹織物: 約5000メートル - 複数の種類やデザインを含む高品質の絹織物。
2. 磁器製品: 約2000点 - 青花磁器を含む、様々なサイズや形の磁器製品。
3. 茶葉: 約3000キログラム - 最高品質の中国茶葉。緑茶、紅茶、ウーロン茶など様々な種類。
4. 香料: 約1000キログラム - ナツメグ、クローブ、シナモンなどの香料。
5. 薬草: 約500キログラム - 中国伝統医学に用いられる珍しい薬草のアソートメント。
6. 真珠と宝石: 真珠約1000個、宝石約500個 - ルビー、サファイアなど高価な宝石を含む。
7. 金銀製品: 金製品約100キログラム、銀製品約200キログラム - 装飾品や器具など。
8. 陶芸品: 約1500点 - 様々な地域の伝統的な陶芸品。
9. 硬木製品: 家具約100点 - 黒檀や紫檀などの硬木で作られた高級家具。
10. 書画: 約200点 - 中国の著名な画家による書画作品。
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漢口の市場での売却を、海賊:張銘の元側室3名に任せ、岳明軒は傍で彼女たちの商人との交渉を聞いていた。オランダ人のエリザベート・ファン・ハウテン(25歳)は、口八丁手八丁の交渉ぶりで見事に価格交渉を成功させた。
エリザベート・ファン・ハウテンが漢口の市場で商品を高値で売却する場面は、彼女の卓越した交渉技術と鋭いビジネスセンスを示すものである。市場は多くの買い手と売り手で賑わっており、さまざまな言語が飛び交う国際的な場所であった。この日、エリザベートは海賊:張銘の元側室たちと共に、価値ある商品を持ち込んでいた。
交渉を開始する前に、エリザベートは周囲の商人たちと積極的にコミュニケーションを取り、彼らの興味を引くような商品の紹介方法を工夫した。彼女は商品の希少性や品質、その他の特徴を巧みに強調し、聞き手の関心を惹きつけるのに成功した。彼女のプレゼンテーションは、商品に対する深い知識と情熱が感じられるものであり、聞き手を魅了する力があった。
商人たちとの具体的な交渉においては、エリザベートはまず、彼らからの初期のオファーを聞き出し、それに対して落ち着いて反応した。彼女は自分の設定した目標価格を心に留めつつ、商人たちの出す価格に基づいてじっくりと交渉を進めた。商人たちが出す価格が彼女の期待に満たない場合、エリザベートは他の買い手の存在をほのめかしたり、商品の特別な価値を再度強調することで、交渉を有利に進める戦略を取った。
彼女の交渉術の特徴的な点は、相手の立場を尊重しながらも、自らの目的を決して見失わないというバランスの取り方にある。エリザベートは、商人たちが自身の商品に対して適正な価値を認識するよう、丁寧かつ断固とした姿勢で誘導した。この過程で彼女が示した忍耐強さと交渉スキルは、最終的に商人たちを説得し、商品を納得のいく高値で売却する結果をもたらした。
最終的にエリザベートが達成した売却は、高い価格で商品を売ることにも無論成功したが、彼女と商人たちとの間に信頼関係を築き上げることにも成功した。彼女の公平かつ透明な交渉姿勢は、将来的なビジネスの可能性をも開くこととなり、エリザベートのビジネスセンスと人間性の高さを同時に示すものであった。
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漢口での各交易品の売却価格を、銀錠1両=2万円として計算しました。
1. 絹織物「5000メートル」: 絹織物は高品質で、1メートルあたり2両と見積もります。したがって、5,000メートルで合計10,000両。
2. 磁器製品「2000点」: 磁器製品は1点あたり10両と見積もり、総量で20,000両。
3. 茶葉「3000キログラム」: 高品質の茶葉は1キログラムあたり3両として、合計9,000両。
4. 香料「1000キログラム」: 稀少な香料は1キログラムあたり50両と見積もり、合計50,000両。
5. 薬草「500キログラム」: 薬草は1キログラムあたり20両として、合計10,000両。
6. 真珠と宝石「真珠1000個、宝石500個」: 真珠は1個あたり10両、宝石は1個あたり20両と見積もり、真珠で10,000両、宝石で10,000両。
7. 金銀製品「金100キログラム、銀200キログラム」: 金は1キログラムあたり50両、銀は1キログラムあたり5両と見積もり、金で5,000両、銀で1,000両。
8. 陶芸品「1500点」: 1点あたり0.8両として、合計1,200両。
9. 硬木製品「家具100点」: 高級家具は1点あたり10両として、合計1,000両。
10. 書画「200点」: 1点あたり5両として、合計1,000両。
総売却価格: 128,200両
当時の市場動向や商品の稀少性を考慮し、価格を設定しました。
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市場での売却が殊の外上手くいき、エリザベート・ファン・ハウテンへの岳明軒の評価は高くなった。ただルイス王やヘクター卿の岳明軒への望みは単なる金儲けではなかった。異なる地域間の定期的な交易の道筋を付けることである。
今まで徽州商人に独占されていた交易の道筋をルイス陣営の者が奪還し、支配権を握ることが第一の目的なのである。古来、中国では官吏、地主、商人による人民からの収奪が激しかった。清朝が滅亡したのは、西欧諸国の武力に負けただけではない。官吏の腐敗、汚職や地主、商人たちの不正蓄財が酷すぎたのである。それに、アヘン中毒が拍車をかけた。
岳明軒は自宅に帰り、夕食を摂ったあと、お気に入りのメアリー・ウェルビー(21歳)と語り合いながら少しずつ考えをまとめた。
メアリー:岳明軒ちゃん。最近、考え事が多いわね。
岳明軒:そうだな。商船の積み荷をもっと大量に増やすことが出来ないかなと考えているんだ。
メアリー:そうよね。お米や塩は1万石単位で積めなければどうにもならないと思うわ。1石150キロとすると、お米1万石で1,500トンになるものね。漢口の造船所に行って出来合いの船舶を見てきたら良いんじゃないの?
岳明軒:そうだな。海賊船のちゃちな積み荷を調べるのは何時でも出来るから明日の朝一番で造船所に行ってみるか。
メアリー:そうしたら良いと思うわ。それから今日の伽は別の人にお願いするわ。私ね、少し身体の具合が悪いのよ。妊娠したかも知れないわ。
岳明軒:そうか。最近お前のところばかりに来ていたからな。
メアリー:司祭補さんのところにたまには行ってあげてよ。あの人は一人寝が耐えられない人だから、行ってあげたら喜ぶわよ。
岳明軒は久しぶりに、司祭補:エミリー・ウェルビー(32歳)のところへ行き、エミリーが「もうやめて!これ以上は我慢ができないわ」と言うまで責め、彼女を喜ばせた。
☆8月23日日曜日午前9時。漢口:造船所 岳明軒は側女を兼ねた侍女3人「アンナ・モーリー(32歳)、マリア・ヴェーバー(28歳)、劉芳(25歳)」を連れて、造船所に来た。
所長:新造ですか?修理ですか?
岳明軒:新造だと何ヶ月くらい掛かる?
所長:規模にもよりますが、3ヶ月から半年くらいは見ておいてもらわないとね。
岳明軒:新造は諦めるよ。出来合いの船を見せてくれないか?
所長:今、此方にありますのは、穀物専用船「積荷1万トン」が3隻、石油タンカー「積荷7万バレル=11,130トン」1隻、LNG「液化天然ガス」タンカー「積荷9,000トン」1隻、冷蔵船「積荷5,000トン」2隻です。
岳明軒:全隻購入するから、負けてくれ。穀物専用船は3隻で6万両、石油タンカーとLNG「液化天然ガス」タンカーはそれぞれ2万5千両、合計5万両。冷蔵船2隻で3万両ってとこだろう。合計14万両だが12万両に負けといてくれ。
所長:お客さんには敵いませんね。良いでしょう。12万両に負けておきます。必要人員もお付けしますよ。
岳明軒は銀行小切手で12万両支払い、造船所を出た。
女たちが「紫禁の夢」茶楼へ行きたいと言うので、一度入ってみた。
「紫禁の夢」茶楼では、繊細な中国伝統の装飾が施された空間が、訪れる者を時代を超えた旅へと誘います。壁には精緻な水墨画が飾られ、天井からは細工された木製のランタンが優しく灯りを落とし、床は光沢のある漆塗りで覆われています。この茶楼の中心には、古式ゆかしい中国茶を楽しむためのテーブルが並び、周囲を囲むようにしてボックス席が配置されている。
岳明軒たちは、この静謐な雰囲気の中に足を踏み入れると、すぐに異国情緒あふれる生演奏の音色に包まれた。琴の繊細な旋律が空間を満たし、時折、詩の朗読がその静けさを優雅に破る。茶楼の客たちは、その演奏と朗読に魅了されながら、高級な中国茶を嗜んでいる。
さて、岳明軒たちがさらに奥へと進むと、彼らの注意を引く異様な光景があった。一つのボックス席では、若い女性たちがメイドの面接を受けており、その様子は一見して競争が激しいことが伺える。彼女たちは、一生懸命に自分の能力や経験をアピールしていた。
隣のボックス席では、更に奇妙な場が展開されていた。そこでは「妻売り」の競りが行われており、売り手と買い手が激しい値段の交渉を繰り広げている。この光景は、中国の古い風習を色濃く残すものであり、同時に現代の視点から見れば非常に奇異なものである。
岳明軒の側女たちは、この光景に興味津々であり、「私たちにもメイドが欲しい」と言い出した。岳明軒は、彼女たちの望みを叶えるべく、両方のボックスに顔を出し、競りに参加した。そして、見事に若いメイド3名と「妻売り」で競り落とされた3人の女性を雇い入れることに成功した。彼はこれら6名全員をメイドとして雇うつもりであり、側女の数をこれ以上増やすつもりはなかった。
この一連の出来事は、「紫禁の夢」茶楼での一幕として、中国伝統芸能を楽しむという本来の目的からはかけ離れたものであったが、中国の深い文化的背景と複雑な社会構造を垣間見ることができる、非常に興味深い体験であったことは間違いない。
若いメイド3名の略歴
1. 趙麗華 - 18歳 - 出身地:四川省の小さな農村 - 略歴:趙麗華は、四川省の農村で生まれ、幼い頃から家事全般に長けていた。地元の学校を卒業後、より良い生活を求めて漢口にやって来た。趙麗華は繊細で勤勉な性格で、特に料理と縫い物が得意。新しい環境での生活に期待と不安を抱えている。
2. 李小雲 - 20歳 - 出身地:江蘇省の中規模の都市 - 略歴:李小雲は、江蘇省の商家の娘として育ち、若い頃から礼儀作法や古典文学に親しんできた。家業の倒産により、生計を立てるためにメイドとして働くことを決意。彼女は知的で話術に長け、機敏に任務をこなす。
3. 王明珠 - 19歳 - 出身地:湖北省の港町 - 略歴:王明珠は、港町で育ち、幼い頃から多くの外国人と接する機会があり、自然と異文化への興味を持つようになった。彼女は英語をある程度話すことができ、柔軟な思考を持つ。新しい環境での挑戦を楽しみにしている。
「妻売り」で競り落とされた3人の女性の略歴
ソフィー・モロー、アンナ・イワノワ、エリザベート・シュミットの3人の女性の略歴である。彼女たちは既婚者であり、夫とのトラブルを経験した後、自ら納得の上で「妻売り」に掛けられ、競りに応じた。
1. ソフィー・モロー(Sophie Moreau) - 22歳
- 出身地:フランス、ブルターニュ地方の海辺の小さな村
- 略歴:ソフィーは画家としてのキャリアを追求するためにパリに移住した。しかし、結婚後に夫との間に生じた経済的及び感情的なトラブルにより、夫婦関係が破綻。彼女自身の意志で「妻売り」に出されることとなった。ソフィーは岳明軒の若さ、たくましさ、美貌に魅力を感じ、彼による競りに応じた。彼女は自由を愛する心と芸術への情熱を持ち続けており、新しい生活で再び夢を追求することを望んでいる。
2. アンナ・イワノワ(Anna Ivanova) - 23歳
- 出身地:ロシア、サンクトペテルブルク
- 略歴:アンナは文学と音楽に深い愛情を持つ知識人の家庭に生まれた。結婚生活は夫との価値観の相違により破綻し、経済的な苦境と共に「妻売り」の選択を迫られる。しかし、アンナはこの状況を新たな始まりと捉え、岳明軒の人柄と魅力に引かれて彼との競りに参加を決めた。彼女は新しい生活において、自身の教養を活かし、心穏やかに過ごすことを希望している。
3. エリザベート・シュミット(Elisabeth Schmidt) - 21歳
- 出身地:ドイツ、バイエルン州の田舎町
- 略歴:エリザベートは自然と動物を愛する心優しい女性で、結婚生活では夫との生活観の違いに悩まされた。経済的な問題も重なり、彼女は「妻売り」に出されることに同意する。岳明軒の誠実さと彼の持つ外見的な魅力に惹かれ、競りに積極的に参加した。エリザベートは新しい生活で自分の夢を実現し、動物たちと共に穏やかな日々を送りたいと願っている。
これらの略歴は、彼女たちが直面した困難や変化に対する彼女たち自身の選択と意志を反映している。彼女たちはそれぞれ岳明軒に対して魅力を感じ、新たな人生の始まりを迎える準備ができている。
今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。
後書き
このエピソードでは、岳明軒と彼の仲間たちが漢口の市場で繰り広げる交易の冒険を通じて、中国の豊かな文化と複雑な社会構造を描き出しました。オランダ人のエリザベート・ファン・ハウテンの交渉術は、中々見事なものでした。異なる文化や価値観が交差する場所での理解と共生の可能性についての探求の面もありましょう。また、「紫禁の夢」茶楼での一幕は、中国の伝統芸能への敬意を表しつつ、同時に当時の社会問題にも目を向けさせます。物語は、歴史の中で形作られた人々の生き方や思いを通じて、現代にも通じる普遍的なテーマを提示しています。