わたしは兎に角虫嫌いである。だから虫のいそうな場所には近づかない。虫の湧く環境も作らない。

一見きれい好きに思われそうだがそうではない。ただたんに、虫嫌いなのである。

あの日、朝一でスーパーに行き、無農薬コーナーで何気なくブロッコリーを買った。イメージした白い容器のパスタに、色物がないことに気付いたからである。さっそく頭の中は、白い器の中のパスタにチーズが絡まったブロッコリーが鎮座している。求めたブロッコリーは無農薬。わたしは密かにほくそ笑んだと思う。部屋に戻りドアを閉めロックをかけ終えたとき、大変なことに気付いた。横浜でシェフをしている友の忠告を思い出したのです。

無農薬のブロッコリーの中には、肉眼で見えない虫たちがうじゃうじゃいる。容器に水を張りブロッコリーを逆さに入れラップで蓋をすると、ほぼ虫は浮いてくるから、必ずそうするようにと。わたしは突然身の毛がよだった。虫・虫・虫・虫

ブロッコリーの蕾の中に蕾そっくりの虫が数えきれないほど・・・?わたしは失神寸前であった。

倒れそうな体を必死でこらえ、緑の塊をボールの水の中に投げ込んだ。ラップでしっかり蓋をした。

気づいたら衣類の上まで汗がにじんでいた。シャワーを浴びながら、わたしは我に返った。青いものなら

他にも沢山あったのにと。シェフの友は20分位でいいと云っていたが、気になって1時間も浸しておいた。これから虫たちと対面だが、中々覚悟ができない。何しろ数えきれないほどの虫たちである。

想像すると、また汗が吹き出しそうである。ラップにへばりついた大量の虫を見るなんてわたしにはとても出来ない。頭の中に描いていた美しく盛り付けられたパスタは、もはや彼方に消え失せていた。

左手の人差し指と親指は観念したかのように、ラップをつまんでいた。右手でボールを押さえ、一気にめくり上げた。どうしたことか!蕾に似た虫など1匹もいない・・・?さらに拡大鏡を使い、肉眼では見えない虫を必死で探したが、それも確認できなかった。何!何?

わたしはしばらくの間、緑の蕾の塊と、ボールの水面をただ茫然と見つめていた。やがてわたしの頭の中は、このミステリーの推理がにわかに動き始めた。あの日、農産物コーナーの売り場は買い物客でごった返していた。ひょっとしたら,誰かが別の場所から、つまり無農薬でない場所からブロッコリーをつかみ、無農薬コーナーにさしかかったところでメニューの変更を考え、もしくは衝動買いに気づき、持っていたブロッコリーを無農薬ボックスに置いたのではないか・・・そしてそれを、偶然にも、わたしがつかんでしまった・・・きっとそうに違いない。農薬済みのブロッコリーを買い求めたのだ。わたしはシェフである友の名誉のために、この解明が正しいと信じた。そのあと?頭に浮かんだ虫を一緒に流すかのように、ブロッコリーの塊をほぐし、何度も流水で洗い流した。そのあと冷蔵庫でいちじ保管して、食卓にパスタがお目見えしたのは、ランチにはおろか、ディナータイムになってしまった。もはやお腹は空き過ぎ、容器に移すのも忘れ、わたしはフライパンにかぶりついていた。