柚木麻子。

 ナイルパーチの女子会に続いて二作目です。




らんたん。

すごい(?)帯がついてます。


(ごめんなさい、写真が光っちゃってる…)

女子教育黎明期を駆け抜けたシスターフッド大河小説、なんて、なんだか難しそう?

鴻巣友季子さんは「文学の"正史"を批評的に書き換える傑作」だなんて、やっぱり、なんだか難しそう。
(鴻巣友季子さんの、「文学は予言する」って本も読みたいんですよね……)

うーん。でも。
パッと見の印象と違って、全然、難しくはないと思います。

恵泉女学園の創立者である河井道の伝記的な小説、ですね。

そして、この帯の裏側に「おおっ」となりました。


「女が手を取り合えば、男はいつか戦争ができなくなる」

すごい。

この言葉のように、河井道は女性同士、憎しみ合うことなく、手を取り合い、そして、惜しむことなく分け与える、シェアの精神で、女子教育に彼女のその人生を捧げたことが描かれています。

女子教育のことを考えて、女性が学べる場所を作ることを目指して、ついに学園を設立したはいいものの、そののち、日本では第二次大戦に突入、その戦争に翻弄されます。

とにかく、河井道は、「学校を閉鎖しない」(女子教育を止めてはいけないという)ことに重きを置いて、国から咎められないようにするため、望まぬ奉仕活動を受け入れたりするのですが。

そのあたりは読んでいても苦しいところでしたね。

戦争は良しとできない、だけど、あからさまに反対すればどんな仕打ちに遭うか分からない、学校の存続そのものが危ぶまれてしまう、そのために、一見、方針を転換したのか(戦争を容認している)と捉えられるようなこともするのですが。

読んでいて苦しかったですね。
(その苦しさ、葛藤の表現として使われてるのが有島武郎の亡霊、だと思います。有島武郎の亡霊が出てきて皮肉や嫌味のようなことを言って行くんですけど、それは河井道にしか見えていないんです)


時代は大正終わりから昭和にかけての物語ですが、今現代にも通ずるところがたくさんあって。
(おそらく作家が、意図的に、現代社会にも反映するような表現を心がけたのではないか、と思います)

心に残った本文を抜粋しますね。




「男の人の顔色を窺って、自尊心をなくしてビクビク振る舞うのはよくありませんよ。神様のもとでは、男も女もみんな平等なのだから。堂々としていらっしゃい」


「恐れが減る、ということです。学べば学ぶほど、なんだかよくわからないモヤモヤとした不安は消えていきます」


「それは私が優れているのではなくて、日本の教育がいけないんですよ。新渡戸先生がよくおっしゃってました。日本には妻と母と娘はいても、人間としての女がいない。女は男の付属品としてしか教育されてないからだって」


「それは個人が負わなければならない荷物のとても大きな社会だからです。日本人は全てにおいて、何か問題が起きたら、まず一人でなんとかしなくてはいけない。例えば家族に問題が起きた時は、家族だけで解決しないといけない。そんな風に思い込まされていませんか?」


異性と親しくなるのが怖いのではない。交際の始まりが自由を終わらせる日本社会の仕組みが嫌なのだ。


「日本の女性教育には、女同士の結び付きという視点が抜けている気がします。女同士が手を取り合えば、世界平和は必ずや実現するでしょう」


「差別も偏見も、教育によって正せるものが大きいと、私たちは考えています。日本はこの分野が劣っていますわ。特に女子教育の普及は著しく遅れています」


「母親を神様のように見てなんでもやれて当たり前とするのも、働く母親に育児は最初から無理と諦めるのも、私は両方間違っていると思う。社会全体がもっともっと母子の暮らしを手助けすべきだと思うわ」


「みなさん、一番身につけていただきたいのは、ありがとう、ごめんなさい、イエス、ノーを相手の目を見てはっきり言えるようになることですよ。我々日本人は、言葉に出して感謝すること、間違った時に自分の非を素直に認めて、学ぶ心が足りません。そして女性は、相手が誰であれ、こちらの意に沿わない時は、ノーと言う勇気が大切です」


「日本は戦争を一度ちゃんと反省する必要があります。すぐにまた、同じ時代がやってきますよ。音もなくそれはいつも静かに始まるのです」





ごめんなさい。
どこもかしこも切り取って伝えたくて、このままだと本文を全部、写し取ることになってしまいそう(笑)



私も常々、「シェアする」ということについて考えていて。

良いと思うことは、できる限りシェアしたい。

押しつけるでもなく、必要な人のところに、行き渡るように。

それは個人が個人的に行うことのように思えて、それぞれがその思いに至れば、それは社会の変革にもつながるのだと思います。


こんな記事もみつけたのでシェアしておきますね。


山内マリコと柚木麻子の対談。
この「らんたん」を書くにあたって取材中だった?っぽいところも話されてます。
(私はすでにらんたんを読んだので「おぉ!」とちょっと体温上がりましたけど)

山内マリコで読んだのはコレ。
 ↓


すごく良かったですよ、これも。

この2人の対談を読んで、また彼女たちの小説を読みたいな、と思いました。

読みたい本が目白押し!
(今、読んでいるのは「海辺のカフカ」、このあともすでに待機している小説がたくさんあるのです)

ただそれだけのことが、今、すごくワクワクしてとても幸せなことに思える!

こういう瞬間って、大切にしたいですね。