爺とNが来る日、草刈りの続きをやっている時に、前日刈った所で獣の糞を見つけた。



 この辺は本当に野生動物や野鳥が多い。

 渓流で出会う事のある動物の殆どは、この家の脇を流れる小沢とその周辺で見る事ができるが、

 爺の母上が亡くなった時には、サルとキジ、そして犬の代りにカモシカが敷地の中まで弔いにきたそうだ。

 そんな動物たちとの遭遇も、この村に来る楽しみとなっている。

 ところが、クマに関しては皆が口を揃えて沢山居ると言うのだが、--実際に肉を分けてもらったこともある-- 意外にも爺でさえ見た事はないと言う。

 その理由は、前日に行った森を見てなんとなく判った様な気がした。

 恐らくあの広大なブナの森には食糧が十分にあり、危険を冒してまで里に出て来る必要がないのだと思う。

 
 そうこうしているウチに爺が到着し、あり合わせで昼食を準備して一緒に食べた後は、やっぱり自分が一度掃除した所の掃除を爺が始めたので、少し早めに家を出て、買い出しがてらNを駅まで迎えに行った。

 途中の美しい田園風景や山や川を眺めながら片道1時間の道のりの峠道を車で走るのも爽快だ。

 荷物を降ろし、一服した後、少しだけ夕方の釣りをする事にした。

 最後の集落よりちょっと上流の、橋がかかり入りやすく、ゆっくりやって2時間も釣り上がれば大きな滝に遭遇する、多分多くの人が入りこの川でも一番厳しい区間かもしれない、そんな場所を案内した。

 川におりてから早速ポイント一つ一つを丁寧にさぐるNに、

 本気でやるのは一尾走らせてからでもイイんじゃ!

 と、先輩風を吹かしてみる。

 でないと、暗くなる前に滝にたどり着けないし、この区間は途中で出る事もあるだろうけど、本命は滝から下の五段くらいという予想は、実際その通りになった。




 滝より下の大場所が見えて来た所でNが一尾バラす。







 でも、それでいいハズ。最後の滝で釣るのは難しくても、ここから本気をだせば......





 Nにとって人生初のイワナは、羨ましいくらいの良型だった。

 この一尾は本当に大きかった。

 自分も肩の荷が降りたし、たぶんNも明日の釣りでは、釣れない時間を我慢しつつ、きっとイワナが釣れる事を信じて楽しみながら溯行できる心のゆとりが出来たと思う。

 Nは最初、イワナを一尾食べたいと言っていたが、自分で釣ったイワナの顔を見て、そんな気は失せてしまった様だ。

 食い物なら他にある。写真と土産話をお持ち帰りだ。



 ご機嫌なNは爺とも打ち解け合い、良かった。

 本当に良かった。



 あれ、この二人、意気投合してる??

 もしかして俺、ジェラシ-???





 飲めない爺と、酒癖がめっぽう悪いNと、ごく普通な自分の3人の酒宴は、

 爺の頭が変な動きを始めた頃にフェードアウトし、
 

 自分とNも取水されて減水した沢の、か細い音を聞きながら眠りに落ちた。








 そして夜が明けた。本命の沢に行く日だ。



 




 ③に続くハズ

 



 カミさんと結婚して16年、初めて爺(義父)から手紙をもらった。

 少しドキドキしながら封を開けると、そこには田舎の家の鍵とビール券が同封されていた。

 手紙の内容は、田舎の家の水道の元栓の事、山から引いている清水の事、プロパンガスのホースがネズミにかじられていないか確認する事、冷蔵庫やコーヒーメーカーの事......

 解っている事だけだった。

 むしろ、便所の汲取や、敷地の草刈りの細かい段取りを書いてもらった方が助かったのだけど、あてにされていないのか、爺なりの遠慮なのか。






 ともかく、ひょんな事から今年のお盆は、自分が爺の田舎に前乗りして、その後に爺と自分の友達でもあり、20年近く仕事の付き合いがあるNが合流する事になり、全く血の繋がらない3人で、山の根の古い小屋で同じ釜のメシを喰う事になったのだ。



 その田舎の事は、何度もこのブログに書いてきたけれど、木工職人であった爺の父上の工房を兼ねた家であり、






 15才で雪道の中を布団を担いで駅まで三時間の道のりを歩き、東京に出て来た爺が育った家だった。


 爺は、それから東京で半世紀以上に渡って、消防車を作る仕事を続けた。

 一度リタイアはして別職に就いてはいるが、また戻ってほしいと嘆願されている様だ。

 自分の父と同様に尊敬するもう一人の父でもある。


 そんな爺からの初めての手紙は、少し拍子抜けしたけれども、田舎から帰って来た今、大事にとって置こうと思い引き出しにしまった。





 田舎での初日は、汲取・草刈・掃除を済ませ--多分、職人気質の爺が気に入らない所はやり直すだろうけど--すぐ下の川を下見に行った。




 意外にも渇水気味で、良いときならすぐに何尾か釣れるのに、ウンともスンとも言わない。


 Nは釣りを楽しみにして来るのにと、少し不安になった。






 翌朝はNを連れて行く予定の沢の入渓路を下見に行った。

 なぜなら、何年も歩き、走り廻ってやっと去年見つけたその沢の入口には、その時は先客がいて断念した為、自分もまだその沢を見ていないからだ。

 が、やはりこの沢は隠れた人気がある様で、またしても首都圏ナンバーの先客が居た。

 自分はこの日釣り上がるつもりはなかったのでそれは良いのだけど、それだけ人が入っているとなると、本当に釣れるのかどうか不安になった。

 同時に、こんなイナカの山奥に、決してメジャーではない支流の源流部に、どうしてこうも人が来るのか、それにはそれなりの理由があるのじゃないかという期待も膨らんだ。


 その理由はすぐに解った。

 文句の付けようがない渓相と水量。




 典型的な美渓にある蒼白さはないが、この辺の沢に共通する粘土の様な茶色い岩盤や赤い石が、周囲のブナやトチといった広葉樹の緑と合わさりとても奥深い色彩だ。




 水の力強さはあるけれど、荒々しさは全くなく、むしろ女性的な穏やかな沢だ。

 しっとりとした熟女の美しさを持ったこの沢は、きっとどんな釣り人をも癒すのだろう。

 そして現に、自分の心も既に鷲掴みにされている事をはっきりと感じた。


 但し、釣れるかどうかは別の話。

 試しにすぐ出会う薮沢に入って竿を出してみたが、想像以上に厳しい。

 2時間程溯行してたどり着いた俺止の滝の出会いの数段下では良い型も見たが、結局一尾バラしただけ。




 魚影も殆ど見られない。



 これはホントにマヅイかもしれない。


 出会いにもどり、本沢の様子を聞くために先行者を追う事にした。

 やはり魚影がない。

 ところどころで竿を出すが、何の反応もない。


 もちろん後追いと言う事もあるけれど、それにしても、相当人が入っているか、良い時期が過ぎてしまったのか、その両方なのではないかと思った。


 先客に追いついた。


 丁度、程よい大きさの淵を、餌釣りで探っている所だった。


 下からそうっと覗いていると、見事6~7寸程と思われるイワナを釣り上げ、それを見届けた所で、自分は此処で引き返す旨を伝えつつ挨拶をして話を聞かせてもらった。



 やはり今朝一番に入ったその方にとっても、相当厳しい状況だったらしい。

 だけれども、少し魚が出て来たから、ここから先はあなたがやりなさい、とその初老の先行者の方が自分に勧めてくれた。

 もう引き返そうと思っていた所だとは言っていたが、恐らくは話の中で、偶然にも自分の実の父と同郷だったこともあり、後から追いかけて来た自分を気遣ってくれたのだと思う。

 その先は、Nにとって置くべき場所であり、自分は竿を出してはいけないとは思いつつも、折角の好意を無下にする訳にもいかず、そこから少し竿を出して見た。


 その場所は、今思えばその沢の核心部だったのだろう。

 先行者が居なくなったこともあるだろうけれど、あっと言う間に良型を含め、3尾釣れた。





 これはいける。Nとこの沢で釣りを予定している二日後はこの先で十分釣れる。

 そう確信して、竿をたたみ、沢を降りた。


 自分は未だに、今は亡き実の父にも見守られているのかもしれない。

 そうだ

 きっとそうだ



 たぶんそうだ。


(たぶん②に続く)


 ひっそりとした出会いに降り立つ。

 沢に入り、すぐに小さなイワナが釣れ、そこそこの型も毛鉤を見に来る。

 なんだ、今日はいい釣りになりそうじゃないかと思い、丹沢でも最大級の落差を誇る大滝を見に来たなんて、見え透いた言い訳をする必要も無さそう。


 でも、ご本尊様にお目見えする前に最初の二段滝で洗礼を受ける。

 簡単に登れる下段を登ると、上段は右端の横向きの水流を登るのだろうけど、中央の水をもろに被り、初っ端からビショヌレ。




 次の滝もなかなか立派だ。これはもちろん巻き。





 良いポイントも多い。




 だけど、この沢を含めた丹沢の沢だけじゃなく、今年の大雪のせいでどの沢も倒木だらけ。




 実際に竿をだせるポイントは半減している印象だ。その分、魚は残るだろうけど。





 最初の思惑はどうやら外れた様で、上流では流れに出ているイワナなんて一尾もいない。

 隅をついても何も起こらない。

 隅の隅をつけば何か動いた様な気がする。

 なんども毛鉤を打ち込み、隅の隅の隅に入った時だけイワナが顔をだす。

 だけど、新参者に釣られてたまるかといわんばかりに決して咥えない。

 何匹か、子供が差し出されるだけ。酷い親達だ。



 なるほど、丹沢の釣師が釣りが上手いのは、

 それは確かに、良いタイミングに出会えば良い釣りになる事は自分も経験済みだけど、

 殆どはこういう状況の中、そして決して楽ではない溯行をしながらもネチネチと...いや地道に一尾ずつ釣ることを強いられているからなのだろう。






 この上に行けば、ご本尊様に会える。





 もう一度お清めをした後、大滝と空を眺めた。







 お昼前にはゲートに戻る。


 masuturiさんと同様に丹沢の良きサンバイザーもといアドバイザーになってくれる 相模の釣師 の車を発見。


 イタズラに悩まされている様だ。




 犯罪です、やめましょう。


 他の沢の下見なんかをしながら、相模の釣師が戻って来るのを待った。

 熊鈴をつけた熊が降りて来たと思ったら、相模の釣師だった。


 帰り道の喫茶店でコーシーデートした。



 キャラメルがけのバニラアイスを注文する釣師を横目に、男がそんなもの注文できるかと、




 ケーキもついたセットを頼んだ。


 沢の話、イワナの話、女の話......はなぜかこの日はなかったけど。



 丹沢は

 釣りも釣師も面白い。








 

 





 





盛夏

 とは云え来週には秋が立つらしい。

 その前にあの釜に行ってみようと思い立ち、いつもの川に行く。

 取引先の関係で仕事がピークの筈のNに奇襲的な宣戦布告を一応しておく。

 その通ラズの釜は、道路から急斜面を直接降りることも出来るのだけれども、通ラズなのだからそんな事をする人はそうそう居ない筈だ。

 だけど今年はずっと水量が多くて、その下の淵もずっと通れないでいた。

 だからその釜は殆ど手付かずの筈なのだ。

 そしてなにより、バケモノサイズを(ルアーで)バラしたと云う苦い思い出が其処には残ったままだ。

 今日は泳ぎ覚悟で突入の日だ。


 が、その前にちょっとだけ上流に。

 前回大きなヤマメを掛け損ねた岩盤沿い。




 全く同じ場所から前回と同じく打った毛鉤にゆらりと魚が浮いて来て咥えたけれど、大ヤマメはお腹の黄色いイワナに入れ替わっていた。



 真っ黄色と云うほどでもないのはこのイワナが此処に居着いて日が浅い事の証かもしれないと思った。


 下流に戻り、釜を目指して釣り上がる。

 大きくはないけど、綺麗なヤマメが程よく釣れる。





 ちょっとしたイケメンも。




 チビイワナも。



 上流に釣り堀モドキがあるので、時々コイツが釣れるのはご愛嬌。



 毛鉤を咥えるのがヘタクソなクセに、何度でも出てくれるので楽しい遊び相手。

 釜の手前の淵はまだ水量が多いものの、胸まで浸水で歩けた。




 泡に包まれた天国への階段を登った......






 筈だったが、

 結局そこから本命の釜も含め、一度だけ8寸程のヤマメが毛鉤を見に来た以外は何も起こらなかった。


 Nからの電話が鳴り、少し上流で釣り始めたらしい。

 道に上がらず、Nを追いかけて通ラズの釜を泳いで滝に取り付いて登った。




 雷鳴が聞こえた。

 空は相変わらず真夏の青空だけど、少し濁りが入ってきたのは、上流での降雨のせいかもしれない。

 合流したNにも良型が釣れたらしく、満円の笑みを見せてくれた。

 夕方まで二人で釣りを続けた。

 吹く風は、


 少し秋の匂いがした。




 


 涼とイワナを求めて沢に行ったが、あまりに釣れないのでそのまま沢を詰め、山頂を目指した。

 大滝は登らずに。そのまま登山道に廻ろうかと思ったが、良い巻きルートがあったので、楽チンに越える事が出来た。




 癒しのナメから暑中お見舞い申し上げます。





 まだまだしっかりとした流れがあるのに、突然壁にぶつかって姿を消す沢。谷の形状がないので、たぶんその上にはもう流れはないと思う。

 そんな最後の最後の流れの中にもイワナは居たのには感動した。



 どうやってココまで来たのか。

 どこから来たのか。

 色々と理由はつけられるけど、このイワナがこの沢の固有種であって欲しいと思う。



 


 山頂近い開けた場所の登山道は、ほとんどハイキングコースの様で歩きやすい。


 
 日差しは強かったが、開けた山頂には心地よい風が吹き、眺望も良い。

 富士山が綺麗に見えた。





 そして山ガールが沢山いるというあのウワサはホントだった。



 山頂で写真を撮ってもらったり、とってあげたり....



 釣りなんかよりよっぽど楽し....



 触れ合うほどの関係には発展しなかったイワナと山ギャル。

 でも、見てるだけでも十分楽しい。




 ホントは触れ合いたい。


 イワナだけでも。




 




 


AM3:19

中央道北野SA

隣にヘンなリムジンが止まった。




後で調べたら、どうやら長野のご当地アイドルらしい。




なんでコスプレ衣装のままでトイレ休憩なのか解らないけれど、

きっと長野に帰るんだ。ご苦労様。

長野にはみんなお世話になっているんだから、応援しよう。

アイドルユニット パラレルドリーム


パラドリ




世間は三連休の最終日、ヒルのいない方の丹沢に行った。




入渓まで、一時間ほど歩いたが、

少し出遅れてしまったのか、既に石の上に濡れた足跡。

上からは昨日からのテン泊らしきの4人組。

しかも一人は子供。大人だってヘコたれるこの谷にガッツがあると思う。、

少し話を聞かせてもらったけど、釣りの状況は厳しそう。


だけど今日の目的は、まだ入った事のない谷の滝を見る事。

という言い訳を最初に作っておけば何も問題ない。

それに、残り物には福があると言うし、流石に三連休の最終日じゃ数は釣れなくても、

一発デカイのがガツンと.....



ガツンと.....






結局、今日釣れたのは小さいイワナだけ片手程。

結構大きなイワナも出て来てくれたのに、

大きな毛鉤に拘りすぎたのか、

やっぱりアワセが早すぎるのか

そもそも、鈎がナメてたのに気付かなかったりとか、

それ以前の問題なのか

釣りの事は反省することダラケ。



巻きが怖かったり、寂しかったり、足が辛かったりで

二度と来てやんねぇ!って思ったり。


でも来ちゃったんだから、帰らなきゃ行けないし、

その前にやっぱり滝は見てみたいし。



急勾配の谷は、途中水が枯れかけたが、滝を信じて登った。

最後に姿を見せた滝は、期待以上に素晴らしかった。







神様仏様小谷様


残り物には福があるってのはホントなの?



でも、ちょっと辛抱すれば、福は来る。

谷はこんなにも

辛くて

愉しい




さすがにこれは、水がちべたすぎて




ムリムリ!!













梅雨前線が北上し、夏日となった。

週末には南下して、また雨になる様だけど、梅雨明けが近いのかもしれない。

日中のヤマメ釣りはそろそろ厳しくなるだろうと、先週の平日に一度ヤマメ釣りに行った。

カミサンの扱いと同様に魚の扱いもヘタクソな自分の為にネットを携えて行った。





大場所の、あまりにも好すぎるポイントから大物が何尾も現れたので驚いた。

だけど、渕尻近くの比較的浅い所に着いているヤマメは一発勝負。

カミサンの扱いと同様にキャスティングがヘタクソな自分の鈎には掛からなかった。

あの魚達を釣るか釣らないかが、上手い人とヘタクソの境界線だと思う。

もちろん、適当に振り込んでも、たまたま良い場所に入って釣れる事はある。

だけど、ソコに居るだろうと振り込んで、やっぱり魚が出たまではいいけど、掛けるのか、掛けられないのか、キャスティングが命だと言う師匠の言葉が身にしみる。

ネット入魂は可愛いヤマメとなった。





まだまだヤマメが釣りたい。

夕マヅメに絞ってやれば良いのかもしれないけれど、高くなった高速代、そんな贅沢も出来ない。

暑い夏の休日は涼しい沢でイワナを釣るのが良いのかもしれない。

それはとても贅沢な休日の過ごし方だと思う。


そして、もっと贅沢なのは、

今日の様な夏日にの夕方に、綺麗に洗われた底石の上で心地良い風に吹かれながら、遊ぶ事。




風呂上がりのビール以上に至福の時間。





もとい、ビール同等に至福の時間。


真っ黒な顔が夏の証である事は、少年もオイカワも同じ。




日が沈んだころ、それを確かめ、竿を畳んだ。

同時に、自分が釣る荒瀬より少し上のフラットな浅瀬では雨の様なライズが始まった。




そしてどこからともなく、蝙蝠が乱舞し始め、時々着水するのは、オイカワを狙っているのだろうか。

だけど、掴めている様子はない。

今日のところは、蝙蝠より自分の方が一枚上手だったみたい。




桃源郷は此処にもある。



ユートピアは、あるのだろうか。









 丹沢のダムより下の広々とした川原で、10m毎に並ぶ鮎師の竿先を眺めながら、この辺のナイスなルアーメン6人と一緒にひたすらビールと焼酎を飲んだ。

 釣りの話もしたけどエッチな話もした。

 女子高生のグループにナンパされ、一度断ったが、2回目のアタックには快く応じた。

 が、彼女らの目的は我々ではなく、我々が飲んでいた発泡酒の缶だった。

 集めている理由は良く覚えてないけど、なんかの活動の資金か、もしくはボランティアなのか、ともかく日本の未来は明るい。

 発泡酒の缶、とは言ったけど、美味しい生ビールや焼酎も振る舞われ、我々の顔も明るかった。

 絶妙に焼かれた肉や野菜を喰らいながら、ひたすら飲んで話しをした。

 鮎師が帰った後、ちょっとだけカワムツを釣った。

 オイカワとカワムツの分布についてはは諸説あるけれど、カワムツが鮎の放流に混ざってこの辺に住む様になったと言う話は本当かもしれない。



 その後もひたすら飲んで同じ話を何度も繰り返した。

 満月が雲の中から姿を見せた。

 総勢7人うち、3番目に脱落したのは不本意だったけど、あっと言う間に眠りに落ちた。



 翌朝目が覚めて、鮎師が来る前にと、少し竿を出した。

 少し下から、テンカラ釣りの老人が上がって来た。

 ジャージ姿で、竿は2間ほどの渓流竿、4尺くらいのハリス分がバカで、その先には少し大きめだけど、綺麗な毛鉤が結ばれていた。

 自分が釣っていた、石の後ろの少し緩い流れに毛鉤をポンと落し、ちょんちょんと誘いながら手前に引いていた。

 魚は出なかったけど、大先輩に川で会え、話を聞けるということは嬉しかった。


 老人が川をでた後、今度は自分の毛鉤にオレンジ色が翻った。

 しつこく毛鉤をながすと、最後には婚姻色のカワムツが掛かった。



 手にとる前に、勝手に鈎を外して帰って行ったが、みんなに見せたい魚だった。


 ヤマメじゃないけど、見せたかった。




 


 
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(相模の釣師ちゃん撮影)


 
 





そしていつもの川に行った。

今日のヤマメは毛鉤を咥えるのがとても上手だ。

水面直下に流す、大きな毛鉤に、すぅーと浮いて来て、行儀よく咥える。

ヘタな操作をするよりは、魚に任せた方が良い日だった。

 








午後には雨が降り出した。

下界には、平日に釣りをする人を呪う人がいるらしい。

むしろ好都合だと思ったけれど、

さっきまで、どこからでも、何匹でも出て来たのに、

出なくなった。

たまたま底に流れた毛鉤にはヤマメが着いて帰ってきた。


ハイデガーが釣り人だったなら、

 「魚をたくさん釣る人は、どうすれば釣れるという事を知っているが、なぜ釣れるのかということを知らない」

と言ったのかもしれない。


理由はどうでもいい、釣り方を教えろ、と素人は思うが、

古くから、釣り方は魚に教えてもらえ、と言われているらしい。


今日は良い先生が沢山いた。

いつもそうとは限らない。


雷鳴が聞こえて、竿を畳んだ。