宮本浩次さんの存在をきちんと認識したのは、20代の頃。
わたしの敬愛する人が大好きで、宮本さんの魅力を熱く語ってくれて、エレファントカシマシのお勧めの曲などを教えてもらった。


そう、まるで宮本さんのあの情熱が伝染るかのように、その存在を誰かに「熱く語りたくなる」ような魅力を持っている方なのだと思う。
現に私も今、こうしてバングラデシュの夜中に何か抑えきれない気持ちを抱えながら、ここに記している。

聞いてすぐに、その情感溢れる歌声と繊細で文学的な歌詞と力強いロックサウンドが織りなす唯一無二のバンドの音楽に惹かれた。
「エレカシは音源も良いけどライブがとにかくすごい!」と聞き、どうしても生のエレファントカシマシのパフォーマンスを見に行きたくなって…そして見に行った野外フェス。

もう、音が、歌声が、パフォーマンスが、桁違いだった。

初めて生で聞くエレカシの音は、なんというか…すごく、太かった。
バンドサウンドの結束がまずすごくて、中学生時代からのクラスメートというメンバーさん同士の精神的な絆はもちろんあるにせよ、そこには血の滲むような練習や試行錯誤があったんだろうな…と想像できるような鍛え上げられたバンドサウンドだった。


そして驚くべきが、その力強いバンドサウンドのど真ん中を貫くような宮本さんの声。

すごかった。
鳥肌が立った。

有名な歌手の方も沢山出ていたフェスだったけれど、正直他の方のパフォーマンスが記憶から吹き飛んでしまうくらいの鮮烈さだった。
というか、野外フェスのような大きな会場で聞いてみると「あれ、CDの音源となんか全然ちがう…」と感じてしまうアーティストさんやバンドもいて、多くの場合はバンドサウンドにボーカルの方の声が負けてしまっているというか、後からついていっているような感じだった。

今、自分が曲がりなりにも音楽ユニットを始めて、様々な会場で歌ってみて、あの野外フェスであれだけの歌声や演奏ができる実力の凄さが身に沁みる。
エレカシの場合は骨太なバンドサウンドに負けない野太い歌声を、宮本さんがあの華奢な身体から絞り出していて、「声」が一番主役として輝いていたことに度肝を抜かれた。


そして、驚いたのが、その日のセットリスト。
「今宵月のように」から始まり、「風に吹かれて」や「俺たちの明日」など、広く知られている名曲が歌われた中で最後にきたのが…「ガストロンジャー」。
知る人ぞ知る、NHKでは放送禁止となったという過激な社会風刺と言われている歌だ。

大盛り上がりだったフェス会場は、若干の動揺とざわめきに包まれ、その日のエレカシの出番は終わった。
気持ちの良い青空の下、盛り上がりに来た若者たちはカウンターパンチを食らった様な異様な雰囲気もあったが、私は宮本さんの眼光の鋭さと、ラップのように骨太な思想を語るアンバランスさと、そして何よりあの平和な会場に一石を投じた宮本さんのその勇気と男気に逆に魅了されてしまい、拍手を贈り続けた。

手拍子や拍手が禁止だったとか、歓声があがると怒られたとか、初期のエレカシのライブには伝説のようなエピソードにつきないが、あの日、
「もっと力強い生活をこの手に!」
と、必死の形相で魂の叫びを観客に届けようとする姿を見て、大ブレイクした後も宮本さんの本質はずっと変わっていないのだと感じた瞬間だった。


「奴隷天国」や「ガストロンジャー」などはやはり賛否の別れる歌ではあると思うが、私は宮本さんからの最高の応援歌だと思っている。

宮本さんの本質が変わっていないように、歌を通して伝えたいことは変わっていないように思うからだ。


「己の道を、胸を張って生きていこうぜ…!」


これにつきるのである。
ただ、伝え方が厳しいか、優しいかという違いだけで、宮本さんの書く歌詞は根本がそこに繋がっている気がする。

そして、時は流れてわたしは今、バングラデシュで生きている。
昔のように、ライブで宮本さんを見に行けない。
行けないけど…

いまだに、前に進む勇気、負けてたまるかという気持ち、希望を捨てない意志、そして、胸を張って生きること。
そうしたポジティブなものを、宮本さんの歌からいただいている。

嬉しい時、幸せな時、音楽はそんな気持ちを更に盛り上げてくれるものでもあり、そうしたハッピーな音楽も私は大好き。
自分にとってクラシックも疲れた時や悲しい時に心を癒してくれる魔法だし、バングラの古典音楽も最近は休日に興味深く聞いていたりする。


しかし、エレカシの、宮本さんの歌は、人生のしんどい時、辛い時、悔しい時、孤独な時、もう駄目だという時…

そう、ギリギリの時に、いつも私の心に寄り添ってくれる。
寄り添うだけじゃなく、胸を張って生きるために背中を押してくれる。

実際に、生きていると、やるせない気持ちになることが多々ある。
家族や仲間や、良き理解者が私にはいる。それには本当に感謝している。
でも人生の本当に辛い問題には、一人で立ち向かわなければならない時がある。


みんなそうだと思う。
夢と仕事、理想と現実の狭間、大切な人を失う悲しみ。
人生には困難が尽きなくて、どれほど周囲に恵まれていても、孤独の中で奮闘しなければならない時がある。
自分の無力さ、この世界の理不尽さに打ちのめされて立ち上がれなくなるような時もある。


そんな時、きっと人によって聞きたくなる音楽はそれぞれなのだろうけど、私は何故か宮本さんの歌が聞きたくなる。
宮本さんを見ていると、何故か涙が出てくる。

心が震える。
全身全霊で生きることの美しさを改めて教えてくれる存在。


最近は、この「昇る太陽」を聞いて自分を鼓舞しています。

バングラデシュの生活の中で、自分自身の道を見失いそうになる時に、雑踏の中で、一日の終わりに、この歌を聴くと

「昇る太陽道を照らせ 輝く明日へ心導いてくれ」

という歌詞のように、不思議と心が、自分が、光の方へ導かれてゆくのを感じます。


ソロ活動も増々充実されて、素敵な歳を重ねられている宮本さん。
わたしも宮本さんのように挑戦し続け、成長し続け、そして何より胸を張って全身全霊で生きる大人でありたいと思います。

オフシャルのMVも素敵だけど、私はこのライブバージョンが好きです。
いつかまた、宮本さんのライブに行ける日がありますように…!