小さな頃からお着物の柄を見るのが大好きでした。
生地の中に広がる麗しく優雅な世界。
祖母が踊りをしていてお着物が好きだったため、我が家には普段着用の小紋から踊り用の色鮮やかな着物、立派な訪問着まで、様々な着物がありました。

たまに小紋を着てお気に入りの喫茶店にお出かけすると、自分が大正浪漫の中にいるお嬢さんになったようで嬉しかったり
お呼ばれの時に訪問着を着ていくと背筋がしゃんとして仕草も貴婦人のようにおしとやかになれたり
お着物は、いつも私に「いつもとは違う自分」と「ささやかな非日常感」をくれました。

沢山ある祖母のお着物を着ていたので私は自分のお着物を持っていなかったのですが、私がバングラデシュへ移住するとなった時に、小さい頃からお世話になってきた近所の呉服屋さんにお願いをして、母が私のためのお着物を仕立ててくれました。

淡い桜色に幻想的なお花が散りばめられた、ため息がでるように美しい丹下友禅のお着物です。

嬉しくて嬉しくて…
日本を発つ前に、いつも応援してくださっている方々との最後のイベントの時に着ました。

バングラデシュに持っていきたいな、とずっと思っていたのですが、住み始めてから数年は生活に必要なものでいつも日本からのキャリーケースがパンパンでお着物を運ぶ余裕はなく、
息子が生まれてからは赤ちゃん関連のものやお世話でいっぱいいっぱいで自分の荷物どころではなく、
また現地のもののみで生活できるようになってからもエクマットラ関連の運ぶものがあったり、
「バングラデシュは湿気が多いから着物が黴る」
と管理の大変さを大使館の奥様方から聞き、なかなか持ってくることが叶いませんでした。

しかし、前回春に帰国した際は息子と一緒で荷物も二人分でしたので、なんとこの十年で初めて、必要なものを全て入れても荷物容量に空きがあったのです。
以前のように食料も衣服も生活品も、日本から持っていかなくても、現地にあるもので十分、と思えるようになったのも大きいのかもしれません。
今回こそ、あのお着物を持って帰ろう!と決意し、大きな箱ごと持って帰ってきました。

正直、持ち帰る時は着る予定があったわけではありませんし、昨年在バングラデシュの日本国大使館から表彰いただいた際には「あのお着物があればなあ…」と思ったものです。

しかし今回、第三空港ターミナルのオープニング式典という国家プログラムに出演できる光栄な機会をいただき、国を代表する方々の前で舞台に立てることとなり、
ずっとバングラデシュに持ってきたかった…
ずっとこの国で着たかった、大切な私の丹下友禅を、日本が建設した美しい空港で、素敵な晴れ舞台に着ることが叶いました。

人と人との「縁」があるように、着る物や身に付けるものにも「縁」があると思っていて
何年も日本で眠らせてしまいましたが、今年また袖を通せたことがとても嬉しくて
これからもこの国で、日本人表現者として舞台に立つ際に着る機会があることを願います

長くなりましたが、私と着物の物語、でした。